第二話「進軍開始」
第9001植民惑星大気圏外
ワープに成功した派遣団は次に惑星の再調査を開始した。
以前にも調査は行われていたが本惑星は少々特殊であった。
第9001植民惑星派遣団 旗艦『アスラ』
『アスラ』に設置された総司令部では偵察機の報告を総合して惑星降下作戦の立案が行われており、分艦隊から各方面の司令官が集まっていた。
「報告書を読んでおきましたが、この惑星の全体的な技術力は我が方に遠く及ばないものばかりです。これは今までどの国家も接触していなかったからでしょうが、危険度は低いと考えられます」
陸軍参謀の一人が発した言葉に航宙軍の参謀も同調する。
「そうですね、それに加えて各地域の技術力の差は大きいですがその中で最も発達している地域でもせいぜいが飛翔体を発射できるかどうかといった程度です」
それに対して空軍参謀が反論する。
「しかし、油断はできません。この星についてわかっていることは限られていますし、何より現地民との不和はこれからの統治を考えるとなるべく避けたいところです」
議論が広がる中、一つの通信が入った。
「総督、無人偵察機より報告です」
通信員からの報告を聞いた優輝は頷き、読むように促す。
優輝に促された通信員は平文で送られてきた電文を読み始める。
「『宛て、派遣団総司令部。前回の調査と今回の調査で地表に差異あり、撮影に成功したため画像を送る』以上です」
「中央に前回の画像と送られてきた画像を表示してくれ」
優輝の指示に従って艦橋中央にある巨大モニターに画像が映し出される。
表示された画像には大日照帝星と似た緑と青の美しい土地が写されていた。しかし、よく見ると前回の調査で撮影された画像に比べて今回撮影された画像には映っていない筈の新たな大陸が移されていた。
「報告にあった通りだな。確かにこの星では陸が『増えている』。なるほど実に面白い」
そう、この星はどういう訳か数年、数十年単位で陸地が増えるという自然現象とはとても思えない不思議な現象が起きていた。
このことに星間国家各国は注目し、新たな可能性を持つ惑星として領有権を巡って争っていた。
「理事国が渡すのを嫌がる訳だ。こんな面白い星みすみす渡すなんてしたくはなかっただろうに」
口ではルプェルマス理事国のことを哀れんでおきながら優輝の表情は実に愉快そうだった。
更に偵察機からの画像を見ていくと、その新しい大陸には文明はおろか集落一つもないことがわかった。これにより降下地点はこの大陸で決まりとなり、より正確な情報が送られるのを待つことになった。
---------------------------
数時間後
情報を改めて集計した結果、この大陸に集落の一つも無いことが確認された。しかし、それなりの大型生物の存在が確認されており、油断はできないと判断されていた。
総司令部では航宙軍、陸軍、空軍、強襲軍から派遣された高級将校の面々が顔を合わせ作戦会議を行なっていた。
その作戦内容を陸軍から派遣された参謀が立体画像映写卓の上で説明する。
「よって今回の降下作戦は三つの段階を踏むことになります。第一段階に艦砲射撃と航宙機による爆撃を加え、降下地点の安全を確保させます。攻撃には第一次攻撃隊と第二次攻撃隊を編成します。第一次攻撃隊にはゲムラーゼン中将の艦隊を第二次攻撃隊にはブレッツァー提督の艦隊に任せます。第一次攻撃隊は艦砲による制圧射撃を、第二次攻撃隊には航宙機による空爆を実施してもらいます」
映写卓に大陸の画像が浮かぶと大陸西の沿岸中央に赤い丸が描かれ、その上空には艦艇と円盤型航宙機を模した立体画像が浮かんだ。
「第二段階に兵士を降下させ、降下地点を完全に制圧します。この時降下するのは6個強襲軍機甲師団及び20個装甲歩兵師団に一任します」
次に艦艇の中から数隻が降下し、地上に近づくと中から人型の物体を射出した。
「第三段階に本隊と工兵隊を降下させ拠点の建設を行い、後続の部隊の受け入れ体制を整えさせます。特に捻りはありませんが、これが最も確実な方法となるでしょう」
人型が降りた後、次々と艦艇が降り立つ様子が映されたところで説明が終わった。
「よし、私はこれで行こうと思うが異論はないか?」
誰も手を挙げないのを確認すると優輝は頷いた。
「それでは降下作戦を開始する。各員、所定の位置に着け!」
「「「「「「「はっ」」」」」」」
第一次攻撃隊旗艦『ニル・バルネヅォフ』
ゲムラーゼン中将が座する紅に染められたナガト型戦艦『ニル・バルネヅォフ』。その艦橋に彼は居た。
「右舷主砲1番から7番準備良し!いつでも撃てます!」
「各艦射撃準備良し!」
砲術長と通信員からの報告を聞き、ゲムラーゼン中将はカッと目を見開いた。
「右舷全砲門一斉射ぁッ!Огонь(撃て)!」
彼の号令を合図にゲムラーゼン艦隊3600隻による砲撃が惑星地表に降り注いだ。460センチ、310センチ、160センチからなる赤色に輝く砲弾は大気圏を突き破って突入していった。
------------------ーー-------
その光景は惑星の至る地域で観測された。今までこの惑星に居た誰もが見たことのない赤色の流星群、その不気味な光景に人々は何か不吉な予感を感じるのであった。
---------------------------
砲弾が降り注いだ地上は凄惨だった。体重が40トンある地竜すら木の葉のように吹き飛ばす衝撃波が地上を襲ったのだ。大陸西海岸にいた生物達は残らず破壊の嵐に飲み込まれた。
