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デザイアとプライム

 二○八九年七月十七日 午後三時 横浜 旧元町商店街の路地裏。

 入矢素数(いりや もとかず)は、高校の同級生六人に囲まれていた。路地裏の壁に追いつめられて小さく蹲っている入矢は、手をクロスさせて、必死に何か呟いていた。

「(出ろ! 出ろーー! 手から光線出ろーー! コイツら全員吹っ飛ばせーー! 頼む! 光線出てくれーー!)」

「何ブツブツ言ってんだ、リニアモーターカー」リーダー格の少年が、入矢を踏みつけようと右足を上げた。

「もう、そのくらいでお止めなさい!」路地裏の入口から少し入ったところで、腕を組んだ女子高生が立っていた。

 リーダー格の少年は、上げた右足をゆっくりと降ろして、女子高生の顔を見た。

「鈴萄(りんどう)ユナ⁈」

「おい、マズイぞ、生徒会の風紀委員長だ」取り巻きの五人がそわそわし始めた。

「名門横浜四ツ葉学園の生徒として品位を汚すような行動は慎んで頂けるかしら」

「チッ、おい、行くぞ」リーダー格の少年は五人を引き連れ、鈴萄ユナの横を通り抜けて旧元町商店街へと出て行った。

 女子高生は、腕を組んだまま入矢にゆっくりと近づき、彼の目の前で仁王立ちになった。

「入矢、お前は何をやっている? 光線など出るはずなかろう」ユナは、まるで人格が変わったような口調で、まだ蹲っている入矢に声をかけた。

「わかってるよ、そんなこと」制服の汚れを手で払いながら、入矢は、立ち上がった。

「感情エネルギー変換理論を兵器に応用した試作品を夏休み中に完璧に仕上げて、新学期が始まったらアイツらボコボコにしてやる」

「おい、入矢。TVのヒーローみたいにガジェットの力でバカみたいに強くなるのは、反則だぞ」

「反則だって?」

「そうだ」

「六対一だぞ! 反則もくそもないじゃないか!」

「なぜ、奴らと同じ土俵に上がる必要がある? お前はその頭で見返してやればいい」

「奴らが勝手に、僕を目の仇にするんだ! しょうがないだろ! 妬んでるんだよ僕の才能を」

「そういうお前の驕ったところが奴らの癇に障るんじゃないのか」

「……」

「奴らが嫌なら、転校するとか、スキップして大学へ行くとかすればいい。お前なら横浜四ツ葉学園に拘る必要などなかろう」

「そ、そしたら…会えなくなっちゃうじゃないか……ア、アズマさんに」入矢は、頬を赤らめて、恥ずかしそうに言った。

「ふ〜ん、そうか。お前も男なんだな」

「か、勘違いするなよ、ユナ。好きとか付き合いたいとかそういうのじゃないからな。彼女は唯一、僕を特別扱いしないクラスメイトなんだ。それだけさ」

「ふ〜ん。じゃあ、なおさら自分の力で強くならないと嫌われてしまうぞ」

「えっ、そうなの?」


 鈴萄ユナの携帯Vフォンが鳴った。

 彼女は、ディスプレイで発信者を確認してから電話に出た。

「何だ」

「ぐっ………私だ。さっき、新聞社に情報をリークした。明日の朝刊に載れば、奴は再び動き出すはずだ。奴から目を離すなよ“デザイア”」

「ああ、わかった」

「ところで、“プライム”は今、どうしている?」

「私の目の前で、いじけているよ」

「またか…」

「お前は、これからどうするんだ? ランバート」

「ぐっ………おいっ、私はお前の上司なんだぞ。もう少し口の利き方に気をつけろ!」

「お前は九官鳥か、同じことばかりさえずりおって。お前は聞かれたことだけ答えてればいいんだ」

「ぐぁ〜〜〜っ、クソッ、お前には何を言っても無駄だな。まぁ、いつものことだから仕方がないが…」

「ハァーーーッ」ユナは、深く長いため息をついた。

「わかった、わかった、今答えるから、ちょっと待てよ…コホッ、私とマイルズは、明日の朝刊を確認したら一度、帰国することになった。後のことは二人に任せるが大丈夫か?」

「誰にものを言っている」

「はい、はい、わかりました。お前たちを全面的に信用してますよ、はい」

「はいは、一度でいい。子供の頃に教わらなかったか」

「ぐっ………」

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