第十話『対コンキスタ戦争終結』
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コンキスタ帝国 帝都マドラート
帝都にある皇城では会議が行われているが、決して穏やかとは言いがたい様相を呈していた。
まず二カ国の国境線に配備された侵攻部隊が双方共敗れ、逆侵攻を受けているとの報告が一つ。もう一つは時を同じくしてビストリア連合王国東部地域への侵攻を予定していたセザール大将率いる艦隊が数艦を残して全滅したとの報告だった。
どれも信じがたいことであるが、その戦いより逃げ延びてきた敗残兵は十や百程度では無く確証性も高いことからより混乱する事態となった。
「陛下、お聴きでしょうがかなり苦しい状況になりました。聞けば敵侵攻部隊はすでにスヴェルランテはおろか東部の都市グラーテが陥落したとのです」
「敵の侵攻速度は尋常ではなく、この帝都にまで迫らんとしています。手をこまねいておりますと帝国拡大前の領域まで占領されかねません!」
「更に敗走した将兵の報告によれば、遥か西方の大陸で生産されている『戦車』や『航空機』に類似した装備を多数揃えており、とても帝国軍で抑え切れるものではございません!」
普段であればそのような敗北主義者的発言を帝国中枢の者が言うべきではない。しかし、現実として敵は近くまで迫ろうとしているこの状況でここまで理解できているのは幸いと言えるだろう。
凶報は続いた。
会議室の扉をノックもせずに兵士が入室し、報告する。
「緊急の伝令です!帝都東側郊外に敵軍が現れました!」
「何!?グラーテ陥落の報が昨日来たばかりではないか!」
軍務卿は思わず立ち上がって言うが次の報告に力なくへたり込んだ。
「敵はグラーテから帝都近くまで伸びる森林地帯を強行突破したようで、凡そ十万の兵力が集結している模様です!」
無理だ、とても防衛なんてできない。
その会議に参加していた全員の心中が一致した。他の地域に配備された軍を呼ぼうにもとても間に合わない上に、現状ある兵力を以ってしてもせいぜいが一万をいくかどうか。
完全に詰んでしまった。
誰しもが項垂れ諦めかけていた時、今まで一言も話さなかった皇帝カロルス七世が口を開く。
「装甲近衛騎兵大隊を出撃させよ」
「陛下?」
いきなり不明の単語が出てきたことに周りの者達はざわめくが、皇帝は気にすることも無く続ける。
「本当ならもっと後で公表するつもりであったが、魔導技術省に開発を依頼していた魔導鉄馬と対魔弾装甲製甲冑を一個大隊だけであるが配備できたのだ。例え敗北しようとも少しでも交渉を有利にできるのなら使う他あるまい」
『魔導鉄馬』その名の通り魔石のエネルギーを利用したエンジンで動く鋼鉄の馬で、その平均時速は70キロを叩き出す化け物である。
しかし、技術的問題や取得コストの高さ、そもそも量産に向いていない構造、更に航続距離の短さの問題から本格的な量産に踏み切れないでいた。
だが、それらを除けば正に一騎当千の戦力と言えた。
「しかし、その戦闘に参加する者達は……」
「帰還できる可能性は低いだろうな。しかし、それでもやらねばならん。我等の子孫に少しでもより良い未来を託すために」
これから失われるであろう命に対して心で謝罪を繰り返しながら皇帝は出撃命令を出した。
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帝都マドラート郊外 三国連合軍陣地
コンキスタ帝国の帝都マドラートを囲むように布陣する三国連合軍では攻略作戦に向けての準備が進められていた。
だが、多くの一般兵士達は続く連戦連勝にすっかり慣れてしまい完全に敵を侮っていた。挙句の果てには敵首都を何日で陥落できるかの賭けを始める始末であった。
「ほらほら賭けた賭けた!一番は一日!大穴は五日だよ!」
「俺五日に五十枚」
「おおっとぉ、大穴狙いかい?当たるといいな。大穴は今二十倍だからな」
「俺は二日に二十五枚」
