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碧き流星の煌めき  作者: 井嶋勇助
第四章
13/33

《二》

 起床してすぐ、日笠陽介は母親に呼び出された。

 客人が来ていたそうだ。

 未だ高校生の自分相手に営業でも持ちかけてくるビジネスマンでも来たのだろうか。だとしたらずいぶんと仕事熱心な方なのだろうな。努力は空回り気味だが……。そんなことを思いながら階下へ向かう。すると、玄関にはスーツを着た怪しげな商品を売りつけようとする営業マンなどおらず、自分の母親と朗らかに話す女子高生が一人いただけだった。

「なんだ、瑞希か……」

 目を細めながら言った。

 瑞希は彼の顔を見るなり、ぱっと目を見開き、とびっきり嬉しそうな顔をして、

「おはよう! 迎えに来ちゃった」

 と照れくさそうに話すのだった。

「……迎えって、まだ七時回ってねえじゃん」

「だって、陽介に会いたかったから……」

 目に見えて分かるように落ち込んでみせた。普段やたらとがめつい自分の彼女がこうもしおらしくしていると冷たくあしらうことに罪悪感が生じてしまう。

 半ば呆れつつ、ため息をつく。

「すぐ支度するよ。そこで立ってるのもなんだし、その間家の中で待ってろよ」

 そう言いながら後方に親指を向けた。

「じゃ、じゃあ、お邪魔します!」

 声を裏返しながら、そそくさと靴を脱ぎ部屋に入る。

 緊張しているのか、肩に力が入っており、顔がほのかに赤味を帯びている。

 そういえば、瑞希を家に上げるのは初めてのことになる。俺がこいつの家に訪れることは何度かあったものの、その逆は一度もなかった。そんなことを思いながら、瑞希のようすを観察する。

「それじゃあ、着替えてくるから」

 そう言ってリビングから出て、自室へ向かう。

 着替えを済ませリビングへ向かうと朝食を食べ始める。味噌汁に茶碗一杯の白米、目玉焼きとそれに添えられる形で並べられたレタスとウインナー。いつもの朝食だ。

 黙々と食べ進めている間、瑞希は行儀よく座ってテレビを見ていた。

「瑞希よ、お前の家からここまで来ると逆に学校まで遠回りにならないか? 一緒に通学するなら俺がお前ん家に行く方がいいと思うんだが」

 陽介が問いかけると、くるりとこちらに顔を向け、微笑みかける。

「だってさ、この前病気で私が休んだとき、家に来てくれたじゃん。あれが嬉しくってね。最近温度差とか感じちゃってたから、そういうのでときめいちゃって、またすぐ会いたいなって思って来ちゃった」

 そんな浮ついたことをうっとり顔で話す。

 あまりにストレートに自分の感情を表現する彼女に辟易した陽介は、手に持った箸が止まってしまう。お金持ちで、どことなく世間ずれしてないお嬢様の言葉は強烈だった。

「……そうかい。喜んでもらえて俺も嬉しいよ」

 苦笑するしかなかった。

「今度陽介が病気になったらお見舞いに来てあげるね」

「あ、ああ、病気になったらね」

 おそらくだがこいつが俺の見舞いに来ることは今後ないだろうな。そんなことを思いながら適当な返事をした。


 陽介は瑞希と会話をしながら朝食を食べ進めていた。その間、台所の方から母親の視線を感じ、気が気でなかった。後ろからカップルの浮ついた会話をにやにやした母に覗き見されているのだ。そんな中平然と喋っていられる瑞希はどうかしている。


「ねえ、このニュースって……」

「ん?」

 瑞希は不意にテレビの方へ顔を向けて、押し黙った。陽介もつられてテレビに視線を移した。

 するとテレビの画面には、とある事件の報道がされていたのだった。

 この頃近辺で話題になっている連続誘拐事件なのだろう。そして、今度も誰か知らない人が誘拐され、行方不明になったのだろう。そんな風に、どこか楽観的に様子を眺めていた。しかし、今回番組で取り上げられた者の名前には覚えがあった。

「新島って……」

「まさか……」

 番組内で彼らのよく知る新島教諭が殺害されていたことが報じられた。

 昨今世間を騒がせている誘拐事件の被害者は例外なく行方不明として報じられてきたが、今回は明確に死亡者として報道された。なんでも首なし死体として発見されたようだ。

 突然自分らのよく知る人物の訃報に、二人は固唾を飲んで押し黙るしかなかった。

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