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碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第五章
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《四》

 瑞希とのデートを終え、陽介は一人とぼとぼと歩く。日も暮れて、街灯も仄かに明かりを灯す。

「いつまで着いてくるつもりなんだ?」

「……気づいていたんですね」

 翻った陽介の先には渡の姿があった。

 しばらく後を着けていたらしい。このご時世警察やマスコミでもないのに尾行するとは怖いもの知らずにも程がある。このまま警察に駆け込めば即刻ストーカーで捕まえて貰えそうだった。

 とはいえ、彼がそんな理由で着いてきたわけでもないことは容易に想像できる。

「悪いがお前が欲しがる情報は何もないぜ」

 両手を上げ首を振った。

「そもそもなんでお前らはそんな危険な奴を追い回すんだ? 警察にでも任せておけよ」

「こっちにも色々事情はありましてね。そういうあなたこそ、随分察しがいいですね。何か企んでたりするんですか?」

 疑り深く睨めつける。

「君って兄貴の前だと結構猫かぶってるよな」

「この間のことを言ってるんですか?」

 ますます警戒を強めた険しい顔になる。

 以前瑞稀のお見舞いに行くとき月島兄弟二人に出会った。そのときは気さくな印象を受けたが今日に限ってはそんな雰囲気を微塵も感じられない。

 しばらく二人の間に気まずい沈黙が流れる。陽介は呆れた様子で両手を上げて口を開く。

「……別に何も企んじゃいないさ。察しがいいって君は言うけど、単に君の表情が色々物語ってたからってだけだ。たぶんその様子じゃあ俺の連れにだってバレてるんじゃねえかな」

 不敵に笑ってみせると、渡の方はバツが悪そうな顔をする。

「君らが追ってるのは近頃世間を騒がしてる連続殺人鬼なんだろう? 君を筆頭に街の不良共が殺人犯を追うだなんておかしな話だ」

「ええ、その通りですよ。俺たちは連続殺人鬼を追っておる。訳は単純ですよ、仲間が何人かそいつに殺されたから。うちの連中怒り心頭でそいつを殺してやるって息巻いてるんですよ」

 渡はため息混じりに話した。

 仲間意識が強いのか、仲間のためにそこまで息巻いてることに感心してしまう。

 陽介自身、身近な人間で同じように殺されて、復讐に燃えるようなことがあるだろうか、いや考えるまでもなく、そんな気は起こさないだろう。例え彼女である瑞希を手にかけられたとしても、せいぜい葬式で涙を流し、悲しむだけで復讐まで企てることはないだろう。

「……だけど、肝心な君自身の気持ちが分からないままだな。仲間のことなのに随分他人行儀な言い回しをするから、君自身は別の理由で動いているんだろう?」

 ため息混じりに呆れたような物腰で語っていたのだ、陽介にはそれが他人行儀にしか映らなかった。

「見透かされてるみたいですね……」

 敵わないや、と首を振る。

「うちの兄貴が厄介事に巻き込まれないようにするためですよ」

 朗らかに言い放った。開き直ったのか、素直な気持ちをはっきりと口にした。

「俺と違って兄貴は優秀なんです。あんな殺人鬼の餌食になって命を落とすべきじゃないんですよ。だから、俺が命に替えても奴を殺す。兄貴が殺されたりする前にやってやる。俺は頭が悪いからこんな方法しかなかったんです」

 警察に任していればそのうち捕まえてくれるのだろう。しかし、そのうちの間で万が一にも兄の涼を失うのがよっぽど嫌だったのだ。彼はその一心で殺人鬼を追っているのだ。

 傍から見れば馬鹿らしいの一言でまとめられそうな話だった。陽介自身、彼の物言いにいくつか突っ込みたくなる。

「それで、あなたは俺にこんな話をさせてどうするんです?」

「……俺は……」

 彼らのように自分の中で戦う決心をつけられていない。そのためはっきりと答えることができないでいた。

「俺の学校の先生が殺されたんだ。ニュースにもなった。別に特別好きだったわけでもない。むしろろくな授業もしないつまらない教師だって思ってた。だけど、顔見知りが亡くなったって聞いていい気分はしなかったんだ。きっと誰が死んでも同じ気持ちを抱くんだと思う。親が死のうが、彼女が死のうが、友達が死のうが……。俺はそいつを殺そうだなんて思えない。だけど、野放しにもしたくない。お前たちみたいに即決で殺そうだなんて思うことを正直馬鹿らしいとさえ感じている。だけど、それができない自分にもどかしさも感じている……」

 だらだらとまとまっていない気持ちを言い連ねた。渡は静かにそれを聞き続けた。

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