「おいおい、男ならもっと勝負しろよ!」
このような光景があちこちで散見され、軍上層部は頭を抱えた。特に彼らがここまで堕落するに至った原因であるM4『シャーマン』中戦車を始めとした機甲部隊は完全無敵だと兵士達の間で信奉されており、それらを駆る戦車兵達も自分達が最強だと自負していた。
それがこれから起きる苦戦に繋がるとも知らずに
それらを最初に発見したのは歩哨に当たっていた中年の一兵卒だった。
彼は任務中にも関わらず酒に酔っており、ボヤけた目で双眼鏡を覗いた。
レンズの先には土埃を上げて此方へと迫る敵騎兵の集団が映っていた。彼は時代錯誤な騎兵突撃に対して鼻で笑った。
「フン、包囲されてとうとうヤケになったか。こちら歩哨十七番、敵騎兵部隊の接近をかくに……」
それが彼の最期の言葉となった。
敵騎兵の一人から白煙が上がったかと思うと男の居た地点に光弾が着弾し、10センチ砲弾クラスの爆炎と煙を上げて男の身体を木っ端微塵に粉砕した。
突然の爆音に三国連合軍の陣地は蜂の巣をつついたように慌ただしくなり、黒煙を見つけると敵襲の喇叭が吹き鳴らされた。
先程まで賭け事などをしていた兵士達は慌てて持ち場に着き、戦車を前面に出して歩兵銃や機銃を構える。
敵の姿を捉えると僅か千名程の騎兵ばかりであり、先程の黒煙は何だったのかその時はわからなかったが向かって来るなら倒すのみと言わんばかりに弾幕を張る。
敵騎兵はやけに硬く、何発か被弾しても馬から落ちる事は無く小銃弾程度ではかなり苦戦を強いられた。大口径の重機関銃でも数発は当てないと落ちないあたり鎧の堅牢さと乗る騎手の練度が伝わってくる。
『シャーマン』や『パーシング』を始めとした機甲部隊も砲撃や機銃掃射をするが、敵の速度は速く動目標を相手にした戦闘を想定していないこれらの兵器では対応し兼ねた。
「仕方ない。パンツァーファウストを用意しろ!ありったけ敵にぶち込んでやれ!」
歩兵部隊の指揮をしていた現場指揮官が指示した時、距離にして百メートルまで近づいた敵から反撃が加えられた。
白煙が上がると猛烈な爆発が連続して陣地を襲い、味方を吹き飛ばした。煙が収まるとそこには手足を失った者達のうめき声や溢れた臓物の悪臭が漂う地獄絵図が広がっていた。
「あいつら何をしやがったんだ!?」
「知るか!それより戦車の陰に隠れるんだ!」
運良く生き残った者達は敵の反撃の強さに驚きながらも前進する戦車や装甲車の陰に隠れ、そこでやり過ごそうとした。
「流石にいくらなんでも戦車の装甲は貫けまい」
その時、隠れていたシャーマンの正面に先程の攻撃が命中した。強い衝撃がシャーマンの車体を揺らし、数メートル進んだところで急に停止した。
「おっおい、どうしたんだ!?」
すると砲塔のハッチが開き、中から血塗れになった戦車兵が出て歩兵達のいる車体後方へ落ちてきた。
彼の体は何かギザギザの刃物で斬り付けられたような跡が散見され、大きな破片なども突き刺さっていた。
「おいアンタ何があった!」
急いで応急処置を施そうと動きながら部隊長が話しかける。
「急に中の装甲が剥がれて……こっちに破片が……他の奴はズタズタにされた……」
「なんてこったッ……」
急に打ち壊された戦車の無敵伝説、その衝撃は大きかった。だが、敵はどうやって戦車を無力化できたのか?その謎はまだわからなかった。
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《すごい物を発明したな。我が祖国は》
装甲近衛騎兵大隊の大隊長であるマクブリスは手に持っている特殊な形をした槍、『魔導槍』を見た。
外観としてはリボルバー拳銃を大型化した物に長大な刃を装着した見た目をしている。回転式の薬室には直径50ミリの弾が4発装填されており、先程の攻撃にはこれらの弾に秘密があった。
弾の構造としては先端の外殻な薄い金属板でできており、これが敵の装甲に着弾すると外殻が潰れて中に仕込んだ火薬による振動を余すことなく伝えることで内側を剥離させ殺傷するというものだった。
