表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第七章
27/33

《三》

 渡達暴走族集団と殺人鬼の戦いの最中だ。瑞希は陽介に言われるまま一人で逃げ続けていた。息を切らしながら、ショッピングモールから離れ、入った事のない公園まで来た。走り続けて喉も渇いていたので、一度休む事にした。

 あまり広い公園ではないようで、住宅街付近にある小学生がよく使っていそうな公園といった規模感だった。水飲み水栓があったので、すぐさま蛇口を捻る。あまりにも喉が渇いていた事もあり、大きく捻ってしまった。水は勢いよく噴出し、高さ数メートルほどまで飛び出した。慌てて調節するも、頭から被ってしまう。

 結局、水を飲むために全身水浸しになってしまった。何分久しぶりに使ったものだから、力加減が出来なかったのだ。

 喉を潤した瑞希はそのままベンチに腰掛ける。掃除はそれほどされていないようで、落ち葉やら砂利やらで少々汚れていたが、構わず腰掛ける。酷く疲れていた。明確な殺意を持って追われる経験なんてなかったのだ。自然と気疲れしてしまう。

 あの後陽介は逃げられたのか、はたまた殺されてはいないだろうか、とあれこれ考えてしまう。ただ座っているだけなのに心臓の音が聞こえる程に動揺している。動悸は収まらず、気分も落ち着かなかった。

 ふと、涼の事を思い出す。彼は瑞希に対して陽介を見つけたらこの件から手を引くよう伝えて欲しいと頼まれたのだった。結局彼は静止など聞かず、無謀にも向かっていったのだ。ただ、他にも殺人鬼と遭遇した場合は涼自身に連絡するよう言われていたのだ。実際に遭遇していた訳だが、逃げる事しか考えられず、連絡を取る事など出来なかった。

 ポケットからスマホを取り出す。いわゆるSNS系のアプリに先程交換した涼の連絡先が表示されていた。


 すぐさま彼に連絡しようとしたタイミングの事だった。遠くから人が駆けてくる足音が聞こえた。何事かと思い、足音の方を見つめる。徐々に近づく足音の正体はいつか見た月島渡のものだった。

 急いでいるのか、何かから逃げるように走っている。瑞希の存在など気付かず、そのまま素通りする。園内のベンチに腰掛けているのだから、気付かないのも無理ないだろう。

 そんな渡のすぐ後に例の殺人鬼が現れる。

 背筋が強ばる。鼓動はますます強くなった。べったりとした汗がたらりと垂れてくる。荒い呼吸で気取られないよう必死に口元を押さえ、やり過ごす。幸い瑞希には興味がなかったのか、彼女には目もくれず、渡を追っていく。余裕綽々といった様子で、とぼとぼと歩く。不気味なまでの不敵な笑みを浮かべたそいつは、一定間隔距離を保ったまま彼を追っていく。

「……陽介くんは!?」

 自分を逃がすため、たった一人で立ち向かったはずの陽介はこの場に現れなかった。

 胸騒ぎがして、涼より先に陽介に連絡を取ろうとする。通話機能を利用して電話をかけるが、何が起こっているのか、彼は一向に出てこない。

「まさか、死んじゃったの……」

 頭が真っ白になる。最愛の人だったのだ。昨日まで普通に過ごしていたはずの二人だったのに、たった一日の非日常で今までの生活は台無しだ。

 恐怖と同時に悲しみと怒りすらも湧いてくる。様々な感情が湧き上がり、興奮気味の瑞希の手はぶるぶると震えていた。そのまま、涼へと連絡を取ろうとする。発信してしばらくすると、

「もしもし」

 と涼の声がする。

 どうやら彼はまだ無事だったらしい。

「あ、あのね、さっき例の男を見かけたの」

 声もまた震えてしまい、吃ってしまう。

「本当に? どこに行ったの?」

「えっとショッピングモールの近くにある公園で見かけたの。だけどすぐにどこかに行っちゃって……多分方角的には工場跡地の方だと思う」

「そっか、ありがとう」

「うん。あとそれとね、多分君の弟も一緒にいると思うの。渡くんが男を引き付けて走っていったのを見たの」

「……何だって!」

 渡の名前を出した瞬間、取り乱したようで彼の動揺が電話越しにも伝わる。

「分かった。すぐにそっちに向かうよ。」

「う、うん。それじゃあ、気を付けて、ね……」

 懇願するように言ってしまう。涼の方は、うん、と頷くと彼の方から通話を切る。

 普通ならあの危険な男に引き合せる真似などしないだろう。ただ、涼の人間離れした身体能力を目の当たりにしてしまうと、彼ならば事態を解決出来るのではないかと期待してしまう。そんな期待感を持った矢先、冷静に自分の中であの殺人鬼に怯える日常を送ることに対する恐怖から出る願望なのだと達観している自分もいた。

「嫌になっちゃうな、女だからって、ひ弱だからって逃げ出してばっかで……」

 きっと誰かがこの状況を何とかしてくれる、そんな期待をしてしまう他人任せな自分に嫌になって独白する。だからといってあのような人智を超えた存在に対抗できる訳でもないのだ。

 自己嫌悪に陥りながら、啜り泣く。しゃくりあげながら、帰路へ向かう。そんな彼女の目の前に、またしても爆音とともにあの男が現れる。

「必死で逃げ回って挙句、俺の住処に来ちゃうなんて、つくづく運が悪いな。さっきの携帯の音ってあんたのだろう? 誰か呼ばれて騒ぎになんのも嫌だし、ここで殺してやろう」

 震え上がる瑞希の目の前でブツブツと呟きながら、近づく。

「……近寄らないで!」

 震えながらも顔面に平手打ちを食らわす。しかし、殴られたことなど意にも介さず、不気味に笑みを浮かべながら近づく。瑞希は恐ろしさに震え上がり、もたつきながらも全速力で走り出した。

「逃げられるのも厄介なんだよな、さっさと殺しちまうか」

 不敵に笑みを浮かべながら、瑞希の後をつける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