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碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第二章
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《三》

 負傷した涼は公園により、水道にて手をすすぐ。負傷した傷口に流水がしみるため、顔が強ばる。そんな涼の方へ何人かの女子は引っ付いており、気の利いた奴なんかはポーチから絆創膏を何枚か取り出し、手渡している。

 先程涼が助けた少年とその友人たちは礼を言ってすぐさま公園を後にした。現在公園では陽介とその取り巻き、それに月島兄弟のみがいる。とはいえ、その取り巻きの多くは涼の方へと流れてしまい、せいぜい数名程度の規模だ。どうやら、陽介よりも涼の方が魅力的に見えるらしい。今どきの流行りは中性的で爽やかな男子だ。そんな彼と対極的な陽介ではさすがに適わなかったようだ。いつもは付きまとわれて邪魔に思っていたのに、こうも簡単に手のひらを返されると、少しばかり傷つく。とはいえ、それでも清々することに変わりない。煩わしい取り巻きが減ることに喜びを覚える。


 涼の弟である渡は涼の後を追ってやってきた。律儀にも道路をそのまま横切るのではなく、少し歩いたところにある横断歩道を信号まで待って渡ってきていた。人は見かけによらないようで、随分とガラの悪い見た目ではあるがマナーは忠実に守っている。親兄弟の教育の賜物(たまもの)だろうか。ただ、あの風紀の悪そうな装いだけは失敗に終わってる気もするが。


「お兄さんたちって……もしかして永峰高校の生徒ですか?」

 陽介の制服を見るなり、渡はいぶかしげに尋ねてきた。近所では彼らの通う高校は進学校としてかなり有名だった。それだけに制服だけ見れば出身が簡単に割れてしまう。

「そうだけど?」

「へえ……」

 その台詞の裏に「意外だな……」という台詞が隠れているのは明白だった。どうも自分の顔や雰囲気はお利口さんのそれとは違って見えたらしい。まあ、見るからの体育会系で特別地頭がいい方だと思ってもないので致し方ない。


 一通り手当を終えた涼は女子に囲まれており、彼女らとにこやかに話す。なんとなく女子とこなれた様子で話しているように見えた。顔立ちが整って、物腰柔らかで話しかけやすい雰囲気をしているので当然といえば当然だ。そんな涼をぼんやりと眺めながら陽介は渡に問いかける。

「お前の兄貴っていつもあんなんなのか?」

「あんなんって女たらしってこと?」

「違うわ!」

 思わず突っ込んでしまった。まあ、彼のあの様子を見れば誰だってそう捉えるのだろう。気を取り直して、

「向こう見ずっていうか、後先考えずに動いてるような気がしてな」

 と質問の意図を伝える。

 少年を救う時の場面を思い返す。戸惑うことなく飛び出し、少年を見事に救ったのは確かに他の者にはできないことだ。しかし、その行動はどこか自分の命を軽んじているようにも感じた。そして思慮が足りないようにも思える。いつか自分の身を滅ぼしかねないくらいには。

「ああ、なるほどね。大丈夫、お兄さんの思ってるような阿呆じゃないって」

「はあ?」

 別に阿呆だなんて思ってはいない。ほんのちょっぴりだって思っていない。

「もちろん、女たらしのクズ野郎でもない」

「端からそんな印象持ってねえよ……」

 いつまで引っ張るのだ、その話題を。

「兄ちゃんってあれでとんでもなく頭いいから咄嗟の判断でどう動けば正解なのかすぐ分かっちゃうんですよね」

「だからってあんなに迷うことなく飛び出せるとは……」

 少なくとも自分ならば躊躇する。なんなら腰が引けて動けずに見殺しにしてしまいそうだ。

「まあ、傍目から見るとちょっと危なっかしいとは思いますけどね。この間も……」

 先日の夏祭りでとある女性を救った話をする。あの河川敷の件について幸か不幸か、陽介も近場を歩いていたので、騒動については一部始終見ていた。とはいえ、あの騒動にこの兄弟が関わっていたというのには驚いた。そして、なんとなくだが彼の中で涼という人物が少しばかり理解できた。

「格好いい兄貴なんだな」

 女子と楽しげに戯れる涼を遠巻きに眺めながら言った。自分では彼のような行動を起こせない。その事に感心しながら言ったのだ。そんな陽介の返答に対して、さも自分が褒められたかのように鼻高々に自慢げな様子で、

「もちろん! 自慢の兄貴ですよ」

 と言ってのけた。


 しばらく談笑を続けた後、月島兄弟は夕飯の支度があるからと言って、去っていく。二人との会話が楽しくて話し込んでしまった。そして、当初の目的だった瑞希への見舞いをすっかり忘れてしまっていた。

 その後、大急ぎで瑞希邸まで駆け出し、当初の目的だったお見舞いを完遂することとなった。

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