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大胆な使用

 6月。

 どんよりとした空のせいで気分までどんよりとしてしまう日々が続く中、俺はバイト先のコンビニのレジに立ち続ける。雨でぬれてしまった靴。水がしみ込んで靴下も濡れていて早く靴下を履き替えたい気分ではあるがそれを許してくれないのが店の事情なのだ。

 こういう時に限って早くバイトが終わってほしいと願う。する仕事が多いとバイトの時間も自然と短く感じる。例えば、たくさんのお客が来て忙しいとか品物が来てそれの検品とか品出しとか。

 しかしながら、こういう雨の日は本当に必要な買い物がない限り人はやってこない。実際に俺が客の立場ならこういう雨のなら必要な物があったとしても晴れた日にって後回しにしてしまう。こういう日は何もせず家にこもるのが正解だと思っている。

 こういう暇なときは大抵能力の用途について考える。正確には数えていないが俺は1日にこの力を5、6回使っている。その用途様々だが圧倒的に多いのは小テストなどの問題を見るという行為だ。成績が高い水準を保っている誰にも言えない秘訣だ。ついで多いのはちょっとしたミスの帳消しだ。例えば、今日のようなバイトの時に俺のミスで店長に起こられた時に時間を戻してそうならないようにミスを消す。その他にも駅の階段でこけて足を擦りむいたときとか、電車の扉に服が挟まれて身動きが出来なくなった時とか。要は俺が恥をかくようなことが起きれば基本的に10分時間を戻す。俺のイメージというか風格というかそういうのを守りたいというのが理由に含まれるだろう。

 だが、この世界には万能という言葉は存在しない。どんな情報でも手に入れることが出来るインターネットでも弱点は存在するようにこの能力にも何か大きな欠点がるはずだ。俺が把握していた中で10分しか戻せないということと10分という時を戻らないのは俺の思考と記憶だけだということが欠点としていたが他にもある気がしてきたのはこの頃だ。

 まずは使用制限とか。

 ある映画アニメにもなった有名な小説を古本屋で見つけて読んだ。その話は俺と同じように時間を行ったり来たりする能力を手に入れた少女の話だ。少女と俺が大きく違うのは好きな時に好きな時間に少女は移動できるということ。対して俺が出来るのは10分時間を戻るだけ。さらに少女の能力には使用制限があった。分かりやすく数字で明記されていた。

 俺にも同じものがないかと風呂場で全身を確かめたがなかった。

 そもそも、その話に出て来る未来人とやらに俺は会っていない。いたとしても10分しか戻れない能力をくれたのは半分くらい嫌がらせな気がする。10分しか戻れない、1時間のインターバル有りのせいで使うのにいちいち頭を使う。本当に疲れるのだ。

 しかし、仮に回数制限があった場合を考えると使う機会を減らしていくべきなのかもしれない。肝心な時に使えないと非常に困る。

 その時、客がコンビニに入って来た。

「いらっしゃいませ~」

 やる気のない声で出迎える。

 入って来た客は雨が降っているというのに傘を持っていないのかかぶった帽子から肩までずぶ濡れだった。先輩たちなら大丈夫ですかって声を掛けるのだが俺は面倒だからやらない。それよりもいつのバイトを止めようかと考えているくらいだ。 しかし、何か嫌な雰囲気のある感じの客だ。黒縁の眼鏡をかけて黒を基調として怪しげな服装をしている。

 まさか、強盗とかじゃないよな。

 と冗談を考えていた時だった。男は店をぐるっと一周してから手に商品も持たずにおあの待つレジにやって来た。タバコでも買うのかと思って俺のすぐ背後にあるタバコが見えやすいように少し横に移動すると男はポケットから見慣れないものを取り出した。

 鈍く銀色に輝く刃だった。

「騒ぐんじゃねーぞ」

「は、はい?」

「俺は強盗だ」

 あまり声を張らないようにして俺に刃渡り10センチ程度のナイフを俺に突きつけられる。俺は足が震えあがって突きつけられるナイフから避けることもできず気が動転する。

「ここにレジの金を入れろ。早く」

「え・・・・・い、いや」

 俺はこのバイトを始めてもうすぐ2ヶ月になろうという研修生の俺はまだこういう強盗の対処のマニュアルを知らない。どうしていいのか分からない。

「さっさとしろよ!レジ空けて金を入れるだけでいいんだよ!」

 しびれを切らした強盗が叫んだ。その声に気付いて奥で休憩していた店長が出てきた。ナイフを突きつけられている俺の状況をすぐに察した。

「お、お前!何をやっている!」

「お前が店長か!早くこのバックに金を入れろ!さもないとこのバイトを殺すぞ!」

 おいおい!俺はまだ死にたくないぞ!

 ましてや、こんな得体の知れない見知らぬ犯罪者なんかに殺されるのなんかもってのほかだ。

「おい!バイト!早くしろ!」

「あ、いや」

「バイト!そんな強盗の言いなりになるな!」

 と店長の言葉。

「さっさと金を出せ!死にたいのか!」

「金なんて出す必要はない!すぐに警察を呼ぶ!」

「ここで殺されるか!金を出すか!どっちが重要か分かるだろ!」

「耐えろ!そうすればお前はヒーローだ!」

「死んだら何もないだろ!金を出せ!」

「絶対に渡すな!」

 それはまるで俺の頭を混乱させる催眠術のようだ。命がほしければ金を渡せと言う強盗に対して、強盗なんかに金を渡す必要はないと言い張る店長。筋が通っているのは強盗の方だが正しいことを言いているのは店長の方だ。

