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第一話「新たなる地へ」

初めての作品になります。いつ投稿できるかは全くの未定になっています。

 

 無限に広がる大宇宙。数々の生命が生まれては滅びることを繰り返す揺り籠。その中で銀河を股にかける国家が存在した。



 その名は大日照皇国。



 5600年前に成立後、各星の強国を相手にした度重なる対外戦争の勝利によってここ数百年で急速に成長した今最も活気ある国家の一つである。

 かつて辺境銀河の一惑星国家に過ぎなかったこの国が、今や広大な領域を持つ宇宙の覇者のに名を挙げるほどの実力を持つに至るまでの歴史の裏側には必ずある一族の活躍があった。


 一族の名は『打鉄』。


 建国当初に初代(みかど)が帝位に就く以前から仕え続けた一族の末裔。その権力は帝と同等かそれ以上と言われ、各惑星に配置された頭領を纏め上げる『総統領(そうとうりょう)位』を帝の御名の下に承り続けた神代より続く名家である。



 大日照皇国勢力圏外ガドロン銀河内縁部


 此処で二つの艦隊が砲火を交えていた。

 一つは大日照皇国航宙軍所属の第201外征艦隊で、黒鉄色の角張ったデザインと巨大な三連装の主砲を搭載した攻撃的な印象を与える艦影を持っている。

 対するもう一つの艦隊は新聖書派と呼ばれる武装集団の艦隊で、オリーブドラブに塗装された丸みのあるデザインと巨大な筒型発射機に搭載された大型ミサイルが特徴的である。

 新聖書派はアーメル神と呼ばれる神を祀る宗教から分派した集団で、アーメル神の名の下に宇宙は管理されるべきだと主張する者達が集まって形成された。最初はただ過激な発言をするだけの集団に過ぎなかったのが、皇国と敵対関係にあるリエフ赤血人民連邦の支援によって急速に勢力を拡大して経緯を持つ。

 最初の頃はその神出鬼没さにやられて苦戦を強いられた皇国であったが、所詮は武装しただけの民間人の寄せ集めであり正面装備と訓練の行き届いた皇国軍とは地力がまるで違った。