非装甲の敵なら榴弾として使える上に重装甲の相手ならば貫通はできないものの内側の装甲を剥離させ、殺傷できるという優れ物である。
この構造を持つ似た物でHESH(粘着榴弾)があり、帝国魔導技術省陣は偶然とは言え開発に成功したのである。更に付け加えると帝国魔導技術省はこれの火薬に濃度の高い魔石を混ぜているため威力が通常の二倍になっている。
問題としては装甲の厚い物体に対してはその効果を発揮するが、通常の榴弾に使用するには破片による効果が薄く対人にあまり向いていないことや反動を減衰させる機構を採用しているとは言えかなりの反動があり命中率が悪い点が挙げられる。
《これで少しでも死んでいった者達の意趣返しになれば良いが》
とは言えこれだけの戦果を上げられた事は僥倖であり、攻撃前に散って逝った者達もきっと浮かばれる事だろうと彼は考えた。
《それよりも早く帰還して装弾をしなければ。この弾は人に向かって撃つには効果が薄い》
魔導鉄馬の頭を帝都に向けて帰投しようとした時、衝撃と共に彼の思考は途絶えた。
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「ったく。世話の焼ける生徒達だこと」
三国連合軍兵士達とは違う服装をした集団が巨大な銃らしきものを構えていた。
彼等は大日照皇国陸軍から派遣された狙撃中隊で、元は三国連合軍の練兵に派遣された教導団の一員であったが、今戦争のアドバイザーとして三国連合軍と共に行動をしていた。
大口径の機関砲に匹敵する威力を誇る狙撃銃からなる正確な狙撃は、敵騎兵の上半身や魔導鉄馬の大部分を吹き飛ばし六百名は残っていた敵戦力を一瞬の内に無力化していく。
全ての敵騎兵を倒した後に三国連合軍の指揮官が怒気を孕んだ様子やってきた。
「何故最初に奴らを始末しなかったのかね!?貴官達が先に行動していれば我々は要らぬ損害を受けずに済んだというのに!」
「むしろこれぐらいの損害で済んだことを喜ぶべきだと思いますがね」
「なんだと!?」
中隊長のあんまりな言い草に対して指揮官は腹を立てる。
「敵首都を前にしているにも関わらず博打をやるような連中がそのまま首都攻略作戦に出たとしたら今回のような損害では済まなかったでしょう。下手をすれば連合軍の半数が犠牲になる。そう考えれば先程の敵の攻撃は良い教訓になったとは思えませんか?」
そこで中隊長は持っていた煙草を一息吸う。
「これ以上の損害を容認する事は我々もしたくない。だからこそ貴軍の将兵らに気付いてもらうために先制攻撃を見送ったのですよ」
中隊長の言葉に何も返せない連合軍の指揮官。
彼の言う通り自分達は完全に敵を侮っていた。だが考えてみれば戦争に向けて準備していたのは自分達だけではない。当然帝国もしていた筈だ。
明らかに今回の失策は自分達の責任だった。
去って行く狙撃中隊の背中を見ながら指揮官は敗北を感じていた。
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その後流れるように首都攻略作戦が実行され、帝国軍と三国連合軍による市街地戦に移った。
三国連合は先程の奇襲で挫かれた勢いを取り戻すかのように奮戦し、帝国軍を屠っていった。だが帝国軍もただでやられる訳ではなく、歩兵部隊相手にはそれなりの戦果を挙げた。
しかし、大勢は変わることが無くついに三国連合は皇帝の居城に到達し、皇帝以下閣僚達を捕縛した。
これによりマドラートの決戦と呼ばれた戦いは三国連合の勝利で幕を閉じた。
その後の講話会議ではコンキスタ帝国領は拡大前にまで戻され、属国及び属領は独立した。
更に多額の賠償金の支払いが決まり、三国連合との戦争はこれにて決着した。
余談だが、大日照皇国も講話会議に出席しており、資源の割安でも買取や皇国企業の無制限進出を認めさせた。
かなり展開を急いだ感が拭えません。
近々大規模修正を行いたいと考えていますが未だ未定です。