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桜舞う音  作者: 桜月まき
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二 同好会 (2)

それからすぐにぼくは家に帰ったけど、帰っている途中から、ケータイにひっきりなしに明日香先輩からメールが入ってくる。は…早すぎる…。明日香先輩、部活中なのでは…?


ま、でもそれはぼくにとっては嬉しい悲鳴っていうの? どんどんどんどん緑川由奈穂さんの情報が集まってきて、どんどんどんどん、近くに感じ始める。


誕生日は三月三十一日、おひつじ座のA型。


好きな食べ物はミルクレープ。


お菓子を作るのが趣味で、得意なのはカップケーキ。


好きな教科は古典、苦手な教科は体育…ってか体はあまり丈夫ではないらしい。


…などなど、基本的な情報が、ひとつひとつ入ってくる。まとめてでもいいのに…。まぁ、ひとつひとつがぼくには嬉しいから、それでもいいか。


ケータイの画面見ながら、いつの間にか家に着いていた。ただいまーと感情のこもらない惰性の言葉を口にしながらも、意識はずっと明日香先輩からのメールにロックオン。


「って! なんだよ、浩央か!」


何かにぶつかった、と思ったら兄の一弥だった。ぼくが無意識に居間の扉を開けるのと、兄貴が居間から出てくるのと同時だったらしい。


「あ、ごめん、兄貴いたんだ。」


図らずも心なしか柔和な声になっていた。人って、嬉しいことがあると言動に思いっきり出るんだなぁ…。


ぼくの様子に兄貴は目ざとく気づいたようた。


「ん? 浩央、なんかいいことあった? あぁ、さては例の彼女、見つかったな?」


…かぁぁっ。ポーカーフェイス決めたかったのに、顔が勝手にのぼせやがった。


「あ、図星ぃ~。」


ニヤニヤ顔で兄貴がぼくの頭をぐりぐり撫でる。ちっくしょ、やっぱりぼくってわかりやすいのか?


っと、その時明日香先輩の真っ赤な顔が浮かんで、同時に思い出した。あぁそうだ、交換条件!


「それとは別に…ってか、兄貴に話があるんだけど…。」


ぼくは兄貴の腕を振り払って、兄貴を見上げる。ん? と首をかしげる兄貴。…うーん、明日香先輩、いつから兄貴のこと…。まぁ、優しいのは認めるけど。


居間の入口で立ち話もなんなので、とりあえずぼくは鞄を置きに行きがてら自分の部屋に兄貴を引っ張っていく。


鞄置いて、制服から部屋着に着替えながら、ぼくは兄貴に明日香先輩との放課後の一部始終を話す。


「…そぉかぁ…。俺は実の弟にこの身を売られたわけかぁ…。」


 話し終えるとぼくのベッドの上に腰を下ろしていた兄貴がぱたん、とベッドに倒れこんで言った。


「身を売られたなんて、人聞き悪っ!」


 苦笑すると兄貴は腹筋を使って起き上がって反論する。


「だってそうだろーが。その“桜の君”の情報を得るために交換条件として明日香ちゃんに俺を売った、ってことじゃん。」


「うーん…」


 でも明日香先輩の方が強引だったし…なんて言い訳は通用しないんだろうなぁ。困った顔をしていると兄貴がぼくの頭をはたいて面白そうに笑う。


「冗談冗談。ちょうどよかったよ。俺先月末でバイト一つ辞めたから、その代わりになるし。明日香ちゃんちなら近いしな。」


 ちょっとホッとしてぼくもはにかんで笑い返す。その時またメール着信音が。


「あ、また明日香先輩からだ。」


 メールを開く。兄貴も横から覗き込んでくる。


『出身は西中。でも今はS町で一人暮らししてるみたい。何でも母親が再婚したからって。』


「へぇぇ、一人暮らしかぁ…オイシイな。」


 ふんふん、と兄貴が呟く。…オイシイって、なにが?


「彼氏いんのかな?」


 唐突に兄貴が、最もぼくが知りたいこと…知りたくて知りたくて仕方ないんだけど、知ってしまうのが怖いというか…わざと遠まわしにしていた、最も重要な問題をさらりと言ってのける。あ…あえて避けてたのに…っ!


 急に動悸が激しくなる。緑川由奈穂さん…彼女の顔を、保健室で間近に見たあの微笑みを思い出して、かぁっっっと顔が、耳までもが熱くなる。


 …そりゃ、あんなに綺麗な人だから…彼氏くらい、いてもおかしくないけど…。


 その時再びメール着信音。


「お、またメールだ。」


 ぼくの手からケータイを奪い、勝手にメールを開く兄貴。のぼせてボーッとしていて咄嗟に反応が遅かった。さっきとは逆に、ぼくが兄貴の横からメールを覗き見る体制に。


『部活の所属は“超常現象研究会”っていうなんだか怪しげな名前の同好会。正式な部活動ではないし、部員(会員?)は二人しかいないんだけど…。緑川さんは一応副会長。会長は“御倉まい”って言って、緑川さんといつも一緒にいる。御倉さんはなんか目立つ存在だし、二人、タイプは正反対なんだけど、すっごく仲が良いみたいだよ。』


 …ちょ…超常現象、研究会…?


「…なんか胡散臭い同好会だな…。」


 ぽそっと呟く兄貴に同感…。なんでそんな謎の同窓会に所属してるんだろ…?


 メールをよくよく見ていてハッと気がつく。“御倉”という名前に、聞き覚えがある。尾の出だしたのはあの保健室での夢のような時間を文字通り(?)ガラガラと音を立てて終わらせてくれた赤毛の女子生徒。…緑川由奈穂さんの友達…あの人か。


「…なぁ浩央。」


 兄貴がぼくのケータイを持ったままぼくの名を呼ぶ。保健室のシーンに舞い戻っていたぼくは兄貴の

その声で自分の部屋に戻ってきた。


「なに?」


「…メール、もどかしくね? 明日香ちゃんに直接聞きゃいいじゃん。」


「あっ、でも明日香先輩部活中…!」


 ぼくが止める間もなく、兄貴はぼくのケータイで明日香先輩に電話をしていた。




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