 昨年に彼等の中心的指導者を暗殺してから一気に弱体化し、戦線では敗走に次ぐ敗走を重ね続けついには辺境地である此処まで追いやられたのである。

 そして今日、最後の反抗作戦のため集まった艦隊に対し皇国軍が強襲した形になる。

 皇国艦隊からは赤い光線が、新聖書派艦隊からは緑の光線が煌き、激しい砲撃戦を繰り広げていた。


 第201外征艦隊旗艦『テンニ』


 ナガト型航宙戦艦として建造された本艦の艦橋では各艦からの通信が次々と飛び込んでいた。


「戦艦スワロフ、シュヴァイク、巡洋艦マルセイユ、駆逐艦シモヤギ、クァサン、ヨーン被弾!巡洋艦以下は急速に速力が低下しています!」


「敵巡洋艦3、駆逐艦8の撃沈を確認!前衛艦隊の被害は微小なり」


「第二波攻撃隊発艦開始!敵母艦郡を撃滅せよ」


 全艦合わせて10万隻に昇る艦隊の指揮を執るべくして建造された『テンニ』は通常のナガト型と異なっている。

 主な変更点としてはより性能の良い通信装備と強力なレーダーが装備されている点で、艦橋も通常のナガト型より大きく作られていた。

 この設計は後に続くナガト改型の設計に大きく関わって来るが今はまた別の話になる。

 通信士が報告を行なっている中、同じく艦橋に設置された司令席では航宙軍特有の紺色の軍服を着た若い男が座っていた。

 彼の名は打鉄優輝、齢24にして大日照皇国航宙軍中将に登った期待の新星である。


「被弾した艦は後続の艦と交代しろ!僚艦は退避する艦を援護しつつ弾幕を張り続けろ!」


 優輝は指揮鞭を振るいながら艦隊に的確な指示を出し、綿密な弾幕を形成させ敵にじわじわと被害を負わせていった。

 初期には50万隻いた敵艦は徐々にその数を減らしていき、三分の一が撃沈され残りは包囲されつつあった。

 敵艦隊は戦線の維持が困難な状況に陥り、だんだんと防備が薄い所が出始めていた。

 その瞬間を優輝は見逃さなかった。


「敵の戦線は崩れつつある!開いた傷口に突入し、敵中枢を一気に食い破れ!」


 『テンニ』の主砲である460センチ三連装複合衝撃砲36基108門の一斉射が号令となり、薄くなった敵陣を僚艦が次々に突撃していく。

 戦艦、巡洋艦による砲撃、駆逐艦による雷撃、航宙母艦より発艦した円盤型艦載機による攻撃で数多もの敵艦は星の海へと消え去って行った。

 この一大攻勢により敵艦隊は四つに分断され各個撃破の憂き目に会い、艦艇が残り2万隻を切った時点で新聖書派は降伏した。

 この戦闘により皇国軍約5000隻、新聖書派約48万隻が沈み、皇国の圧倒的な勝利で幕を閉じるのであった。




 数日後




 大日照皇国母星『大日照帝星(だいひでるていせい)

 帝都『桜京(おうきょう)


 その名の通り皇国一の桜の名所があることからこの名を付けられた皇国の中心都市。ちなみに咲いている桜は『冥王桜』と呼ばれる種類で、一年中咲き続ける珍しい品種である。

 広大な領域を持つ皇国の顔と言える都市だけあって多数の千メートルもある超高層ビルがジャングルの木々のように立ち並び、地上では五千万を超える人々が往来し、上空には民間航宙船が飛び交う。

 それだけならば他の先進国の首都とさほど変わりはしないが、古くから存在する自然や何千年も昔に建てられた建造物が多く残っており、初代帝の時代から重要視された『自然と伝統と技術革新』を体現している。

 それだけでも初めてこの都市を見た者達を魅了させるに十分だが、それだけでは無い。


 巨大な建物が多いこの都市の中でもその中央区にら一際目立つ建造物がある。


 それは見た目だけで言うならば複雑な模様が彫られた青銅色の土筆を連想させた。だが、高さが六〇〇〇メートル以上に達し、幅は一〇〇〇メートル程はある巨大の範囲に入りきれない代物である。

 この建造物こそ数多とある皇国領の統括管理、及び総統領の権力を誇示するために建造された皇国最大の建造物。通称『総統領府』。

 その絶大なる権力の塊を具現化したようなこの場所に一台の高級車が向かっていた。




 皇国では既にタイヤ式から浮遊式に移行しているためタイヤ式と比べて振動があまり無く、電磁式発動機特有の風を切るような音だけが鳴る。

 この車も同じく浮遊式であるが、より強力なエンジンから生まれる力強い走りと気品溢れる黒塗りの外装によって他の車両との格の違いを見せつけていた。


 その車窓から帝都を眺めるブルーグレーの軍服を着た若い青年将校がいた。


「いつ見ても発注ミスとしか思えないなアレ(総統領府)


 青年将校のため息混じりに出た呟きから僅かなズレを感じ取った運転手の男が反応する。


「かなりお疲れの様ですね、打鉄中将閣下」


「やめろ、この前まで准将だったせいでその呼ばれ方に慣れてないんだよ」


 普段は人の上に立つ以上、素の自分を他人に見せたりしないが、幼い頃から運転手を務めている彼には普段通りの口調で愚痴を零した。


「第一今回の活躍は部下が優秀だったからだ。あいつらじゃなけゃ確実に破綻していた。それを本国の連中は俺だけが活躍したような発表しやがって」


 不機嫌そうに制帽を深く被る優輝に運転手は仕方ないといった様子で優輝を諭す。


「閣下は不満かも知れませんが、臣民が聞きたいのはそういう話なのです。彼らは誰もが憧れるようなわかりやすい英雄を求めているので。幸か不幸か閣下は顔がとても整っておられる」


「ふん、俺は人気アイドルと同じと言うわけか。」


 そうこうしている内に車は総統領府中央塔の玄関前に停車し、運転手は降りてドアを開ける。


「いってらっしゃいませ」


「ああ、早めにケリを付けてくる」


 出迎えの者に案内されながら優輝は中へと入っていった。


 総統領府内


 優輝とその案内を務めていた男は一際大きく豪華な飾り付けがされた木製の扉の前で止まった。

 扉の両隣には黒で統一された軍服を着た兵士が短機関銃を持って立っており、同じ軍属の彼から見てもその兵士がかなりのエリートだと見て取れた。

 案内人は扉を軽く三回ノックをして直ぐに中に居る人物に声を掛ける。


「総統領閣下。優輝様をお連れしました」


『入れ』


「失礼致します」


 中から入室を促す男の声が聞こえ、それに従って彼はドアを開けた。

 部屋には高級木材と希少な動物の毛皮で作られた応接用のソファとテーブルが中央に置かれ、その周囲には高級家具を始め、刀や鎧兜などの伝統工芸品や航宙艦船の模型が飾られており、雑多でありながらどこか統一感がある空間が広がっていた。

