第四話『進出』
瑞土大陸首都『瑞土市』
六日後、大陸の『解放』を終えた派遣団は次に大陸開発に乗り出した。既に首都に認定された瑞土市の開発は完了し、移住者の受け入れが行われていた。最終的には3000万人を受け入れる予定である。
他地域でも開発は行われ、建設ラッシュが相次いでいた。瑞土市の中心に新たに作られた赤煉瓦調の建物、総督府では新たに会議が行われていた。
第9001植民惑星総督府
「それではこれより会議を始めたいと思うが、私に何か報告することはあるか?」
優輝の問いに対してその場の何人かが挙手し、彼は発言の許可を与えた。
「情報部の谷崎です。『海燕』による聴音と文部省外国語課の翻訳によりある程度の地理と現地の状況がわかりました」
谷崎は自身の持っていた端末を操作し、机に埋め込まれていた立体映写機から瑞土大陸西側直近の大陸の画像を映し出した。
映し出された大陸の画像には線が足されており一目でそれが国境線であると認識できた。
「まず我々の大陸から最も近い大陸、現地民からは『エルジア大陸』と呼ばれている大陸の東端にある国家『ビストリア連合王国』。国家元首にはヴィストロイドの国王を置いている絶対王政の国家です。国内は非常に安定しており、主に貿易業で収入を得ているようです」
東側に青のマーカーで半島と内陸の一部が塗られた。領土の大きさで言うとフランスとスペイン、ポルトガルを足したぐらいであった。
「続いてその北にある『リングガンド連邦』。この国家は各首長による議会によって動く国家群であり、主要産業は鉄鋼業のようです。又、この国家では多数の資源が産出されるようでこれからの有望な取引先となるでしょう。主な種族はショートロイドが占めています」
その北側にカザフスタンと同規模の広さの領土に黄色のマーカーが塗られた。
「両国との国境に面する『ウッドガルデン王国』。主に農林業が盛んな国で、農作物の輸出で外貨を取得している模様です。先の二カ国とは『東部連合』という同盟を組んでおり友好関係にあるとのことです」
その二つの国境と接するようにあるロシアを除いたワルシャワ機構加盟国全体と同じ面積の地域が緑のマーカーで塗られた。
「そしてそれらの国と緊張状態にある『コンキスタ帝国』。この国は現在も拡大政策を続けており、その無理のある拡張によって国家と国民は疲弊しているようです。しかし現皇帝は拡張政策を止める気は無く、いずれ内部崩壊が起きる危険性があります」
カナダとアメリカを足したぐらいの領土に赤のマーカーが塗られた。残りは中小国か無人地帯だと推測できた。
現在わかっている範囲ではコンキスタ帝国を除けば比較的御し易いと考えられた。
「次に軍事面についてですが、コンキスタ帝国を除く三国では黒色火薬同程度のモノの開発に成功しており、前装固定式の火砲とマッチロック式(火縄式)の銃が配備されているようです。またそれに応じて海上戦力にはガレオン船を主力に置いています。更に空軍戦力としてワイバーンと呼称される飛竜を配備している模様です」
大凡予想がついていたそれらは特に注目されることなく淡々と説明がされていった。
「対してコンキスタ帝国はこれらの国より発達しておりライフル砲を実用化させています。更には蒸気機関を乗せた艦船も確認されています。銃器については前装式のパーカッション式ライフルを全部隊に行き渡らせているようです。空軍戦力については特に変わらないようですが、数が多く推定1000機程度と思われます」
当事国の者が聞けば卒倒するような重要機密の数々が皇国の諜報技術によって全て明かされた。谷崎は報告を終えるとそのまま席に戻った。会議に参加していた者たちはあらかじめ根回しをしていたため特に驚いた様子も見せなかった。
続いて装備省と書かれたバッジをつけたスーツ姿の男が立ち上がる。
「装備省の小田です。情報部からの報告の結果、輸出する武器及び兵器の選定が終わりました。主に古代地球文明の遺産を元に選びました。お手元にある資料に記載しましたのでご覧になってください」
資料には古代地球文明で活躍した名品が数多くリストアップされていた。
皇国軍からすれば骨董品も良いところだが、販売対象を考えれば十分と言えた。
「基本的には古代地球文明で言うところの第二次世界大戦から最大で湾岸戦争直前までとし、その年代に生産された兵器類を輸出する予定です。既に生産するための設備は整っています」
