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プロローグ

 歴史は『賢老会議』の筋書きどおりに動いていた。


 一七八九年七月十四日 夕方 パリ

 太陽を覆い隠す暗く分厚い雲。そこからぽつりぽつりと降り始めた雨は、市庁舎前にいた私の頬を濡らした。

 市庁舎前広場では、バスチーユ司令官ド・ローネーとパリ市長フレッセルの生首が槍の上で踊っていた。私は、歓喜の叫び声をあげる民衆と血の匂いでむせかえる広場を尻目にバスチーユへと歩を進めた。

 日が暮れるにつれ雨は激しさを増し、狂喜乱舞していた民衆は蜘蛛の子を散らすように消え失せていった。

 大量の血を吸った泥濘が足に纏わりつき、思うように前へと進ませてくれない。

 ーー私がバスチーユに急いでいるのは『賢老会議』からある指令を受けていたからだ。

 この日、民衆の蜂起によって絶対王政の象徴たるバスチーユが陥落し、七人の囚人が解き放たれた。囚人とはいうものの政治犯でもなければ『鉄仮面』のように正体不明の有名人でもない。精神を病んだ者、文書偽造犯、非行貴族といった老人たちばかりだった。

 だが、バスチーユには存在を公にできない八人目の囚人がいた。のちに“死の大天使”サン・ジュストの分身として、ジャコバン派に敵対する革命家を次々と断頭台へと送り込み、革命は“血の祭典”だと嘲笑った人物。サン・ジュストと私の他には“清廉の人”ロベスピエールにさえ素顔を見せなかった人物。“断頭台の番犬”と恐れられ、サン・ジュストが絶対の信頼を寄せていた人物。

 “ストラルドブラグ”のジュリアン・シルヴェールを解き放てーーと。


 (中略)


 一七九四年七月二十八日

 テルミドールのクーデターにより“血の祭典”に突如として幕が降ろされた。

 サン・ジュストは、ロベスピエールを含む二十一人の同志と共に、夕日で血のように赤く染まった革命広場で処刑された。自身に向けられた民衆の怒りを冷静に受け止め、革命に失望していたにもかかわらず高慢とも見てとれるほどの威厳ある最期だった。

 死ぬために戦わなければならなかった運命を背負ったサン・ジュストとシルヴェール。

 この日を境に“断頭台の番犬”は私の前から姿を消した。

 『ミカエル・ショルテの回想』より



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