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12本指と8番目の王女

作者: 奏 夏樹

むかしむかし、指が12本ある男がいました。


片手に6本ずつある長い指が、他人とは違っていたので幼い頃に両親に捨てられてしまいました。

しかし、通りかかった王様が彼を見て哀れに思い、城の古い塔の中で仕事を与えました。

彼はその12本の指にちなんでドゥーズと名付けられましたが、誰も彼の名を呼ぶ者は本人以外にはいませんでした。ドゥーズの仕事は、城でいらなくなった衣類をほどいて糸にすることでした。


王様には7人の王女がいたので、衣装がたくさんありましたから、ドゥーズは一日中、塔の上でドレスを解体しては糸にして、それを塔の一番下までつくほどに長く作りました。。


塔の一番下に糸がたくさんたまったら、それを仕立屋に売り渡しました。

仕立屋からはいつも少しの代金と食べ物をもらいました。

ドゥーズが会うのは仕立屋の男と、塔に住み着いている一匹の大きな蜘蛛だけでした。



月日がたち、王には八番目の王女様がお生まれになり、王女はユィットと名付けられました。


その日は盛大に祝いがなされ、ドゥーズも蜘蛛と一緒に、遠くから聞こえるにぎやかな調べに耳をすませました。

頭の中で軽やかに踊る姫君達と幼い王女を思い浮かべました。

ひらひらと舞うドレスはやがてくたびれて、ドゥーズのもとへやってきます。

ドゥーズは誰にも知られずに朽ちていくドレスに自分を重ね合わせ、静かに涙を流しました。

すると、ぽたりと涙の滴が落ちて、蜘蛛の巣にひっかかりました。蜘蛛の作った白い糸は美しい模様を描き、その上に落ちた涙が、月光できらきらと輝きました。

ドゥーズは初めてそれを、美しいと思いました。


それからというもの、ドゥーズは自分の作った糸を長い指で織りはじめました。

良き師となったのは蜘蛛でした。

ドゥーズは蜘蛛の足の動きをよく見て、その通りに指を動かし、糸は美しい模様を描きました。


そしてまた月日が流れた頃、日が沈む赤い光が塔の中に差し込みました。。

仕立屋がくる時間ではない。ただでさえ、ドゥーズが糸を編むようになったので、売ってしまう糸が減ってしまい、仕立屋は滅多にこなくなっていました。

ドゥーズはそっと下をのぞき見てみると、金色が、夕日を反射して赤く光っています。

それは小さな子供のようで、くすんくすんと鼻をすすりあげていました。


「なぜ泣いているのですか?」


ドゥーズが思わず塔の上から声をかけると、子供はびくりと震えて顔をあげました。

涙に濡れているその顔は、いつか見た涙の光る蜘蛛の巣のように美しくて、ドゥーズはすぐにこれが八番目の王女であることに気づきました。


「だぁれ? どこにいるの?」


王女は周りをくるくると見渡しましたが、真上にいるドゥーズには気づきません。

その代わり、王女の近くにいた大きな蜘蛛に目を留めました。


「今しゃべったのは貴方かしら?」


ドゥーズは真実を言うべきか迷いましたが、自分の長い指を見て、王女が怖がってにげてしまうのではないかと思い、「はい」と答えました。


「まぁ、驚いた。蜘蛛とおしゃべりするのは初めてだわ。私はユィットよ」


「初めましてユィット姫。八番目の王女様。私はドゥーズと申します」


やはりこの少女は八番目の王女様のようでした。


「何故泣いているのですか」


「悲しいからよ」


「何故悲しいのですか」


「私のドレスをご覧になって」


王女は小さな白い手で、自分のドレスの両端をつまみあげました。

そのおかげで、ドゥーズは上からでも王女のドレスをよく見ることができました。

それは白と黄色を基調とした花柄のドレスでした。しかし、ドゥーズは彼女の姉たちのドレスをよく知っていたので、それが姉たちと比べてとても地味であることに気づきました。

姉たちのドレスには、縁にレースやフリルがふんだんに使ってある物ばかりだったからです。


「お姉様達のドレスのお下がりなの…。縁のレースや宝石は汚れてしまっているから、それを取って仕立て直したものなのよ。お姉様達はみんな素敵なドレスを新しく持っているのに、私はお姉様のものばかりで、悲しいの」


