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碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第三章
9/33

《二》

 数ヶ月前のことだ。

 検体の一人に異変が起きた。

 初めは身体をわなわなと震わせ、痙攣した様子を見せた。しばらくすると、猿轡で口の動きを制限されながらも、呻き声をあげつつ、口元からヨダレを垂らしながら暴れだした。

 さながらてんかん症状のように、床や壁に頭をぶつけ、床をゴロゴロと転がりながら、自傷行為を繰り返していた。明らかに身体に異常をきたしており、ただならぬ事態に研究員も検体を落ち着かせるため、鎮静剤を打とうと彼の元へ向かった。

 度重なる非人道的な拷問にも近い研究により、検体は研究員たちに恐怖心があったため、鎮静剤の投与に抵抗を見せた。そして、これまでの投薬による症状か、検体の力は想像以上に凄まじく、人体のレベルを大いに超えていた。そんな彼の抵抗により、研究員の何人かに死人こそいなかったものの負傷者がおり、その中には重症を負う者もいたという。


 研究所は総出で暴れる男を取り押さえる。いくら常軌を逸した馬鹿力を持っていようとも、複数の人間に押さえつけられれば身動きはとれなくなる。そして、その隙をつき、鎮静剤の投与に成功し、男はそのまま気を失うように目を閉じるのだった。


 実験による成果なのか弊害なのか、人類を超えた力を持ったこの男には、危険性を感じられることから、手足を拘束され、別室に移された。そして、扉には大きく『THE SECOND(ザ・セカンド)』と刻まれることになった。

 そんな彼への扱いは、にわかに宇宙人と囁かれるあの男を彷彿とさせる手酷いものだった。


 一連の騒動は研究員全てに知れ渡り、ここで行われている研究に対して懐疑的に思う者が現れる。もとより、怪しげな研究ばかりを行っていたので、当然の帰結とも言える。そして、検体の常識を超えた馬鹿力を目の当たりにして、そういった化物を今まで相手にしていたのだと、ここで行われる研究がいかに危険なのかと再認識することになった。

 あくまでも雇われた下っ端の研究員は使い捨ての、替えのきく人材で、研究の過程で死人が出ようとも上の人間はどうだっていいのだろう。全てはこのプロジェクトの成果の為で、そのために失う人間の命など、コストの一つでしかないのだろう。

 そんなことを察した研究員は、自分の人生に絶望したことだろう。何人かは脱走を図った。野生動物の群がるこんな山奥で、しかも所在も定かではないことから、まず生きて脱出することは不可能だ。そこまで分かっている者は、これまで通り、研究に従事する。もはや人生に諦めもついていることだろう。例えこのプロジェクトが成功し、つつがなく終わったところで、これらの活動がろくでもない研究なのには違いなく、これまでの行いを口外されては困るのだろうから、自分たちが口封じに処分されることは目に見えているのだ。


 そんな絶望の状況に追い打ちをかけるように、事件は起こることになる。

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