実感の能力
7月。
雲に覆われた空から覗かせたのは待望の太陽だったが、その太陽から注がれる強い日差しにうんざりしながらひとり学食でお昼のランチ定食を食べ終わり水を飲みながらバックの中から小説を出して読んでいる時のことだった。周りには雑談をしながら食事をする集団の中で俺だけがひとり取り残されている。別に悔しくないし、そもそも俺にはあの輪に入る資格がないと思っている。ここまでの成績は圧巻だ。それは10分時間を戻すという能力のおかげであって俺の実力じゃない。インチキ、ズルをしている俺にここの学校生活を充実させるという資格はない。本来ならば、彼女があの女性群の輪に入るべきだったのかもしれないのだ。
そんなことを思っている時であった。
「よう」
声を掛けられて振り返ると数人の男子グループの姿があった。
「なんだよ?」
「いや、お前も次の講義受けてたたよな。実は俺たちも受けてるんだけど、単位が危ういんだよ。それでさ」
こいつらが何を言おうとしているのか察しがついた。10分時間を戻らなくても分かる。
「勉強教えてくれない?」
「嫌だね」
すると後ろの方にくっついて来ていたグループの一部の人間がぼそりとこうつぶやいた。
ほらやっぱり無理だろっと。
成績はいいがその勉強方法を独占している印象の悪い奴だと周囲から思われている。まぁ、事実だし否定する気はないのだが。そもそも、こんな1年生の講義は比較的簡単だ。一部の人間のように講師とは馬の骨が合わないとか、バイトばかり勉強していない人間とかを除けば普通に講義に出ていれば単位取得は難しくないはずだ。それなのにこいつは危ないとかバカじゃないのか?
「そこを何とかしてほしいんだよ」
「聞こえなかったのか?いやだと言っている。そもそも、俺はお前らに勉強を教えてやれるほど、秀才でもない。俺だっていつも必死だ」
どう10分時間を戻せば効率がいいかとかを考えるのにな。
乗り悪くてうぜーっとあからさまに聞こえるように後ろの奴が睨みつけてくる。それとは逆に俺に積極的に話しかけてくる戦闘の奴は笑顔を俺にふりまいている。アメとムチ作戦なのか。グサグサ俺に刺さるようなことを言い続ける一方で目の前の奴は俺に優しくすることで親近感を沸かせようとしているのか。くだらない作戦だ。
「いやいや、俺たちよりは絶対に頭いいって。聞くか?俺たちのバカ伝記?」
「そんなものを聞いてどうするんだ?俺には何の得にもならない」
「じゃ、じゃあ、ジュースおごってやるから教えてくれよ!」
俺をまるで神のようにあがめながら頼み込んでくる姿が見苦しかった。
そんなことまでしないと単位が危うい状態まで追い囲んでしまったのは誰でもない自分の責任だ。それを俺の教え方が悪くて単位をとれなかった、どうしてくれるんだと言われたらたまったもんじゃない。
こいつらのようなタイプが一番関わりたくない。
「何度も言うが俺は嫌だ。運よく今までたまたまいい点数が採れているだけであって俺の実力じゃない」
そう10分時間を戻してたまたまテスト問題を見て見覚えのある問題を見つけることが出来たから成績が良かった。これからこの能力にも限界が来るのは分かり切っていることだ。
「だから、そこを何とか」
「しつこい。いやだって言っているだろうが」
気分が悪くなって食べ終わった食器を持って席を立つ。
「なぁ?俺たちがここまで頭下げて頼んでるんだから少しはいいだろ!」
そんなに怒鳴られて了承する奴がどこにいるんだよ。お前らみたいなスカスカの脳みそで頼まれても俺はなんとも思わない。そもそも、テストでどんなものが出るかどういう形式で出すかは講義中に再三にわたって言っていた。そんなものを聞けないというバカな奴らは今すぐこの学校の在籍を破棄するべきだ。そして、彼女にそれを渡すべきだ。でも、それは俺には言えることだ。
「再三にわたって言うが俺は嫌だ」
俺は曲げない。
「いい加減にしろよ!」
今まで俺に笑顔を振りまけていた奴がついに我慢の限界を超えたようだ。
「そうやって成績いいからって見下すのはマジでやめろ!殺すぞ!人がここまで頼んでやってるんだから少しは耳を貸してもいいだろ!なんだよ!最初から無視とか!マジでうぜーんだよ!」
俺も同感だ。いきなり胸ぐらをつかんできたせいで持っていた食器を落とすは周りの注目を浴びるは最悪だ。食べかすのソースが服にべっとりついてる。事態を重く見た教員が割って入るために駆け寄ってきている。
「まったく、あんたらのためにこれを使うのは不甲斐ない」
「何だと!」
頭に血が昇って周りが見えていない。
問題になって俺の生活にしようが出るのは厄介だ。仕方ない。次は普通に講義だから大丈夫だ。
「戻れ」
「はぁ?」
「戻れ!」
目をつぶると耳鳴りが聞こえて目を開けると10分前に戻っていた。一度見た光景をもう一度見るというのはなんとも言えない。もう一度決まった動きをしている人たちを見るのは関係ない人たちには悪いが気持ち悪いのだ。
「さて」
奴らが来る前に食器を片して退散するとしよう。水を飲み干して立ち上がり食器を返却口に戻すと。
「よう」
10分戻して結局無駄だったようだ。っと思うのはこの能力を身につけたばかりの5か月前の俺だ。
「なんだよ?」
奴らよりも発言して主導権を渡さないようにする。それが一度経験した俺の対応だ。
「今からトイレに行こうと思ってたからまた今度にしてくれ」
そういえば自然に距離を置くことが出来る。後は逃げ続ければバカな向こうが忘れてくれる。
「だったら、俺もいっしょに行くよ」
つれしょんは趣味じゃない。来るなよ。
「本当にいっしょに行くのか?」
「なんで?」
「俺はうんこがしたいんだぞ」
ドン引きする男子一同。
別にこいつらとの関係もこれ関係を広げる気がないから悪印象与えようと知ったことじゃないのだ。