 言い争うにつれて強盗がいつ逆上して俺を刺しかかってくるか分からない。ならば、金を渡してしまえば俺は助かる。だが、体が言うことを利いてくれない。自分の物でないみたいに固まってしまった。

「早く出せって言ってるだろが!」

 しびれを切らした強盗が突き付けたナイフを俺に斬りかかって来た。言うことの利かない体だったが身の危険を感じて咄嗟に腕が動く。その時電撃が走ったかのような一本の線に熱が走ったような痺れるような痛みの後に俺は抵抗なくそのまま床に倒れる。腕に走った痛みはナイフに斬られたせいで生じたものだ。

「な、なんでだ?」

 なんで俺がこんな目に合わないといけないんだよ。

 痛い。痛い。血が止まらない。

「大丈夫か!」

 慌てて店長が駆け寄ってくる。その様子だとおれを斬り付けた強盗は逃げてしまったみたいだ。傷口をどれだけ押さえても血が止まらない。あまたがボーっとしていつもみたいに考えることが出来ない。斬られたところがどうも悪く血が止まらない。どくどくと溢れ出る血。俺という人にはこんなに血がたくさん流れていたんだと思った。初めての経験だ。おそらくもう二度と経験することはないだろう。

「くそ!強盗に奴め!」

 強盗が悪いのか?

 確かに俺に傷をつけたのは強盗だ。だが、斬り付けるようにけしかけたのはあんただろ、店長。そうやって俺のことを気にしつつレジの中身を確認する姿はなぜか許せる光景ではなかった。

「待ってろよ。今、警察と救急車を呼ぶからな」

 なんだよ。今から呼ぶのかよ。レジの中身がしっかりあるかどうかだけしっかりと確認しやがって。それがあの店長の本性ということか。目の前で起きる事件よりも命よりも金を優先したこの店長は底辺で最低でクズ野郎だ。

 血がどんどん流れ出て俺を中心に血だまりが広がっていく。そのままでは本当に死ぬ気がする。なのにそこまで焦らないのはこの痛みも10分戻れば無かったことになるからだ。ここまで冷静になれたのは焦るだけの脳が回転していないのとその回転を助ける血がどんどん抜けているせいだ。

 早く10分戻りたい。でも、その前にやるべきことがある。

 動くとさらに痛む腕の傷の痛みを応えて立ちあがり裏で電話対応している店長のもとへ。

 近寄ってくる俺に気付いた店長は焦ったような症状を浮かべる。

「動いて大丈夫なのか?」

 なんだ?その安心したような顔は?

「テメーは店の長として失格だよ」

 俺はそのまま近くに置いてあった。レジ周りを軽く掃き掃除をするためのほうきを手に取ってそのまま店長の顔面を叩きつける。予想外のことに店長は飛ばされて置いてあったパソコンが机から落下する。

「何するんだ!」

 キレた店長が飛び掛かってくる。

 すっきりしたし、これ以上この時間にいると意識が飛びそうになる。10分戻れなくなる。

「こんなバイト辞めてやる。・・・・・戻れ」

 目とつぶると飛び掛かってくる店長がまるで空気となって消えたみたいに感覚が消えて耳鳴りの後に目を開くと腕には傷はなく客のいない店内が広がる。すると例の強盗が入って来た。すぐにはレジに来ない。

 俺と同じ苦しみを味わえばいい。金に強欲な店長さん。

「店長」

「ん?なんだ?」

「トイレに行きたいんでレジお願いしていいですか?」

「おお、分かった」

 そう言って裏が出てきた。俺は強盗とすれ違わないようにトイレにそそくさと逃げるように入りカギを掛ける。その後に事件は俺がレジにいなくても起こった。

「なんだ!テメーは!」

「俺は強盗だ!騒ぐんじゃねー!」

 騒いでるね。

 俺はトイレから出てきてふたりの言い争う現状を見る。さっきはレジにいたのが俺だった。今は10分前とは逆の立場だ。

「金をよこせ!」

「誰がお前なんかにやるかよ!」

「何だと!死にたいのか!」

「そんな脅しには引っかからないぞ!もう、警察には連絡が行っている!」

 店長が俺に合図を送っているが俺は無視する。いい気味だ。店長の顔色がだんだん悪くなっていく。

「金を渡せ!」

「は、早く出て行け!警察が来るんだぞ!」

 強盗は背後にいる俺には気づいていないらしい。何も行動を起こさない俺に焦っている店長の姿を見ていい気分だ。

「金を出せって言ってるだろうが!」

 そのまましびれを切らした強盗が店長に斬りかかる。避けるように倒れた店長は左肩を切られて血が宙を舞う。それを見た強盗は逃げて行った。それを確認してから俺は店長のもとに駆け寄る。

「大丈夫ですか?」

「痛い・・・・・痛いよ~」

 まるで子供みたいに痛みに歪む顔を見て苦笑してしまう。

 俺はレジの中身を確認して金が出されていないことを確認してからこう告げる。

「今から警察と救急車呼びますね」

「さっさとしろよ!」

 逆切れする店長の姿を見て悪魔の笑いが止まらない。笑わないようにこらえるのが精いっぱいだ。

「あ、そうだ」

「なんだよ!さっさと救急車を呼べ!」

「店長・・・・・俺バイト辞めます」

 店長はその後、大した怪我でなく数針縫うけがで済んだ。強盗もばっちり顔が防犯カメラに映っていたのですぐに捕まった。人の本性は危機的状況になった時に現れる。この10分時間を戻しただけで俺は人の本性を知れた。人として歪んでいる店長に復讐もできた。殴れた。

 全く、いい気分だ。

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