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短編集  作者: 有明
2/3

家路





窓から見上げた空には、能天気にも程がある入道雲の大群が浮かんでいた。




こちらの気も知らずに。




狭い部屋に置かれているのは、


空になった食器と、

それらが乗っているちゃぶ台、

起きてからそのままの布団、

そして、外から持ってくることを唯一許された、一冊の本。



それだけだ。



あとは何もない。




向かい合う二方向を囲う壁は目が痛いほど真っ白で、何も書かれてはいない。

残り二面の片面はドアがある。

ドアにはめられた窓から見張りが見えるが、別段面白くもなんともない。

もう片面には鉄格子付きの窓があり、脱走は不可能。

西に取り付けられたこの窓からは、若干日の傾いた空が広がっている。



…ここまで言えば、俺が何処にいるかわかっただろう。




────俺は今、刑務所にいる。


齢28。


犯した罪、殺人。


判決、終身刑。



ちなみに、これは建前上だ。本当は冤罪である。

巧妙に犯人に仕立て上げられ、再審の兆しは0のままだ。

これから可能性が上がることもないだろう。

奴らはそんなヘマをする程詰めが甘いわけがない。




退屈な牢の中。


毎日決まった仕事を終えても、俺がここを出ることは決してない。




何も言えずに残してきた、家族や、友人の顔が浮かぶ。

俺との思わぬ形での別れに、きっとびっくりしただろう。俺だってびっくりした。

突然警察が来たと思ったら、


『○○、お前を殺人の容疑で逮捕する』


そう言って逮捕状を突きつけてきた。

覚えは全くない。

今思えば、警察の中にも奴らの仲間がいたのかもしれない。



俺を最後まで信じてくれて、別れを惜しんでくれた家族。


裁判所に駆け込んで、再審を何度も投げかけていた友人達。


彼らには、本当に迷惑をかけた。

世間からの風当たりも、きっときついはずだ。

面会も恐らく受け付けてはもらえない。

精神異常者のレッテルも貼られている俺だ。

もう、日常を共に過ごすことはない。




いつしか日は暮れ、遠くで「家路」が流れている。


小さい頃は、これが家へ帰る合図だった。


懐かしいあの日々。

平穏に包まれたあの時。


そう思った瞬間、目頭が熱くなった。




もう、あの場所へは戻れない。




もう一度、帰りたい。




あの暖かい光の中に。




それが無駄というのがわかっていることがまた虚しさを掻き立て、

俺は膝を抱えて静かに泣いた。




俺の、光。


俺の、帰る場所。




その想いを嘲るように、

「家路」は止み、日は暮れた。


読んでいただきありがとうございます。


ちょっとシリアス気味に書いてみました。

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