直撃を受けて蒸発した者や加害半径近隣に居て弾け飛んだ者はまだ良かった。だが攻撃から中途半端に生き残った者は強烈な熱線に皮膚を焼かれ、飛び散る破片に身体を切り刻まれた。
しかし、不幸な事に攻撃はこれで終わりではなかった。
---------------------------
第二次攻撃隊旗艦『サラトガ』
全長10000メートル以上の巨大な船体を誇るショウカク型航宙母艦、『サラトガ』。
艦橋には若手の将校、ブレッツァー少将が座しており第二次攻撃の命令を待っていた。
「提督、第一次攻撃完了、続いて第二次攻撃の指令が届きました」
「よし、『ハウニヴ』隊発艦開始!」
甲板にずらりと並んだ直径120メートル以上の巨大な円盤型航宙機、『零華(正式名称ハウニヴ・ジーア)』はその巨体に似合わないほど俊敏な動きで次々と離艦していく。
『サラトガ』から発艦したハウニヴ60機は僚艦から発艦した機と合流を果たし、総勢960機の編隊が惑星に降下して行った。
------------ーー----------ーー-
破壊の嵐が過ぎ去った後、その場には静寂が訪れていた。多くの生物が死滅し、僅かに生き残っていた者も酷い重傷を負っていた。それに追い討ちをかけるように円盤型の物体、『ハウニヴ』が飛来した。
『ハウニヴ』の機体下部に搭載された100ミリ連装粒子砲4基と四連装の30ミリ光電子機関砲4基の砲口が煌き、残っていた生物を確実に仕留めていく。
一連の攻撃はものの数分程度で完了し、強襲軍に対して出撃命令が下った。
---------------------------
指令を受けた強襲軍艦艇は降下を開始し、その腹には多数の強襲軍将兵と機械兵、そして各種兵器を満載していた。
揺れる艦内である一人の兵士が不意に歌を口ずさんだ。それは彼の祖国であるルーシア帝国の歌で、皇国主導の統一軍に再編成されてから編曲された歌だった。
「Имперская армия, храбрая космическая армия, непобедим. как единство нашего народа
(皇軍は 勇敢なる航宙軍は無敵だ
我等臣民の団結の如く)」
彼に続いて周りにいた兵士達も歌い出した。
「「「от начала востока до конца запада. Никто не лучше, чем Имперская армия.
(東の始まりから西の終わりに至るまで
皇軍に勝る者はない)」」」
その輪は更に広まっていき、やがて艦内全体で歌われ始めた。
「「「「「Непобедимой имперской армии, стоять, чтобы защитить свою страну!
Мы все должны встать, не останавливаясь. До последнего сражения!
(無敵なる皇軍よ、祖国の護りに立て!
我等が皆、向かわねばならぬ。最後の決戦へと!)」」」」」
やがて通信を聴いていた他艦にも歌は広まってゆき、艦隊全体での大合唱に至った。
『Имперская Армия марш, марш, вперёд!
Родина-мать нас в бой зовёт.
от начала востока до конца запада. Никто не лучше, чем Имперская армия.
(皇軍よ前へ、前へ前進せよ!
母なる祖国が、我等を戦いへ呼ぶ。
東の始まりから西の終わりに至るまで
皇軍に勝る者はない)
Непобедимой имперской армии, стоять, чтобы защитить свою страну!
Мы все должны встать, не останавливаясь. До последнего сражения!
(無敵なる皇軍よ、祖国の護りに立て!
我等が皆、向かわねばならぬ。最後の決戦へと!)
Мир мы построим на этой земле,
С верою, правдою во главе.
от начала востока до конца запада. Никто не лучше, чем Имперская армия.
(我等は今この宇宙に平和を建設する
先頭に立ち、愛と誠を以て。
東の始まりから西の終わりに至るまで
皇国の軍に勝る者はない。)
Непобедимой имперской армии, стоять, чтобы защитить свою страну!
Мы все должны встать, не останавливаясь. До последнего сражения!
(無敵なる皇軍よ、祖国の護りに立て!
我等が皆、向かわねばならぬ。最後の決戦へと!)」
彼らの唄はどこまでも勇ましく響いていた。
ショウカク型航宙母艦『サラトガ』
全長10261メートル、全幅2137メートル
全高1613メートル
艦載機
『零華』120機
零華
全長120メートル
はい、ということで最後の歌は『赤軍に勝る者なし』です。適当な翻訳なので所々間違っているところはあると思いますがご了承下さい。
えっ?帝国主義に共産圏の歌が何故出てるのかですか?単純にかっこいいからです。