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短編集

介護施設利用者と誤嚥窒息死

作者: 青井 蒼夜

『気ぃつけて、行ってきぃや』

それが自分と母が聞いた祖母の最後の一言となった。


先日の夕方ごろ。夕食の買い物に行く前に祖母の介護施設を訪れていた。

自宅からは歩いても10分足らずの場所で、母は用事がある時以外は毎日顔を出していた。

その日の週末には姪(祖母にとっては曽孫)の誕生日があり、昼頃には顔を出すとの約束だった。


あくる日の朝、父が慌てて母を起こしに来た。父の携帯に介護施設からの緊急連絡があったと。

普段の連絡先は母の携帯になっているのだが、緊急連絡先は父の携帯になっていた。

介護施設のベテランの職員の方々はウチの父が鬱病持ちで緊急時には役に立たないのを知っているので

父の携帯に緊急連絡が掛かってくるのは普段ではあり得ないことだった。


祖母が朝食に出たレーズン入りのパンが喉に詰まり心肺停止状態で病院に担ぎ込まれたと。


祖母は90歳を超えていて去年ぐらいから流動食しか食べられない喉になっていた。

医者の診断も受けており「ベテランの職員の方々」はその事を理解しており、

パンを与えるにも柔らかくなるように温かい飲み物を添えて出すのが当たり前だったのだが、

その日の担当介護士は早朝勤務の二人とも入って少ししか経っていない新人だったそうで、

何の疑問も持たず祖母にレーズン入りのパンを与えたそうだ。


確かに10年以上前にその施設に入所した時は「朝の食事はレーズン入りのパンにして欲しい」と祖母が希望していたのは知っていた。

だが、医者からもケアマネからも固形物は無理との診断を受けていたはずなのに、何故この新米どもは

10年以上前のデータを信用したのだろう。入れ歯すらもう入れられる状態ではなかったのに。


案の定病院に担ぎ込まれた数時間後に祖母は意識が戻ることなく脈が停止した。

介護施設内で亡くなったと言うことで警察の検死が入り、虐待などは無かったかなどの取り調べがあった。

結局のところその朝食時、他の利用者の一人が嘔吐して担当者一人が掛り、もう一人も誤嚥がある患者数人を一人で管理していた為、祖母が俯いて微動だにしていないことに気づいたのが約十数分後。

救急車が来るまでの30分ぐらいも歳が歳だけに心臓マッサージなどが出来ずほぼほぼ放置されたそうだ。


検死が終わり祖母の遺体が戻されることになったが、何故か検死料金と湯灌料金、死体検案書料金で約十万円を警察から請求された。

疑問に思い警察官に「事件にしたのは介護施設側であり向こうに請求して欲しい」と言ったのだが

施設側は「利用者が朝食に希望していた物を提供していただけで施設や関係者に罪はない」との回答があった。


後日葬式の日に施設の代表者や関係者が参列に来たが、謝罪はするものの支払いは一切行われず今までに至っても全くなしのつぶてだ。


インターネットでこう言う話題を調べてみても「80歳以上の介護利用者が誤嚥により窒息する事態は防止出来ない」と言うのが一般的な意見らしく、一切の責任を取る必要がないと言う意見さえある程だ。

裁判を起こしたら介護職に就く人間がもっと減ると言うのが最もな理由だそうだ。


祖母は「介護施設に殺された」扱いにはならず、「施設利用中の事故死」としてあっさりと片付けられた。

数日前の夕方に、あと数日後にある集いを楽しみに微笑んでいた祖母はもう居ない。

後日談ですが介護施設長から「有罪扱いになるのは施設の運営上不利になるので

死前の入院費と検死代は支払わせてもらう」とスゴく言い訳っぽい口調で

約6万円ほど賠償がありました。警察病院で検死後行われた湯灌代(約4万円)については

「警察が勝手にやったことなのでそこまで面倒見きれない」の一点張りでした。

10年以上お付き合いのあった介護施設でもこんな扱いされるのが残念に思いましたね。

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