理解の葛藤
4月。
桜の花びらがほとんど散ってしまい葉桜が目立つようになってきた。
俺には友達以上恋人未満の親しい女の友達がいた。彼女は頭がよくて利口だ。周りに気配りもできて明るくて前向きな少女だ。俺のような根暗な奴とでもいっしょに帰ったり、いっしょに飯を食べたりする仲だった。そんな彼女も俺と同じ大学の入試を受けた。共に同じ学校に入学するために勉学に励んだ。
ガイダンスをするために指定された教室にやって来た俺は適当な窓際の席に座る。本当はその彼女が俺の隣に座っているはずだった。
合格発表も彼女と共に見に行った。俺の受験番号は見つけることが出来て俺以上に彼女は喜んでくれた。しかし、彼女の番号は見つかることはなかった。ちょうど、彼女の番号だけがすっぽりと抜けていた。現実を受け止められなかったのは俺だけじゃない。彼女も同じだった。
冬の凍える寒さの中。彼女の吐息が一層白く見えた。
そして、俺にただ一言「ごめんね」と告げた。
その時の俺に見せたあの涙は何だったのか考えたくなくて俺はそれ以上何も言えず彼女と別れた。
手続きのために合格者たちが喜びの高揚を抑えきれないようにそわそわとした状態の列に並んでいる中で俺だけがひとり空気が違った。彼女と大学に行きたかった。そうすれば、俺のような根暗で皮肉れ者でもやっていけると思っていたのだ。しかし、彼女はいない。彼女は俺よりも必死に一生懸命勉強していた。それに比べて俺はどうだ。試験開始と同時に10分前に戻ることのできる能力を手に入れた。この大学に受かったのもほぼそのおかけだ。インチキをした俺には資格なんかない。俺よりも彼女の方にあったはずなのに。
その手続きに言われた学費免除の特待生ですって言われた時は罪悪感しかなかった。
喜ぶ気にもなれなかった。
彼女は滑り止めとして受けていた別の私立大学へ入学した。俺もそっちに編入しようと思ったが学費免除なのになんで編入する必要があるんだって親に怒られた。それもそうだ。なので新しい学校生活なのに脱力しかない。
ガイダンスを始めるために先生たちが数人入ってきて自由にしていた学生たちが静かに着席をする。
俺の隣には同じようにまだ周りに溶け込めていないボッチがいたが相手にしない。
俺はこの学校に突然目覚めた能力を使って入学したんだ。ならば、10分だけ時間を戻すこの能力を使って俺はこの大学生活を生き抜いてやる。最大限に使ってやるよ。ズルとかインチキとか言われてもどうでもいい。俺は俺の信念で生き続ける。
だから、後戻りはしない。
彼女のことは忘れる。