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兵士

「すげぇ…初めてみた……女の子って実在するんだ……」


 王都グランドマザーに到着した僕は、若い女の子が普通に街を歩いていることに感動した。僕が見たことがある女性は母さんと婆ちゃんたちだけ。若い女なんて村では間違っても拝むことが出来ない。これだけで、村を出て良かったと思うことが出来た。


「俺も最初はたまげたなぁ。田舎の学問より京の昼寝とはよく言ったものだ。書物と現実の女の子は全く違う。なんていうか…いい匂いがする」


「えー。フローラはもういいの?僕は今でもデボラを嫁だと思ってるケド」


 フローラとデボラは、村の図書館にあった小説に登場する姉妹だ。 姉がデボラ、妹がフローラ。僕もプーロに勧められて読んだらすっかりハマってしまった。村にいた頃はよくどちらが可愛いか議論していたものだ。僕たちは喧嘩なんて滅多にしないが、この話になると毎回喧嘩になっていたな。そういえば。


 まぁ昔のことだケドね。あの頃と違ってもう子供じゃない。そんなことで喧嘩はしない。


「もちろん二次嫁は今でもフローラだ。あとデボラよりは幼馴染のあの子の方がいいと思う」


「殺すぞ」


 僕はプーロに殴りかかる。が、拳が届く前に反撃されフルボッコ。


「記憶よりも強烈…」


 まぁ返り討ちに合うのは想定の範囲内だ。けど、思ってたより痛い。


「わりぃ。久しぶりで加減が分からなかったわ」


 ならしゃーない。ボコされたことはすぐに水に流し、別の話題を切り出す。


「そういやさ、僕が兵士の試験を受けている間どーすんの?」


 結局僕はプーロの提案に従い、兵士になることにした。


 プーロによれば、グランドマザー兵の主な任務は、魔王殺しの素質を持つ勇者、もしくは聖遺物の捜索らしかった。もちろん城の警備もあるが、新兵が任されることはないらしい。


 命の危険は少なく、ほぼ確実に受かるとなれば、無能な僕は受けるしかない。


 しかしプーロは自由気ままに旅を続けるハズだ。となると僕が試験を受けている間、プーロは暇になる。


「あぁ、酒場で時間を潰すわ。ちょうどもうすぐ着くからそこで一旦お別れだな」


 広場を横切り、買い物客で賑わう市場の雑踏を抜ける。裏通りに入り、角を曲がると目指す酒場はすぐ目の前にあった。昼間だというのにそこそこ客がいる。


「じゃあがんばれよ。あと薬草をやる。とりあえず食っとけ」


「ありがとう。がんばるよ」


 薬草を受け取ると、酒場に残ったプーロと別れ、試験場であるグランドマザー城へと向かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しばらく歩くとお城の前の広場に到着した。周りには同じように志願と思われるさまざまな年ごろ、さまざまな顔つきの男たちがいた。やがて城の扉が開く。中から、兵隊さんが一人現れ、広場に立つ。


「志願兵諸君!グランドマザーは諸君を歓迎する。ガルボ兵士長から話があるので、みなついてくるように!」


 城に戻ってゆく兵隊さんに付き従って、僕たちは城の中に入っていった。


「よくぞ集まったな。心あるものたちよ」


 茶毛茶髭のおじさんは居並んだ僕たち志願者の顔つきを端から端まで鋭い眼光で見渡すと、口髭を歪めて微笑した。


「私はグランドマザー兵士長兼採用担当ガルボだ。採用するかどうかは面接、そして実技試験で決める。まずは右から3人。面接室へ案内するからついてこい。他の者はここで待機してろ」


 適当に並んだだけなのだが僕は1番右に立っていた。


「1番目かぁ」


 それから面接は始まった。


「武術剣術の経験はあるか?」


「村のお爺さんに1週間だけ剣術の稽古をつけてもらったことがあります」


 村のみんなの修行は生き残るための訓練が中心だった。だから戦いがどうというより、戦いをいかにして避けるかという修行ばかりしていた。得たのは逃げ足の速さと打たれ強さだけだね。うん。剣術はもうダメダメ。


「出身は?」


「シャドウです」


「あの村の人間は村の外に出られないと聞いたが」


「それは特別な力を持って生まれた人だけです。僕はそういう力の無い普通の人間なので村から出ることが出来ました」


 ちなみに僕と同じく村を出られるプーロは孤児で、本来は村の人間じゃない。だから自由に村を出られるし、特別な力もない。でも僕と違って努力を続けていたので、人間の中では強い。まぁ村の人間は人間の領域を外れてるんだけど。


「兵士に必要なものはなんだ?」


 おっと面接中だった。


「野心と向上心です」


「資格はあるか?」


「死角?ありません。無敵です」


「座右の銘は?」


 左右の目?


「左0.9右0.8です」


 兵士長は書類に何かを書いていた。え?良かったの?悪かったの?めっちゃ不安。


 まぁ面接はなんだかんだで全員終わった。


「さて、次は実技試験だ。諸君には木刀でひと勝負してもらう。相手となるのはこの私だ」


 えー。兵士長に勝てる訳ないじゃん。ってか他の人は勝てるの?そんなレベル高いものなの?


「無論、私は手加減をする。あくまで実力を見るだけだから私に勝たなければならない訳でもない。ただし全力でかかってこいよ」


 それから僕は兵士長との試合になったのだけど、隙だらけだったのか瞬殺されてしまった。


 面接の時と違って、今は他の志願兵も見てる。うーむ。恥ずかしい。


 一応実技試験を終えた僕は他の志願兵の試験をじっくり観察することにした。


 流石に兵士長に勝てた志願兵はいなかった。


 だけど瞬殺された志願兵もいなかった。


 ついさっきの醜態を思い出し、顔が赤くなる。


 そして最期の1人の番になった。やる気のない目をした細身の青年だ。


 なんというか覇気がない。多分その場にいた全員が、兵士長の全勝を確信しただろう。だがしかし。


 青年は兵士長を思うさま翻弄していた。当然勝つだろうと思われていた兵士長が子どものようにあしらわれる。4回の鍔迫り合いの果てに、兵士長の木刀は弾かれた。


 青年は勝ってしまった。


「完敗だ。手加減していたからなどと言い訳するつもりはない。お前のような兵を迎えられることを私は誇らしく思うぞ」


「あざっす」


 でもやっぱり覇気がない。


「これで試験は終了、全員採用だ。グランドマザーの兵となった諸君にはパーティを組み、魔王殺しの方法を捜索してもらうことになる。また、パーティ編成は今日の試験を参考にする。具体的な業務を説明するから、明日の正午、城に集まるように」


なんだ。全員合格か。




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