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能力の実感

 5月。

 心地のいい五月日和が続くこの季節。俺のこの能力の使いどころに慣れ始めたのはこの頃だ。しかし、実際に多く活用するであろうテスト類が集中しているのは中間のある6月前半と期末のある7月後半となる。それまでにはこの能力を的確に活用するための情報と冷静な判断力をつける必要がある。そのためにはこの能力を使う場面を増やす必要がある。

 そんなことを考えている時のことだった。

 講義のひとつ学生実験。学生番号順に2人のグループに分かれて指定された実験を行い、その結果考察をまとめてレポートにして提出するという講義だ。必修科目であるため絶対に受ける必要がある。そして、何よりもこういう実験においてはミスで高い器具を割ったりする場合がある。その時は積極的に能力を使って行こうと考えていた。しかし、まさかあんな場面で使う羽目になるとは考えていなかった。

「よろしくね」

「よ、よろしく」

 どういう風の吹き回しか学生番号順からして俺とペアを組むことになったのは女の子だった。背はあまり高くなく頭を撫でるにはいい感じの高さだ。それよりも男どもの目を引く胸。おっぱいだ。Fカップくらい普通にありそうなんだけど。

 4月に出会ってこうして実験の時にしか会話しないが姿は何度も見ている。その度にそのおっぱいの子が目に入ってしまう。さらに小走りするとその大きな胸部がすごく揺れるのだ。たまらない。思わず10分戻してもう一度見てしまうくらいだ。

 だが、所詮実験のパートナー以上の関係は築けないことくらい分かり切っている。仮に好きです、付き合ってくださいと告白してもダメだったら今後の実験では気まずくなってしまう。俺には10分時間を戻せばなかったことにできる。俺自身は忘れることが出来ないからよっぽどでない限り告白なんかする気はない。

 はずだったのだが・・・・・。

「あたし、結婚するなら君みたいな人がいいな~」

「・・・・・・は、はぁ?」

 その言葉に俺は一瞬頭が処理落ちして思考が止まった。

 このおっぱいの子は見た目のせいか一度男に絡まれるとしつこく絡まれるらしい。でも、俺はそんなに絡む気はない。理由はいろいろあるが一番大きいのは俺はこの学校で学生生活をエンジョイする資格がないというのが大きい。そんな絡みが少なくていいとか優しいところがいいとかおっぱいの子にはいろいろと褒められていた。気に留めたことはほとんどない。そもそも、俺にはそれなり好意を抱いている彼女がいるのだ。俺がこの能力に目覚めていなかったら今頃いっしょに滑り止めの大学に通っていたかもしれないのだ。

 だが、それはもう過去の話だと振り切って考えてみればおっぱいの子が俺に向けて行ったあの言葉は明らかに好意だ。これは遠回しに好きなんだけど告白するのは絶対男だからさっさとしろと言っているようにも感じ取れる。

 だが、普通に考えればあまり関わってこないところが都合がいいみたいなことを遠回しに言っている気もしていた。恋人がいた経験のない俺には女心というものがまったく言っていいほど分からない。

 でも、ここは男を見せるときではないだろうか?

 10分時間を戻す能力を使ってやって来たインチキを未だに誰にも話せないでいる。それを話せる相手が出来るかもしれないのだ。実際にこの大学生活で一番関わっているのはおっぱいの子だ。

 行ってみるだけの価値はあるはずだ。もし、無理なら時間を戻せばいい。

 そして、その求婚ともいえることを言われた数日後のことである。講義がすべて終わり帰る支度をしている時におっぱいの子がちょうどひとりになっているのを見かけた。今がチャンスだと思いふたり話したいと言っておっぱいの子を呼び出した。

 そこは誰もいない校舎裏だ。何の疑いもなくおっぱいの子は着いて来てくれた。

「珍しいね。話しかけてくるなんて。それで何か用?」

 その自然と出てくる女の子らしい仕草には愛嬌を感じる。ここにきて俺は緊張で言葉が詰まってうまく出てこなかった。

「お、俺と付き合わない?」

 実は前振りを事前に考えていたのだが二人っきりを意識した状況下ではそれは吹っ飛んでしまい頭の中が真っ白になってしまった。夏には程遠い心地いい季節なのに俺の体温はぐんぐん上昇しているのを感じた。しかし、それは緊張と言うのが原因であったが、その熱はすぐに別の物に代わる。

「あー、えっとね・・・・・」

 なんだ?その困った顔は?

「それはすごくうれしんだけど・・・・・」

 なぜ、俺の方を見ない?

「君のことを私はその彼氏とまではいけないな~」

「え?なんで?」

 思わず聞いてしまった。

「だって、君は暗いじゃん」

 確かに俺は根暗だ。

「でも、俺に向かって結婚するな俺みたいな奴がいいって」

「ああ、そのせいか」

 まずいことを言ってしまったと後悔をしているようだ。

「あれはね、用は比喩だと。私の理想は君みたいな性格の子であって君ではないんだよ」

 つまり、あれはただ俺をからかっていただけというわけか。

「ハハハ」

 トーンが上がりも下がりもしない笑いが出る。そうか、俺のは早とちりだったのか。

「ハハハ」

「ご、ごめんね。なんか混乱させるようなこと言って。気持ちだけ受け取っておくよ」

 恥ずかしいよ。本当に恥ずかしい。ただの早とちりだなんて女の子の告白するなんて本当に恥ずかしい。

「戻れ」

「?」

「戻れ!」

 目をつぶり耳鳴りの後に目を開ければそこは講義が終わったばかりの講義室。帰りの支度をしている最中だった。俺の見る先はおっぱいの子がひとりでいる姿だ。10分前の俺はここであの子に話しかけて告白するために行動を起こしている。だが、それは失敗だと経験した俺はそのまま何事もなかったかのように講義室から立ち去る。

 人との関わりがつくずく難しいと実感した。そして、この力を持っていてよかったと最も強く実感したのもこの時だった。

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