《三》
研究所の地下から爆音が響いた。
警報機がけたたましく鳴り響く。騒然とした所内では、研究員たちが慌ただしくしている。事態の原因は明らかだった。検体の一人が檻を破って暴れ回っているのだ。
警報機が鳴り響く中、男は悠然と歩く。
ボロボロの拘束衣を纏い、両手両足を縛っていた拘束具をそのままぶら下げている。持ち前の怪力で引きちぎったのだろう。なにしろこの男は先日の騒動を起こしたザ・セカンドその人なのだ。身体に異変を起こし、ひとしきり暴れ、全身を襲う痛みに耐え抜いた後、鉄製の鎖では縛りきれないほどの怪力を得たのだ。
セカンドは鎖を床に引きずりながら、目に映る全てを壊して回る。
防犯カメラはもちろん、窓や扉までも。
壊した機会から火花が飛び散り、漏れだしたオイルなどに降りかかり、燃え上がる。直にこの施設が焼失するのは明らかだった。
セカンドはなにかに導かれるように施設内を歩く。そして、向かう先には頑強な檻に閉じ込められた、髪の長い痩せ細った男がいるだけだった。檻の手前に小さく『origin』と記載されているのが見える。
研究員たちの一部では、この男が宇宙からやってきた死者だとか、侵略者だとか、噂されている。そんな男が、地球の人間に捕らえられ、好き勝手されているのだから、滑稽なこと甚だしい。
「俺たちは……お前のような奴のために、こんなところに……」
鉄格子を挟んで、対面する。
今にも消え入りそうな命を目前にそんなことをつぶやく。通称オリジンと呼ばれるこの男の研究のため、無為に村の人間を連れ去られてしまい、かくいう自分自身もまた誘拐されている。一見弱った人間にしか見えないこの男のため、尊い命が粗末にされたことにふつふつと怒りが湧いてくる。
オリジンと呼ばれる男はゆっくりと顔を上げる。
長い髪に隠れた瞳はその隙間からきらりと輝く。
「なあ、俺たちってこんな目に会わなきゃいけないようなことをしたって言うのか?」
声を震わせながら問いかける。オリジンはそんな問いかけには一切答えず、セカンドをまじまじと見つめる。
無言で自分を見つめる痩せ細った男は微動だにしない。餓死寸前の姿なのだから、こちらの問いかけに答えられる余裕なんかないだろう。そして、この男に向けた怒りというものはほとんど八つ当たりに等しい。彼だって紛うことなく被害者なのだ。わけも分からず連れ去られて捉えられたのは、なにもセカンドの暮らしていた村の住民だけではなかったのだ。
やり場のない憤りを抑えながら、セカンドは檻をへし折り、オリジンを縛っている鎖を引きちぎる。オリジンは力なくうなだれる。
「……お前もこんなところ、さっさと抜け出すといい。このままじゃあ死ぬまで検体のままだぜ」
セカンドはそう言い残すと、頑強な鉄格子の部屋を後にした。




