プロローグ
夢を見た。
4人の男女が途方もなく巨大な門の前に立っている夢。無邪気そうな顔をした、まだ若い少年は私の息子テイン。共に立っているのは青年…女性…少女…。それぞれ私の知らない人物だった。
「ここが大魔王の城…」
他の3人より一歩前に出てたテインは呟くと振り返り、満面の笑みで尋ねた。
「大魔王を倒したらみんなどうする?」
おいやめろ。
「あの、すいません…今そういうこと聞くのやめてくれませんか?死亡フラグなので」
洒落にならないボケにつっこんだのはテインより少し年かさの女。彼女の額には、秀でた魔法使いの証であるサークレットが載せられていた。
「実はオレには許嫁がいてな。戦いが終わったら結婚するつもりだ」
「嘘ついてまでフラグ立てないでください」
その洒落にならないボケに乗っかったのは覇気のない目をした細身の青年。女は瞬時に反応して青年にツッコミを入れる。
「私は元の世界に帰る方法を見つけなきゃ……ああでも戻ったら就活………それか勉強………ああいやだ………帰りたくない……」
ボヤいたのはテインと同じくらいの年齢の少女。髪は黒のセミロングで、右の前髪を赤色のヘアピンで留めている。
「帰りたくないとか言っちゃダメだよ。アホのモモカちゃんだって家族には会いたいでしょ?」
「うぅ…アホのテイン君に真面目に説教された……悔しい」
「あはは」
アホ呼ばわりされたテインは特に気にしている様子もなく、楽しそうに笑う。
「じゃあ入りましょうか」
女がパンッと手を叩くと、空気が張り詰める。そして4人は用心しながらそっと門を潜る。中には広い空間が広がっていたが、動くものはなく、がらんとしていた。
抜きはなった剣を構えた青年が先陣を切り、慎重に先に進んでいく。
ただただ長い廊下を抜け……
ひたすら大きな部屋を通り抜け……
どこまでもどこまでも……
奥へ奥へ……
そして彼らは、上の階へと繋がる階段を見つけた。
その間彼らは一切の敵に出会わなかった。
「結構長くいたのに妙に静かだね。魔物が襲ってきてもおかしくないのに」
モモカは顎に手を当て、首をかしげている。
「ちっ…うさんくせーな」
青年はぶつぶつと文句を言いながら、階段を昇る。他の3人も後に続く。
「待って下さい」最上階にたどり着き、扉を開けようとした青年に、女が声をかけた。
「邪悪な気配がプンプンします」
4人は互いにからだを寄せ合い、アイコンタクトをした。
「まぁやることはいつもと一緒だろ。突っこむだけだ」青年が言った。
「それは私の仕事です」
「ツッコミじゃねーよ。突撃あるのみ、っつってんだ」
女はボケているのか。天然なのか。
「じゃあ開けるよ」
テインと青年はそれぞれ左右の扉の取っ手に手をかけ、目と目を見交わしあった。呼吸を合わせて、同時に、グイッと引っ張る…
「うおおおおおーーーーーっ!僕たちの勇気が世界を救うと信じてっ!!!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
とまぁ、中に躍り出たテインが打ち切りくさい台詞を飛ばしたところで、夢は途絶えた。
いやまったく、くだらない夢を見たものだ。だが、笑い飛ばして終わる訳にはいかない。
人間というものは、自分の欲するままにどちらを向こうと、どんなことを企てようと、結局はいつでも、自然によって予め画された道に戻って来るものだという。私の夢はその「道」を示す。つまり予知夢によって、可愛い可愛いバカ息子の危機と大魔王の出現が示されたのである。だからこそ、目が醒めてからしばらくの間、私の心臓はうるさく鼓動していた。
ベッドから身を起こすと、あの場にいた3人の仲間がテインの前で殺される、もしくはテイン自身が殺される光景がパノラマのように広がる。これは予知ではない。不安感が生んだ、ただの悪い想像だ。予知であれば、私はあまりのショックで気絶していただろう。
とはいえさっき言ったほど、予知夢は絶対的なものでもない。ハチが村を出て、仲間と共に大魔王の城へ向かう未来ならば、このどれか一つでも阻止すればいい。例えば、村に閉じ込めておく。そうすれば仲間には会わず、大魔王の城へ向かうこともない。よってテインの身は守られる。
一方で私は、迷っていた。唯一の親友プーロが村を出た今、テインに友はいない。なんせ今、村でハチの次に若いのは、母親である私なのだ。村人との仲は良好であっても歳の近い友のいないというのは不憫な境遇に思える。だからこそ、同年代の友人と楽しそうに笑う未来は確かに魅力的だった。
ならば………
村を出て、仲間ができる。そこまではいい。だが魔王との戦いは絶対に阻止する。そんな未来に賭けてみるのも悪くないんじゃなかろうか。
初投稿です。