 その奥に置かれた机で黙々と作業をする老眼鏡を掛けた白髪混じりの男に向かって優輝は敬礼をする。


「航宙軍中将打鉄優輝、ガドロン銀河内紛争鎮圧任務を完遂し、只今帰還致しました」


 作業をしていた男は持っていた筆を置き、老眼鏡を外して優輝の方に目をやった。

 顔立ちはまだ三十代半ばとしか見えない若々しさがあったが、その薄い灰色の眼光は長年修羅場を潜ってきた老兵だけが持つ重厚感があった。

 一刻にも満たない沈黙の後に軽く息を鳴らし、労りの言葉を投げる。


「ご苦労だった。ああ、君はもう下がって構わん」


「それでは失礼致します」


 ここまで案内して来た男が退出するのを見送った後、優輝はさっきまでの態度が何処へ行ったのか備え付けてあったソファに深く座り、全身の力を抜き切った状態で寛ぎ始めた。


「で、話って何よ。帰ったらすぐ飯食って寝たい気分だからさっさと言ってくれよ()()()()


 優輝から爺ちゃん呼ばわりされた男、第498代目総統領『打鉄龍禅(りゅうぜん)』は少し呆れた様子で孫を見た。


「少しぐらい祖父と孫の時間を楽しもうと思ったがもう付き合ってくれんか」


「ああそうだよ。もう俺もガキじゃないの。だから早く用件言えよ」


 素っ気無い態度を貫く優輝にやれやれと言った様子で言われた通り話し始める。


「まずは少将に昇進おめでとう」


「はいはい、ありがと」


「そして昇進した貴官につい先程辞令が下った」


 龍禅は用意していた紙に書かれた内容を読み始めた。

 本来なら所属している航宙軍から下される辞令だが、打鉄家血族に限り総統領直々に辞令を伝えることも珍しくない。どうせ何処かの主力艦隊への異動だと予想していた優輝は特に動揺せず、呑気に構えていた。






「よって数々の功績から『()()』の任を与えるに相応しい能力がある事を認め、行政府は本官に第9001植民惑星総督に就任させる事を決定した」






「…………えっ?」






 ---総督?えっ、提督じゃなくて?






 思わず聞き返そうとした優輝を遮るように龍禅は続けた。


「良かったな将官の次は総督だぞ。もっと喜んだらどうだ?」


「いや、喜んだらって言われても」


 全く予想してなかった辞令に未だ呆然とした気持ちがある優輝はこれ以上のリアクションができないでいた。


「つうか、第900『1』植民惑星ってなんだよ。ウチの植民惑星は9000までだったろ」


 これまでの対外戦争で敵国とその支配していた領域を吸収する事で支配地域を拡大して来た大日照皇国。優輝が知っている知識では植民惑星の合計数は9000のはずだった。任務中に対外戦争が起きたというニュースや新惑星の発見等の情報は聞いていない。


「理事国だ」


「理事国ってまさか……」


 その単語を聞いただけで優輝はある国の名が脳裏に過った。

 ルプェルマス理事国。大日照皇国支配領域に隣接する星間国家の一つで、規模は皇国の1パーセントにも満たない国だが、皇国からして他の星間列強国との緩衝地帯としての役割があることから手が出しづらい国であった。

 彼の国とはある惑星の領有権を巡って争っていた。担当していた大使曰く、頑なに首を縦に振ろうとしなかったらしい。


「今まで拒否していたってのにどうしたんだ?」


「私も妙だと思った。聞いたところによれば領有権の移譲をする替わりに見返りとして経済援助と技術供与の一部緩和を要求しただけで終わったそうだ」


 見方によれば此方の強硬的な姿勢に疲弊し、彼方側が観念したようにも見えるが、二人の意見は同じだった。


「「何かあるな」」


 二人の声が見事にハミングした後、龍禅が先に切り出す。


「あからさま過ぎて少し不気味だが、経済界の要望にあった権利移譲が達成されたからにはこれを放置して置くことはできん」


 龍禅の言うようにここで消極的な態度を取ると此方の決定に従いはするものの、少なからず国内に不満を作ってしまう。

 しかもこの惑星は未だ他の星間国家による開発が行われておらず、現地の文明も宇宙進出すらしていない程未熟。その事から豊富な資源や未知の資源が眠っている可能性があると期待されていた。

