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雪の精
「きっと雪はさ、空高くにいる水の精が降ってきたんだよ」
───驚いた。
突然思い出したこともだけれど、
今まで忘れていたことに。
「なんだよそれ。
んなのいるかっての」
「いたっていいじゃーん!
ロマンチックだし」
「ロマンチックねー。
似合わねーなお前には」
「うるさいなー、私だって夢見ますー」
…ああ、そうだ。
そう言って、俺達は笑った。
二人で。
その後、あいつはすぐに引っ越しちまったけど、
あの日一緒に帰ったことに、深い意味はあったのか。
あの時俺に勇気があれば、言うことを言えたのだろうか。
答えはわからない。
静かに、静かに雪が降る。
降ってきた雪はアスファルトに触れると、吸い込まれるように消えてしまった。
「…寒い」
ダラリと下がったマフラーを鼻先まで引き上げ、帰路を急ぐ。
すると。
「ねえ」
背後からかけられた、聞き覚えのある声。
その声に振り向くと、あいつが昔よりずっと綺麗になって、
昔と同じ綺麗な笑顔で、
「ただいま」
あの時と同じ、静かな雪の中で。
俺にとっては、彼女が雪の精のようだった。
読んでいただきありがとうございます。
恋愛は書くのが難しいですね…。