ファイアーライトストーンファイアー
山奥にあるシャドウの村を出た僕達はとりあえず、王都グランドマザーを目指すことになった。距離が近く、比較的大きな町らしいからだ。まずは山を下りるために険しい道を進み、壁みたいな崖を下りる。そして僕たちはやっとのどかな平原に出た。見通しがいい平地に出たことで、魔物の不意打ちに注意を払う必要が無くなる。やっと気をぬくことが出来ると思った矢先にプーロは言った。
「テイン、服を脱いでみな」
意味が分からない。
「僕にそっちの趣味はないよ」
「俺にだってねーよ。まぁ意見三両、堪忍5両だ。いいから脱げ」
何が悲しくて男の前で脱がなければならないのか。無知な僕には分からなかったケド、ここまで僕の代わりに魔物と戦い続けてくれていた親友の頼みを断る理由も無い。僕は素直に素直に従うことにした。パンツ以外の服を脱ぎ、鞄にしまう。プーロの方を見ると既に全裸になっていたので、パンツも脱いでみる。
獣のように素っ裸になってようやく、プーロの意図を察した。
「こっ……!?これは…!?なんだこれ…!股間がヒュッてなって気持ちいい……」
「流石テインだ!もうそこに気づくとは」
全裸になることで生まれる解放感。それに外というシチュエーションが加わることで、身体中に電気が走った。抜けるような青い空のエネルギーが直接全身に注がれる。裸こそが一番気持ちいいことを痛感させられた。
「だがまだだ…まだこんなもんじゃねーぞ…」
「え?」
僕は既に絶頂の感覚を味わっていた。それなのにまだやるのか。まだやれるのか。
「この状態で立ちションしたらどうなると思う?」
「………なるほど……そうか!」
僕たちは既に、村を出た解放感。外で全裸になる解放感を味わっていた。ここのおしっこをする時の解放感を加えれば………?
もはや足し算ではなく掛け算となる。
解放感×解放感×解放感で無限大の快感を得られることは火を見るよりも明らかだった。
いつもこうだ。プーロは僕の知らないことを教えてくれる。だから彼は僕の親友であり、師でもあるのだ。
「君って奴は本当に頭がいいね!」
「あはは!そうだろ!そうだろ!持つべきものは騎竹の交わりってな!」
それから僕たちは全裸のまま、たくさんの話をした。村にいるときプーロは、外の世界に関する質問攻めを受けていた。二人旅を始めてからも、魔物に注意を払っていたせいで中々話をすることが出来なかった。旅を初めて半日経ち、ようやくゆっくり話す時間を確保出来たのだ。
「呪文はなんか覚えてるのか?」
「『ディザーム』だけ使えるよ」
この呪文は対象の防具を外し、防御力を下げる。現存する魔法の中で、最も簡単な呪文だ。その次に簡単な初級属性呪文を覚えようとしたこともあるけど、ディザームとは難易度が桁違い過ぎて諦めた。中級呪文まで覚えれば優れた魔法使いの仲間入りらしいけど、初級呪文すらまともに覚えられなかった僕には才能が無いようだ。
「でも使い道がないんだ」
僕は剣術はヘタッピだし、攻撃呪文も覚えていない。そんな僕が防御力を下げてどうしろっていうんだ。
「そうでもないぜ?女の子にディザームを使えばパンツやブラを外してノーパンノーブラにすることが出来る」
女の子
女の子
女の子
僕は幾度も幾重にも耳に木霊するプーロの声に打ちのめされ、跪いた。
実際問題、ディザームは女の子相手に使える呪文じゃない。なぜなら立派なセクハラ、犯罪だからだ。だけどそういう呪文は覚えているだけで十分なんだ。夢が広がるんだ。
プーロ。君はやっぱり天才だよ。
「あとついでに攻撃役のサポートも出来るしな。硬い敵に遭遇したらディザームを頼むぜ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「もうすぐ王都に着く。そろそろ服を着るぞ」
あの後からほとんどの時間、全裸で過ごした。僕たちはただ気持ちいいから全裸になっているだけだったが、事情を知らない人からは変態にしか見えないことだろう。プーロの判断は仕方のないことだった。
「王都ってさ、僕でも働ける仕事があるかな?」
服を着ながら、僕はプーロに聞いた。結局村を出ても、人間社会に馴染めなければ生きていけない。果たして僕にそれが出来るのか、不安だった。
「城の兵士とかならほぼ確実になれるぜ。どこも人不足だからな」
「それって危険なんじゃ…」
「そうでもねーよ。この辺の魔物は弱いからな。それに新兵はほとんど雑用だ…ん?」
プーロの視線の先には魔物がいた。手足がなくまん丸いフォルムのスライムだ。といっても距離が離れているので、しっかり準備をすれば(プーロなら)難なく倒せる。逃げることだって可能だ。
「ちょうどいいタイミングで魔物が現れたな。せっかくだ、温存した魔力を全部使っちまうか」
プーロは雷を出す初級呪文『ブリッツ』を両手で発動した。手のひらからそれぞれ、雷が現れる。
「いいかテイン、よーく見てろよ。このブリッツ応用して俺オリジナルの必殺技を発動する。滅多に見れるもんじゃねーぞ」
「必殺技!?すごい!」
すると、プーロは口上を述べる。
「俺は弱きを守る避雷針
闇を切り裂く光
岩より硬い意志を持って
激情の火を灯し続けよ……」
雷を自分の胸に当てた。二つの雷は激しさを増し、全身に広がる。
「サンダーライトストーンファイアーーーーーーー!!!!!!!」
そう叫ぶと、プーロは魔物に体当たりした。全身に纏った雷に触れたスライムは、感電し、絶命する。
「どうだ!俺の必殺技だ」
雷はもはや初級呪文レベルのものでは無かった。名前から察するに、他の属性でも同じようなことが出来るんだろう。
たしかにすごい…すごいんだケドさ…
「正直ダサいよ」
「何!?どこがだ」
「口上も酷いケドさ、サンダーライトストーンファイアーって(笑)」
プーロのことは尊敬しているケド、そのネーミングセンスはない。