 念願の領有権が移ったにも関わらず難色を示し、その理由があるかもわからない謀略への警戒だと言っても納得する訳がない。


「そこで白羽の矢が立ったのがお前だ。お前なら戦闘経験と過去に内政の経験もある。しかも(打鉄)でもそれなりの地位にあるから手を出しづらいと踏んだんだ」


「馬鹿言うなよ!俺がやったのは発展途上惑星の一地方の知事だぞ。しかも任期は現場が安定するまでの半年ぐらいだ!」


 過去に『将来のために勉強してこい』と叔父の一人に機能不全に陥っていた地域に放り込まれ、臨時の知事として安定化の為に奔走していた過去が優輝にはあった。

 結果としては成功し、現地民からの評判も良いものだった。

 しかし、今回はかなり状況が違う。自分が勤めていた所は発展途上とはいえ、既にそれなりの整備が整っていた。だが、新しい植民惑星となると一からのスタートになる。

 それに加えて確かに自分は一族でもそれなり高い地位にあるが絶対に手を出されない保証がない以上、民間人も巻き込んだ攻撃をいきなりされる危険もある。

 優輝がこれらの反論を言おうとするが、心配いらないとばかりに龍禅が遮った。


「それについては心配するな。私もお前の叔父達も最大限協力する。今回は我が国と非同盟国の領域が隣接する星域のため、防衛艦隊を約10万隻用意させておいた。基本的にはお前の指揮下にあった艦隊をそのまま移譲させる形になっている。

 まだあるぞ、確実な安定が確保されるまでの間は必要とあれば『独立戦闘軍』の一個軍団が優先的に派遣できるよう手配してある。

 一応予定している移民の数は約5000万人だ」


 龍禅が矢継ぎ早に説明する内容を聞いて優輝は更に驚いた。

 通常、植民惑星に配備されている航宙艦艇は大体5千から1万隻ほどだ。同じ最端にある所でもせいぜい3万に達するかどうか、それが今回はその三倍以上もの戦力が用意された。これだけで如何に重要視されているかわかる。

