パーティ結成
翌日。時は正午。
プーロのおごりで宿に一晩泊まった後、僕は城へ出頭した。
いよいよ僕は兵士として働くことになる。
「俺はエディってんだ。まぁよろしくな」
「僕はテイン。こちらこそよろしく…」
同じパーティになったのは、昨日兵士長を唯一倒した男だった。相変わらず覇気のない、眠たそうな目をしている。同じ新兵とはいえ、相手は兵士長に認められたエリートだ。少し萎縮してしまう。
「リーダーってのはどんな奴なんだろうな」
パーティ編成は僕ら新兵2人に、先輩兵士1人の3人構成らしい。
「どうせおっさんだよ」
野郎に興味はない。
「デボラみたいにキツい姉ちゃんだといいんだがな」
え?
予想もしない単語に僕は耳を疑う。
「も………もしかして君もデボラ推しなのかい?」
「まさかお前も………?」
「ああ!」
初めて会ったデボラ推しの同志。僕らは一瞬で通じ合った。
ならば僕らがやるべきことは一つ。
「デボラは僕の嫁じゃぁああああああああああああああああ!!!」
「うるせぇ!誰にも渡すかボケ!」
決闘するしかない。
「死んだ目をしやがって!」
「お前こそなんだ!昨日兵士長に瞬殺されてたじゃねーか!そんな軟弱な男にデボラはやれんぞ!」
「ちょっと緊張してただけですー!本気を出せばあと2〜3秒は耐えられますー」
「変わらんわ!」
「うっせー死ね!」
「お前こそ死ね!」
城の中。新兵で賑わう大広間。僕たちは殴り合いを始めた。
デボラへの愛を拳に込めて、一発。二発。殴り、殴られ。
ポコスカポコスカ。
1人の女をかけた男同士の熱きファイトはますますエキサイトしていく。
だが、そのときだった。
「エディさんとテインさんですね」
背中のあたりで、僕たちの名前を呼ぶ女の人の声がした。
組み合っていた僕たちは思わず振り向く。
立っていたのは、デボラ……
ではなく。
金髪の美人さんだ。
背が高くて、肌が白い。
眉はキリリとしていて、くちびるは引き結ばれている。
額にはサークレットがはめられていた。
「はじめまして。私は魔導士ギルドから派遣されてきた、セレアナと申します。正規の兵士ではありませんが、パーティのリーダーを務めさせていただきます。どうぞよろしく」
その声は柔らかくてつつましくも、堂々としている。
一応リーダーが前にいるので、僕は取っ組み合いをやめて向き直る。
「私たちの仕事は魔王討伐の術を見つけること。それは兵士長に聞いてますね?」
「そういえば言ってたな。そんなこと」
「すっかり忘れてたよ」
我ながらナメた態度の僕たちに呆れる様子もなく、リーダーは続ける。
「具体的に言えば、龍魔王を討伐するため、勇者あるいは聖遺物を見つけねばなりません」
それもプーロに聞いた気がする。まぁやっぱり言われるまで忘れてたんだケド。
「龍魔王は時空間を移動することが出来るそうです。我々人類は、龍魔王を何度追い詰めてもいつもあと一歩という所で逃げられてしまいます。そこで、人知を超えた力が必要な訳です」
退屈な説明に飽きると、そういえばリーダーはいくつなんだろうか?という疑問が浮かんだ。エディも同じことを思ったようで、アイコンタクトで会話する。
「(二十九かな?)」
「(いや三十超えてるだろ)」
するとなぜかリーダーから威圧感のようなものを感じた。表情はにこにこと微笑んでいるので、かえって睨まれるよりも迫力がある。
まさか心を読まれている訳ではないと思うけど……。
「はい!」
「どうぞ、テインさん。ちなみに私は26歳です」
威圧感にビビって直立していた僕たちだったが、なんだか考えを読まれているみたいだ。頰が汗を伝う。隣のエディも同様だ。
「なんで考えていることが分かったんですか!」
「失礼な視線を感じたからです」
失礼な視線を感じて年齢の話に結び付けるのもおかしいと思うんだケド。実は気にしていたり?
確かに大人びて見えるけど、普通に美人さんだし気にする必要ないと思うんだケドなぁ。
「そうですか!ってそうじゃなくて!魔王と聖遺物って何ですか!!」
リーダーから威圧感が消える。
「ああ…そういえばテインさんはシャドウ出身でしたね。ええと……」
即答を出来なかったリーダーの代わりに、エディが答える。
「これだから田舎ものって奴は……いいか、龍魔王ってのはな、魔王の別名だ。股間のデカさがえげつなくてな。それで龍魔王って呼ばれてるんだ。聖遺物は俺も知らね」
「嘘を教えないで下さい。龍魔王は魔王の別名ですが、股間は関係ありません。単に龍の姿をしている魔王だから龍魔王と呼ばれているだけです。それと、聖遺物とは伝説の賢者が残したと言われている秘宝です。手に入れれば奇跡を起こすと言われています」
なるほど、つまり龍魔王の股間は龍のようにデカいってことか。つまり生きとし生ける全ての粗チンの敵だ。絶対に倒さないといけない。
「ん……」
今度はエディが挙手をした。
「はい、エディさんどうぞ」
「なんであんたがオレらのリーダーなんだ。他のパーティはちゃんと正規の兵士がリーダーっぽいじゃねーか」
周りを見ると、他のパーティもリーダーとの顔合わせをしているようだった。リーダーらしき人物は体格、風格ともにまさに兵士って感じ。しかし僕らのリーダーはその兵士の風格ってやつがない。それどころか、正規の兵士ですら無い。
「人手不足だからです」
わーお。シンプルな理由。
「そこで魔導士ギルドに依頼が来て、私がリーダーを任されることになったのです。でもあなたたちは運がいいと思いますよ。私は回復呪文を使えますからね。回復手段が薬草頼みの他のパーティとは安定感が段違いだと思います」
それにエディは兵士長並みの腕を持っている。まぁ僕は新兵の中でも最弱だった訳だケド。そこはバランスってことなんだろう。
「他に質問はありますか?」
僕たちは無言によって答える。
「では早速出発しましょうか。とりあえず国境の向こうの関所へ向かいましょう」
「まっ、仕事だからしゃーねぇか」
「大きさに悩む全男子のためにも、股間が龍魔王は倒さないと」
「股間が龍魔王ってなんですか…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おーい」
城を出ると、プーロが手を振っていた。どうやら僕を待っていてくれたようだ。王都を出る前にお別れの時間を貰おうかと思ってたケド、手間が省けた。
「テインさんのお友だちですか?」
「うん!王都を出る前にお別れの挨拶をしたいんだケドいいかな」
「もちろん構いませんよ」
リーダーに許可を貰うと、僕はプーロの前へ駆けつけた。
「どうしたの?わざわざ待ってるなんて」
「あのさ、オレもパーティに入れてもらっていいか」
願ってもない提案だ。同志のエディ、美人のリーダー、それに加えて親友のプーロと旅を出来るならきっと楽しい。しかし………
「でも……自由気ままに旅をしたいから兵士にはならないんじゃなかったの?」
「兵士にはならないさ。でもお前ともう少しバカをやるのも悪くないと思ってな。しばらくの間、旅に同行させてもらいたいんだ」
多分プーロは僕を心配してくれているんだろう。その厚意に僕は甘えるコトにした。
「分かった!でもリーダー達にも聞かないと」
で、パーティメンバーに確認したところ……
リーダー曰く「野営の都合もありますし、構いませんよ」
エディ曰く「人数が増えればその分サボれるしな。賛成だ」
と言ってくれたので4人パーティが結成された。