ドゥーズは王女のドレスをじっと眺めて考えました。

そして、自分で編んだ糸のレースを塔の上から落としました。


「八番目の王女様。どうぞこれをお使い下さい。私が編んだ蜘蛛の糸のレースです」


王女様はそれを手にとってながめました。

それはとても見事なレース編みでした。


「それをドレスに縫い付けて下さい。きっと華やかにおなりでしょう」


ユィット王女はそのレースが大変気に入って、花のような笑顔で礼をいいました。

ドゥーズはその笑顔を忘れられず、王女を想ってまたレースを編みました。


その後も、王女は何度も塔を訪れるようになりました。

ドゥーズはその度に、新しいレースを王女様に渡しましたが、決して自分の姿は王女に見せませんでした。


そしてまた年月がたちました。


王様の王女達はどんどん他国へ嫁ぎ、国に残った王女は8番目のユィット姫だけになりました。


しかし世継ぎのいなかった王様は、ユィット姫とその婿に国を継がせたいと考えて、多くの王子を招きましたが、ユィット姫は誰も気に入りませんでした。


一方ドゥーズは、王女様達が居なくなり、残ったドレスが少なくなってしまったので、売ってしまう分の糸が作れずに困っていました。


そんなとき、いつまでも結婚しないユィット姫を王様がいさめられ、ユィット姫は「自分に似合う婚礼衣装を持ってきた方の妻になりましょう」と宣言されました。


それからというもの、城には豪華絢爛たる衣装が毎日のように届けられました。


ドゥーズはその話を仕立て屋から耳にして考えました。



「もう王女様はご結婚されたらここにはいらっしゃらないだろう。かといって、私には婚礼衣装を用意するだけのお金も糸もありゃしない」



ドゥーズは部屋の隅につまれたドレスを見ました。

古くてくたびれたドレスはもう何着もなく、糸にしても食べていくのが精一杯の量でした。

すると、ドレスの上に何かがぼとりと落ちてきました。

近づいてみると、それは年老いた蜘蛛の死骸でした。


「ああ、お前まで私を置いて逝ってしまうのかい」


ドゥーズは悲しくて天井を仰ぎました。

するとそこに、とても美しく大きなレースを見つけました。いえ、それは年老いた蜘蛛の体の何倍もある彼の住処でした。

ドゥーズはそれをじっと眺めました。そしてつぶやきました。


「こんな小さな体だが、お前は一生をかけてあんなに大きな物を作ったのだな。ならば私も最期にそうするとしようじゃないか」


それからドゥーズは、残ったドレスを全て糸に変え、長く細い12本の指で、大きな大きなレースを編み始めました。

売るはずだった糸が減って、レースが大きくなるにつれて、ドゥースはやせ細っていきましたが構いませんでした。

ドゥースの指は美しいレースの大輪を生み出しました。


そして、城がドレスでいっぱいになったころ、何人もの王子が姫の答えを待ちわびていました。

姫はたくさんのドレスの中を彷徨うように吟味しました。

シュークリームのようなふくらんだドレス。蜂蜜のような黄金のドレス。夜空の星のような宝石のドレス。

どれも素敵で豪華なものでしたが、ユィット姫の心は動きません。

しかし選ぶのを待っている者達の視線が、姫の心を悲しくさせました。

幼い頃、あれほど欲しかった新しいドレス達に囲まれているというのに。


すると、ふと色とりどりの色彩に隠れたレースに目がとまりました。

思わず手にとってみると、それは花嫁のベールらしく、純白によく見ればいろいろな色が編み込まれた、素朴ながらも見事なものでした。そして何故かとても懐かしいと感じたのです。


「このベールを作ったのは誰か」


姫は大勢の人々に向かって呼びかけました。


すると、一人の年老いた仕立て屋がおずおずと出てきました。



「これはお前が作ったのか」


「いえ、あっしは頼まれて、それを城に届けただけでございます」


「ならばこれを作った者をつれて参れ」


「いえ王女様。それを作ったのは実は卑しい身分の変わり者でございます。とても城になど連れてこれません」


「構わぬ、つれて参れ」


これを聞いた仕立て屋は、あわててドゥーズを呼びに塔に走りました。。

ドゥーズはレースを編み上げて力尽き眠っていましたが、仕立て屋のたいそうあわてた声に飛び起きました。

事のあらましを聞いて、ドゥーズは城におもむいくことになりました。

広間の中心にはユィット姫が、ドゥーズの編んだレースを持ってたたずみ、それを大勢の人々が見つめていました。


「このレースを作ったのはお前か」


「左様でございます。八番目の王女様」


「とても見事なベールだが、これに合わせたドレスはどこにある」


「残念ですが、それはございません。私はそのベールを編むので精一杯でございました。もう糸も残っておりません。それに私は仕立て屋ではございませんので、ドレスを作ることはできません。私にできるのは糸を作ることと、それを編むことだけにございました」


「仕立て屋ではない? ならばどのようにしてこのレースを編んだのだ」



この問いに、ドゥーズは少しばかりためらいましたが、おずおずと両手を姫に見せました。



「この指で編みました」




その指を見て、広間がざわめき、ドゥーズは耳まで赤くなりました。

しかし、ユィット王女だけはしげしげとその指をみて、大きな瞳からほろりと涙を流してこう言いました。


「12本……ドゥーズですね?」


王女はその小さな手でぎゅっと12本の指を包み込みました。

ドゥーズの目からもぽろぽろと大きな涙が流れました。

二人は大勢が見守る中で、涙を流しながら微笑み合いました。


こうして、8番目の王女様の夫には、指が12本あるドゥーズが選ばれることとなりました。

奇妙な指の男に反対する声もありましたが、ユィット王女の婚礼衣装の見事なレースとベールに、皆は感心して、祝福することにしたのです。


そうしていつまでも、二人は幸せにくらしましたとさ。


めでたしめでたし。








フランス語の数字を覚えようシリーズ(自称)

12と8です!

個人的に気に入った童話になりました♪

感想お待ちしています☆

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