 それだけでなく、皇国に六個しか存在せず一個あたりの所属艦艇数800万隻以上を誇る独立戦闘軍が期限付きとはいえ優先的に派遣されるというかなりの好条件。

 優輝の多少あった迷いもこれで決まった。


「了解しました。航宙軍少将打鉄優輝、第9001植民惑星総督の任、確かに承りました」


 ソファから立ち、龍禅に向き直ると先程のだらしない態度から一転し軍人らしい堂々とした最敬礼を行う。


「よろしい。それと、貴官の専用艦が完成したようだから明日工廠に出向いて受け取ると良い。任務ご苦労だった。今日一日しっかりと休養を取るように」


「はっ、失礼します」


 優輝は扉に向かって歩き、その前で体を再び龍禅に向けて敬礼した後ゆっくりと退出して行った。


 その帰り道すれ違うように一人の男とすれ違った。

 その瞬間優輝の顔は少しだけ不機嫌なものになった。まるで腐肉に沸いた蛆を見るような目で。

 黒のトレンチコートに青い制帽、その制帽に刺繍された平和を意味する白い鳥のシンボルからある省庁の麾下組織の者だとわかる。

 その男は柔和な笑みで優輝に話しかけた。


「これはこれは、優輝将軍閣下ではありませんか。此度の大戦果おめでとうございます」


「貴官は『平和管理局』の方ですね。私の話は其方でも広まっているので?」


 平和管理局、大日照皇国省庁の一つである国家安全省に属する組織。

 表向きは恒久的な平和を維持するためとされているが、その実態は内外に存在する敵対の可能性がある組織内に置いて意図的に内紛が起こるように誘導する工作部隊である。

 そうすることで結果的に国家の平和を維持するという平和とは名ばかりの戦争火付け人の集団である。


「ええ、とても有名ですよ。その若さで航宙軍中将になり更には総督に、おっといけない」


 国家安全省の直属だけあって耳が良い。優輝はその言葉を飲み込みながら質問する。


「それで?私に何か用でも」


「いいえ、ただ反乱分子をできるだけ捕まえていただきたいだけですよ。恒久的な平和のために」


 男はそれだけを言うとそのまま去って行った。

 一人残された優輝は結局彼は何をしたかったのかと考えながらその場を後にした。


 翌日

 大日照帝星外衛星『大月』


 大日照帝星に最も近くにある天体。

 かつて日照人達の祖先が暮らしていたという『地球』と呼ばれる惑星近くに存在した衛星の名と、その衛星より三倍も大きいことからこの名がつけられた。

 その表面には都市が建設され、星には約三千万人の民間人が暮らしている。郊外には大手製造メーカーの工場が立ち並ぶ工業地帯があり、家庭電化製品等民間人が使う製品を作る工場もあれば、航宙軍が使用する航宙艦艇が建造される大型ドックも建設されていた。


 大月航宙軍工廠七番ドック


 最大10000メートルもの全長がある艦船でも建造できる巨大なドックにその艦は鎮座していた。

 宇宙空間に溶け込めるよう暗い灰色で塗装された船体と敵レーダーに映りにくいよう工夫された設備類、そして全長約9000メートルもの巨大な船体とそれに似合う並列に並んだ四連装の巨砲が見る者を圧倒した。

 その姿を半ば放心状態で眺めていた優輝の様子を見て満足したように痩せ型で丸眼鏡を掛けた男、設計責任者の松賀技術中将が話し掛けた。


「如何ですか。貴方様の専用艦『アスラ』をご覧になった感想は」


「いや、素晴らしいの一言に尽きます。此方が出した要望をほぼ全て実現してくれるとは……」


 質問に答えながらも視線を目の前の戦艦から外さない。

 松賀中将は誇らしげな笑みを浮かべながら艦の説明を始めた。


「ヤマト改型航宙戦艦一番艦である本艦は、前級であるヤマト型の設計を基礎に建造されました」


 松賀中将の言葉に耳を傾けながら優輝は自身の座上艦となる戦艦に見惚れている。


「全長10263メートル、全幅1097メートル、高さ861メートル、重量4032万9000トン、速力はヤマト型より15ノット優速の50宇宙ノットになります。

 兵装は艦首に4800センチ粒子爆縮熱線砲、通称『龍爆砲』を4門搭載しています。

 主砲には三連装610センチ複合衝撃砲を上部26基、下部26基、両舷に12基を搭載で計192門。

 副砲には三連装310センチ複合衝撃砲を上部8基、下部8基、両舷に20基を搭載で計108門。

 その他13センチ連装砲、30ミリ三連装光電子機関砲、誘導弾発射機及び航宙魚雷発射管を多数搭載しています。閣下のご要望通りこれらの兵装はヤマト型より多く搭載させていただきました。

 更にヤマト型に比べてより強力な機関を搭載しているため実弾兵装を除き、各兵装の威力は25パーセント増しとなっています。

 元々性能が良すぎるヤマト型を更に改造した為、本艦だけで一個艦隊を相手にできるほどの性能になっていますよ」


「それはすごい。この艦を動かすのが益々楽しみになってきました」


「そうでしょうそうでしょう。それだけこの艦は魅力的だと私も自負しております。ただ」


 松賀中将は優輝の両肩をがっしりと掴み、誰の事を考えてか呪い殺すような目で言う。


「絶対ない、いやあってはならないことですが貴方様の叔父君のように出航するたびに大破させて来ないようにお願いしますよ。健闘してそうなったのなら仕方ありませんが、うっかりで壊されたら我々も艦も浮かばれないので」


「は、はい……」


 その後の試験航行で優輝はこの艦を気に入り、上層部にヤマト改型の増産と工廠関係に対する予算と人員の増大を要請したという。




 数ヶ月後




 桜京近郊舞洲嘉(まいすか)基地


 舞洲嘉基地では第9001植民惑星派遣団の出陣式典が催されており、式典には多くの皇国臣民や派遣団の家族が押し寄せていた。家族に別れを言う者や激励の言葉を掛ける者などの姿が彼方此方で見受けられ、ひと時の和やかな雰囲気が基地内を包んでいた。

