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碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第八章
32/33

《二》

 栗原と別れた後、街へ繰り出す。ここに来るのに特に目的も意味もない。

 先日まで街の至るところで首なし死体が出ていたというのに、今ではそんな非日常などなりを潜め、人々は町中を歩き回り、自動車も行き交う。そんないつもの変わらない街並みとなっていた。

 いつだったか、瑞希と立ち寄った喫茶店を見かける。ここで渡からの連絡を受け、彼女と別れたのだ。そして、殺人鬼に出くわし、彼女は命を落とした。

 嫌な事を思い出し、すぐさま歩き出す。

「陽介さんじゃないですか?」

 ぼんやりとしながら歩いていると前方を歩く男に声をかけられる。金髪で端麗な顔立ちの男、月島渡だった。

「浮かない顔ですね?」

 小首を傾げ、尋ねてくる。

「知ってるだろう? この前の殺人事件で瑞希が死んだんだよ。元気でいられるわけないっての」

「それはご愁傷さまです。俺があなたを巻き込んだばっかりに……」

 酷く申し訳なさそうに両手を合わせて頭を下げる。そんな彼の様子を見て、慌てて取り繕う。

「いや、お前が悪いわけじゃないって。そもそも俺がこの件に首突っ込まなければよかっただけだし、あんな殺人鬼がいなければ、こんな事にならなかったんだし」

 口早にまくし立てる。

 それはどうも、と愛想笑いで返される。気まずくなった両者の間に沈黙が流れる。

「立ち話もなんだし、そこの喫茶店で話しませんか?」

 先程気分が悪くなって立ち去ろうとした喫茶店を指さす。特に断る理由もなかったし、頷いて、そちらへ向かう。

 大して広くもない喫茶店だが清掃の手は行き届いているのか、テーブルから床、窓まで全て綺麗な空間だった。

 椅子に腰かけると、二人はコーヒーを注文する。

「結局あの殺人鬼はどうなったんだ? 実はずっと気になってたんだ」

 開口一番、小声で尋ねる。

 奴と遭遇してから、殺人事件はバッタリと止まったのだ。だから、この頃は穏やかな日常に戻っているわけで、公安やら自衛隊やらが解決してくれたのだろうか、と勘案していた。正直、街の暴走族に聞いたところで納得のいく答えが返ってくるとは思わなかったが聞かずにはいられなかった。

「あれ、うちの兄貴が解決したっぽいんですよね」

 詳しい事はあまり知りませんけど、と半笑いで答える。

 意外な人物が登場した。月島涼といえば、彼の兄で何度か交流もあったが、お人好しの権化のような彼が、あの快楽殺人鬼相手にどうこうできるとは思えなかった。

「俺がけしかけた闇討ちは失敗して大怪我。命からがら身体を引きずって外に出たら、兄貴が突然現れて、あとは俺が何とかするって言って中で激闘を繰り広げてましたね」

 詳しい内情は渡も分かっていないようで、内部の詳しい様子は語られなかった。

「工事現場みたいな轟音が響いてたし、相当激しい戦いだったんでしょうけど、しばらくすると決着が着いたのか静かになって、兄貴は出てきましたね」

 どこか人間離れした空気感を漂わせていたが、本当にあの怪物をどうこうできるとは思いもしなかった。

「結局あいつ一人で解決したんだな」

「そうですね。でも俺のところに来るなり、警察とか救急の連絡だけ頼むとその場で横たわって気絶したあたり、相当無理をしたんだと思います。結局数日は病院生活でしたし、よっぽど堪えたんじゃないですかね」

 渡は両手を上げながら首を振った。

 いつしか、コーヒーが二人の元に届いて、ちびちびとすすっていく。

 満身創痍で気絶するまで戦ったのだから、病院行きも当然か。

「今って涼はどんな様子なんだ?」

「なんだかんだ元気っちゃ元気ですよ。腕を骨折したり、打撲とか捻挫も酷かったんですが、今じゃ回復傾向みたいで、もう左腕以外普通に動くからっていつも通り過ごしてますよ」

「そっか。元気そうならよかった」

 よっぽど堪えたなどと言うものだから、てっきり今もまだ入院生活でもしているのかと思っていたが、思いのほか元気なようで安堵する。しかし、渡の方は対照的に訝しげに小首を傾げる。

「どうでしょうね、普通数ヶ月は入院してもいい怪我をして数日で元気に動けるって正直異常ですけどね」

「……見た目程酷い怪我じゃないって事なんじゃないか?」

 楽観的な答えに思わず失笑する。

「だといいですね」

 渡はそう言うと、立ち上がる。そのまま、自分が注文したコーヒーの代金をテーブルに乗せると、別れを告げ、喫茶店を出ていく。

 陽介もまた残りのコーヒーを飲み干すと会計を済ませ、出ていく。

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