「一通り見たがこれなら問題ないだろう。このまま生産できるよう手配しておいてくれ」
その後も会議は続き、遂に世界へ進出することがこの日決定された。
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ビストリア連合王国東側海上上空
王立空軍第12飛竜隊第3小隊4騎は王国領海東側の海上上空を飛行していた。近年西の隣国ウッドガルデン王国を挟んだ先にあるコンキスタ帝国と戦争機運が高まっている中、ビストリア王立空軍は哨戒騎を増やし警戒網を敷いていた。
「こちら第3小隊、これより帰投する」
第3小隊の隊長である狼人族の男、エオルドは他の僚騎共に高度2000メートルを飛行している。彼は愛騎であるワイバーンを信頼しており、この大陸において使役できる生物に限ればワイバーンこそ空の王者に相応しいと考え、それに跨る竜騎士こそ最強の戦力と自負する男だった。
しかし、その自信は脆くも崩れ去ってしまう。
「何だ?あれは…………ッ!?」
東の空から見えた三つの影、よく目を凝らしてみるととてつも無く巨大な鉄塊が信じられない速度でこちらに近づいてくるではないか。しかも敵騎?は自分たちのいる高度よりも高空を飛行している。
彼以外の隊員達も異常事態に気づき、ワイバーンの騎首をそちら側に向けた。エオルドは魔導通信機を通じて本部に緊急電を送る。
「本部!こちら第3小隊!東側より国籍不明騎が接近中!数3!」
『こちら本部、もっと具体的に言ってくれ。相手はワイバーンか?」
「そんなモノじゃない!アレは……」
言葉を続けようとしたとき、ソレは彼等の頭上を通過しようとしていた。
全長が目測では測れないほど巨大なソレはこちらに興味を示す素振りも見せず通過して行く。エオルドからすればそれがただ屈辱的で仕方がなかった。
だが自身の職務を忘れる事なく果たそうと報告を続ける。
「たった今頭上を通過した。我々よりも高い高度を遥かに速い速度でだ。追撃は不可能だ。方向から見て国籍不明騎はアクスプールに向かっている至急迎撃準備をされたし」
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港湾都市アクスプール
王都であるビストラスにほど近い港湾都市アクスプールにある空軍基地では第3小隊からの報告を受け、全力を挙げてワイバーンの出撃を行なっていた。
同都市に直掩として配備されているワイバーン50騎の内、既に30騎程が離陸を終えて東に向けて飛行していた。
「見えた!あれだ!」
最も目の良い隊員が東の空から来る騎影を見つけた。その騎影は相対的に近づく程巨大になっていき、その全貌が徐々に明らかになる。
「何だあれは……」
それは例えるなら空飛ぶ巨大な楔だった。小さい物でも全長約1キロ以上の巨体には、おそらく砲だと思われる規格外に大きい兵器らしき物が多数搭載されている。それが三つも飛行している異常な光景に自分達の目を疑いたくなる。
するとその飛行物体はいきなり高度を下げ始め、その巨体を海面へ近づけていく。この速度で海上に突っ込めば巨大な波が生まれ、街は甚大な被害を受けることが容易に想像できた。
「い、いかん!街に津波が!」
我に帰った隊長が慌てて言葉を発したが、既にその物体は海面スレスレまで降下していた。
誰しもが終わりだと目を瞑った。
しかし、何も起きることなく三つ物体はそのままの高度を維持して滞空していた。
「あ、危なかった。それよりも早く臨検を!」
その時、その物体から不快な金切り声が大音量で響いた。
『ᓕᐓᖏᐓ、ᒸᐧᔂᐓᗊᐣᘍᐨᔔᐭᔶᐯᘟᐢᘞᐟᕱᐱᘅᐢᓺᐓᓬᐓ
(あー、我々は大日照皇国使節団です)
《ᗊᐣᘞᐟ、ᒮᐳᓪᐷᖉᐪᔁᐓᔷᐼᒼᐬᖅᐠᓶᐓᓹᐓᔑᐓᓮᐓᔦᐓ!》
[大使、翻訳機の電源入ってません!]』
金切り声が終わったかと思えば、今度は聞いた事もない言語らしき音声が鳴り響いた。突如現れた超巨大飛行物体を見て慌てていた市民達はこの大音量を聴いてより一層恐怖し、市街地は混乱状態に陥った。
『我々は大日照皇国使節団です。貴国と会談を行うことを希望します。繰り返します、我々は大日照皇国使節団です。貴国と会談を行うことを希望します』
かと思えば今度は流暢な大陸共通語で呼びかけを行ってきた。事態を把握した隊長は直ちに本部に連絡を取り、次の指示を要請した。
その後、ビストリア王国政府の役人を乗せた船が飛行物体に接近し、大日照皇国という国家の使節団を乗せて帰港した。