 同基地内にある軍港には多くの航宙艦艇が停泊しており、その内の一隻に優輝の座上艦である『アスラ』の姿があった。


『アスラ』艦橋


 新しく総督の職を持つことになった優輝は総督の証である黒い生地に赤のラインが入った制服の姿で司令席に座っていた。

 制帽を目深に被りグースカと寝息を立てる彼の下に一つの通信が入る。


『さっさと起きんか馬鹿者が!』


「ぬおッ!?」


 突然の怒声に驚いた優輝は思わず司令席から転げ落ちた。


「驚かせないでくださいよ。ゲムラーゼン閣下」


『ハッハッハッ、いや申し訳ない。今は上官であるのに、つい教官時代を思い出しまして』


 個人回線の画面の向こうにいる死人のように青白い肌に血のように赤い目の男、ゲオルグ・ゲムラーゼン中将は愉快そうに笑っていた。

 彼は皇国傘下国の一つであるバロー人民連邦出身で優輝の訓練生時代に教官を務めていた。

 彼の所属は第一独立戦闘軍であったが、本人の希望もあって第9001植民惑星派遣団の司令官として着任していた。


「少しぐらいは見逃してくださいよ。このところ連続で特進してばっかりで覚えること多くなったんですから。というかこれだけ特進してたら近いうちに死ぬんじゃないかって最近思いますよ」


『諦めなさいとしか掛ける言葉もないですが、だからと言って部下の前で無様な態度を見せて良いものでもありません』


 優輝の愚痴にゲムラーゼン中将は正論で返す。

 そんなやりとりをしている間に乗組員全員の収容が完了したらしく、全艦艇の機関に火が入る。


「総督、全艦の出航準備完了しました」


 通信員の報告を聞き少しため息をついた後、気を取り直して号令を発した。


「全艦出航!目標、第9001植民惑星!」


 優輝の号令を合図に各艦は離陸を始め、外では皇国臣民が歓喜の声を上げて派遣団に手を振って送り出していた。


 船団は高度を上げてゆき、そのまま宇宙空間に出ると近隣の惑星から出航していた部隊と合流を果たした。

 これにより戦闘艦艇10万隻、輸送艦艇20万隻の計30万隻による堂々の布陣が組まれ、船団は宇宙を勇んで征く。

 そして大月の衛星軌道上を抜けた先に『ソレ』はあった。

 それは例えるなら直径100キロ以上はある巨大な金属製のリングだった。幾何学的な模様が刻まれたそれの内円に突如青白いモヤのようなモノが形成された。


「『瞬脚(しゅんきゃく)』起動開始。120秒後超長距離転移に入ります」


『瞬脚』、それは大日照皇国が保有する超長距離ワープ装置の名称であった。元々はフーリュレイ帝星国が開発していたものであったが、皇国が彼の国と戦争状態に入り戦勝した際に賠償金代わり手に入れ完成させたものであった。

 艦艇に装備するワープ装置は開発済みであったが、せいぜいが惑星間の移動のみという現状だったのを本機の完成により現在地から遠く離れた銀河までの移動を可能としていた。

 本格的な超長距離ワープを可能にする装置は今現在皇国の知る範囲では実現しておらず、重要な戦略拠点として厳重な警備体制を敷いている。

 それはさて置き、起動した瞬脚を前に優輝は艦隊放送のチャンネルを開いた。


「第9001植民惑星派遣団諸君、総督の打鉄である。これより先は未だ誰も踏み入れていない領域、すなわち開拓地である。どんな困難があるか誰も知らない。しかし、栄光ある大日照皇国人として一層奮励努力し、帝に新たなる星を献上するのだ!」


 優輝の通信を最後に派遣団は瞬脚の中へと消えていった。




 その先に待つのは楽園かそれとも




ナガト型航宙戦艦『テンニ』

全長7221メートル 全幅816メートル

全高715メートル

重量2790万4400トン

速力42宇宙ノット

兵装

艦首4800センチ粒子爆縮放射砲    3基

45口径460センチ複合衝撃砲 三連装46基

60口径13センチ速射砲   連装1200基

30ミリ高性能光電子機関砲 三連装4800基

120センチ航宙光子魚雷発射管   720門

垂直誘導弾発射機 


ヤマト改型航宙戦艦『アスラ』

全長10263メートル 全幅1097メートル

全高861メートル

重量4032万9000トン

速力50宇宙ノット

兵装

艦首4800センチ粒子爆縮放射砲    4基

45口径610センチ複合衝撃砲 三連装64基

45口径310センチ複合衝撃砲 三連装36基

60口径13センチ速射砲     連装

30ミリ高性能光電子機関砲   三連装

120センチ航宙光子魚雷発射管       

垂直誘導弾発射機           

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