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碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第六章
23/33

《二》

 日は傾き、時刻は午後の三時を回った頃だ。

 兄は学校で学校祭の準備があるそうで、出かけており、渡自身は特に用事などなく、自宅で呑気にテレビを見ていた。昼のバラエティ番組は終わり、昔放送していたドラマの再放送を見ていた。取り立ててその番組が気に入っているわけではなかったが、暇を潰すには丁度いいものだった。

 自堕落に冷房の効いた下手でくつろいでいる渡の元へ一本のメッセージが入る。通知音が鳴り、おもむろにスマホを手に取る。暴走族の仲間からのメッセージだった。とある工場跡地でそれらしき男を見かけたという情報だ。

 どうやら探していた男の根城を見つけたらしい。数回のやり取りを終え、その工場跡地へ向かう事を伝えると、すぐさま出かける準備を始めた。

 ヘルメットと長袖の上着を手に取り、車庫まで向かう。普段は兄である涼の送迎のため、サイドカーを付けていたが、今回は彼を連れ出す用事ではないため、外して出かけることにした。

 バイクにまたがり、出発しようとしたところで陽介のことを思い出す。情報を提供してもらうつもりで接触していただけだったため、あまり役に立つとは思っていないが、協力して殺人鬼を追う話になっていたので、彼に連絡することにした。


 連絡を済ませると、すぐさま出発した。

 メッセージによると街の外れにある営業していない町工場を根城で見つけたらしい。月島家から距離はあるものの、一時間以内で到着する距離だった。

 アクセル全開で飛ばして向かう。結局のところ予定より巻いて到着した。

 現場には暴走族の仲間である五人がいた。渡が到着するなり、彼に近づく。

 エンジンを止めて、工場から少し離れたところに仲間が停めたバイクが並んでいたので、そこに駐車させる。今いる五人も丁度数分前くらい到着したようで、誰も中の様子が知らないらしい。現在は大体四時を回った時間帯で周囲はまだ明るい。殺人鬼の男は辺りが闇に覆われてから活動することが多い。現状まだ奴の活動時間ではなかった。日が落ちるにもまだ時間がかかる事もあり、立ち往生したところで動きはないだろう。

「ひとまず、場所を変えることにしよう」

 そう呼びかけ、バイクを押して工場から離れる。とはいえ、そちらの様子を伺えるようある程度遠目から見える距離で往生する事にした。

 中へ突撃するには陽介を待ってからにするつもりで、彼が到着してから行動に移す算段だった。

 だが、仲間の内二名ほどはそれに賛成できないようで、少々ごねた。見ず知らずの男が何の役に立つか分からないという理由だった。至極真っ当な理由だった。渡自身も陽介が多少腕の立つ男である事は知りつつも、自分や兄程の働きを見せるかと言われると到底そうは思えなかった。とはいえ、年長者であり、顔を建てるには彼を待つより他なかった。

 何とか数的優位を取るつもりだとか、あれこれ理屈をつけて説得した。

「お待たせ」

 ちょっとした口論をしていたところで、陽介が到着した。身長は優に一八〇センチを超えており、相当な圧迫感のある容姿をしていた。身体も鍛えているのか引き締まった容姿をしており、どちらかと言えば細身なのだが、弱々しい印象は与えない。彼は半袖のシャツに半ズボンといった服装だった。いかにも動きやすそうな服装だった。

 陽介に仲間を紹介し、工場跡地に例の男がいるかもしれない事を伝える。

「善は急げって言って突撃したいところだが、現状全く動きのないあそこに行くにはリスクがあるよな」

 工場跡地を指差しながらつぶやく。

 見た目にそぐわず、随分と冷静な物言いをしている。

「同感です。ただこのままここで待っていても進展しないとは思うんで、一度あちらへ向かう必要があると思います」

「……そうだな、立ち往生に意味があるとも思えないし、中の様子を見るくらいならやってもいいかもな」

 冷静に考えて動ける人間がいると心強い。信頼できる仲間を連れてきたが、彼らはどうも短絡的すぎる。こういった事に頭が回らないのだ。


 殺人鬼が根城にしているであろう工場跡は大体学校にある体育館くらいの規模感だった。窓はあるがかなり高い位置にあるようで、中を覗けるようなものではなかった。

 中の様子を伺うには入口の扉を開けるしか手段はないらしい。

「ひとまず中に入るしかないようだな」

 そう言って陽介は入口の扉に手をかける。鉄製の扉で、かなり重量があるのか開閉するのに時間がかかった。

 扉を開けると途端に中から生臭い腐敗臭が漂ってきた。あまりの異臭から全員鼻を抑える。

 一行は鼻を抑えながら、中に侵入する。

 先陣切って陽介が入ったが、すぐさま足を止めた。現場には人の死骸が何体も転がっていた。

 どれも無惨に頭部を潰された死骸で、四肢をもがれたものや、内蔵が飛び出ているものなど、惨いものばかりだった。その上、それらがまとめられているわけではなく、無造作に捨てられる形で放置されていた。あまりにも凄惨な状態だっただけに、陽介は嘔吐いて口を抑える。

「おい、まさか奴はいないのか」

 渡は至極冷静な様子で周辺を確認して、声を荒らげる。

 突き止めた工場跡地が奴の根城なのは間違いなかったが、奴はこの場にはいないらしい。

「妙だな、見つかる死体はどれも夜間に殺害されたものばかりだって聞いていたんだが……奴は夜間に動き出すわけじゃなかったのか……」

 口元を抑えながら、ボソボソとつぶやく。

「……いいや、それはあくまでもここ最近の話だ。夏祭りの頃までは昼間の死骸も見つかっていたよ」

「……早とちりだったか。通りで全く動きがないわけだ。ここにいないんじゃあ、何も起きやしない」

 喧嘩ばかりして、血みどろになる事も少なくない渡としても、ここに長時間滞在すると気分が悪くなる。ひとまず、工場を出る事にした。

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