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碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第八章
31/33

《一》

 夏休み最後の週の事だ。

 あれから殺人鬼の一連の事件は収束を迎えた。世間は落ち着きを見せ、いつもの日常が戻ってきた。連日ニュースで取り上げられていた殺人事件もなりを潜め、芸能界のゴシップなどのニュースに切り替わる。

 明け方朝食を終え、出かける準備をしていると、母から彼女の瑞希の話を振られる。そんな問いかけに押し黙り、溜息をつきながら出ていく。

 いつだったか、彼女の訃報を彼女の家族から聞いた。未だに心の整理はついておらず、母にも打ち明けられていない。知らないとはいえ、あの無神経さに苛立つ。

 鬱憤を晴らすこともできず、ぼんやりと何も考えず出歩く。

 瑞希の葬儀が執り行われた時、彼女の家族と話す機会があった。友人関係どころか恋人同士だった事もあり、通夜に参列したのだが、彼女の家族は重苦しい空気を纏いながら声をかけてきた。

 大切な一人娘の恋人という事で、彼女との関係に感謝を伝えてくれたのだが、陽介自身としては申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そもそも自分が連続殺人鬼の件に首を突っ込まなければ、彼女を死なす羽目にはならなかったのではないかと思う。通夜の最中瑞希の母親はところどころ、しゃくりあげながら話す場面もあった。お腹を痛めて産んだ愛娘が成人する前に死んだのだ。母親にとってその事がどれだけ辛い事か考えられない程、人の気持ちに無頓着なつもりはない。それでも、結果として自分の行動が彼女の両親の心を傷つける結果になったのは疑いようのない事実なのだ。結局陽介は告別式に出る事はなかった。その現実に向き合う勇気はなかったのだ。


「おーい」

 薄ぼんやりと公園のベンチに腰かけていると声をかけられた。呼ばれた方を向くと、栗原が目の前に立っていた。

「黄昏てるねぇ」

 相変わらず間延びした声をしており、おもむろに隣に腰かける。妙に距離感の近い奴だ。

「この間の葬式に来なかったじゃん、ちょっと冷たいんじゃない?」

「通夜には行ったさ」

 短く返事をする。

 正直、長瀬家の人と顔を合わせたくなかった。嫌っている訳ではないがどうにも気まずいのだ。

「あっそ」

 興味なさそうに返事をすると持っていた缶のコーラのブルタブを開ける。プシュッと炭酸の抜ける音がする。

「瑞希ちゃんのお父さんちょっと寂しそうだったよ?」

 グビグビと飲み進める。

 瑞希の父はクラスの連中に陽介や瑞希の事を聞いて回ったそうだ。通夜の時から落ち込んでいる陽介の事が気がかりだったらしい。

「……そんなに俺が行かなかったのが悪かったのか? こっちだって色々滅入ってんだよ」

 ボソッと吐き捨てるようにつぶやく。

 そんな陽介の様子に栗原の方も言葉を失ったのか、しばらく静寂が走る。

 失言だった。

 勝手に自分が責められているように感じて逆ギレのような反応をしてしまった。実際彼女が死んだ事に自分にも責任の一端があるのだ。

 そんな両者の間の沈黙を破ったのは栗原の方で、

「恋人同士だったしあの場にいるのが自然だと思っただけだよ。大して仲良くないあたしでも行ったくらいだしさ」

 と話し始める。

「今日の様子からして、別にダルくて来なかった訳でもないみたいだね。だったら尚更君がふけた理由が気になる」

 栗原の様子に溜息をつき、

「……お前って本当デリカシーないのな」

 と肩を落とす。

「中学からの付き合いだし、知ってるでしょ?」

 コーラを飲みながら返す。

「あいつが死んだの半分俺のせいみたいなところあるんだよ。俺が巻き込んじまったから、死んじまった……」

 顔を俯けて、独り言のように喋る。栗原はそんな陽介の言葉を黙って聞く。

「危ない事だって分かってて、あいつにも止められてたのに、首突っ込んじまった俺の責任なんだ。だからあいつの家族に合わせる顔がないって思ったんだよ」

「そっか、そうだったんだ……」

 珍しく栗原が言葉を詰まらせる。そして、両者の間にまた沈黙が流れる。

 しばらく両者は黙ったまま佇んでいた。いつしか、コーラを飲み干したのか、空き缶を手元に置くと立ち上がる。そして、長い沈黙を破り、口を開く。

「責任か、難しいっすね」

 おどけた様子で膝を叩く。そんなふざけた様子に少し腹が立ち、ぶってやろうかとも思った。しかし、間髪入れず、

「気持ちの整理もつかないし、今の状態じゃ難しいだろうけど、やっぱ葬式には来た方がよかったと思うよ。責任感じてるんなら尚の事。君の気持ちを敢えて言葉にしなくてもいいけど、やっぱり行くべきだっただろうね」

 と神妙な面持ちで話す。

 先程自分で言ったように、自分の行動の責任を考えれば彼女の言った通りだ。

「いつか気持ちの整理がついたら皆でお墓参りでもしよ?」

 珍しく栗原が気を利かせてくれた。

 ああそうだな、と返すと栗原は公園を後にした。

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