再会の高揚
彼女は校則にはしっかりと従う真面目な女子高生であった。髪を染めるのを禁止していて黒髪だった彼女はいずれは染めてみたいということを俺に話したことがあった。会うのは平日に限らず休日にも会っていた。特に受験が近かった高校最後の冬には冬休みになっても図書室に集まって勉強していた。その時の私服は大人を意識した感じだった。顔は童顔なのに背伸びするなよって冷やかしをしたこともあった。
そんな俺にとって幸せだった冬のひと時。その思い出を溶かす勢いでそそぐ夏の日差しが降り注ぐ季節。
8月。
俺は彼女と再会した。
髪は宣言通りほのかに茶色に染めてストレートだった髪は毛先にかけてウェーブを掛けてふっくらとボリュームを出している。そのおかげか大人びた服装が似合う。に対して俺はポロシャツにひざ下までの短パンにサンダル。何も変わっていない。見た目では変わったところは分からない。
「君も変わらないね。大抵、休日になるとここにきて安くて面白そうな本を探すのが君の日課になっていたよね」
底の高い靴を履いているせいか俺より10センチ以上低かった彼女の身長が少し高く感じる。俺にファッションの知識は全くないが、かなり金がかかっていることだけは分かる。大人になっているのだけは分かる。
「そういうお前はずいぶん変わったな」
彼女との再会に俺の中で二つの葛藤があった。うれしさと能力の影響を察してのブレーキ。だが、それが打ち消し合ってただ高校の時と同じように彼女と会話した。
「そ、そう?」
「半年で人って言うのは変わるもんなんだな。あんな子供が背伸びしたみたいな女だったのにな」
「あ~、そう言って。本当に何も変わってないんだね」
なんだか和む。今まで悩んでいたことが吹き飛ぶようなそんな感覚。
「ここには何しに来たんだ?」
「ん?ああ、ちょっと涼みに来た」
そんなデートに行くような服装をしてか?
「嘘つけ」
「う。・・・・・どうしてか君には嘘が通用しないんだよな~」
分かりやすすぎるんだよ。外見は大きく変わったが内面は何も変わってない。
「本当は人と駅で待ち合わせ。少し時間が余ったからここで暇つぶしでもしようかなって」
そうか。そうなれば、彼女とこうして話せるのもあまり長くはない。寂しいような気もするが今の俺にはそれでいい。彼女を俺の能力の影響を受けてほしくない。
「でも、久々にあったし少しお話しないな。ちょっと待って」
嫌な予感がした。
スマホで素早く何かを打ちこんで送信する。
「オッケイ。集合の時間を少し遅らせてもらったからマックでお話ししようぜー!」
こういう謎のノリも久々だ。でも、悪いが今の俺にはそれに乗ることはできない。
「レッツゴー!」
俺の背を押す。
「ちょっと待て!俺はまだいいって言ってないぞ!」
「ここにいるってことはどうせ暇なんでしょ。いいじゃん、半年ぶりに再会したかわいい旧友のお願いだよ」
「かわいいとか余分じゃね?」
「アハハ、その皮肉れた感触久々~。大学だと私みたいな女の子はちやほやされるだけでつまんないんだもん。やっぱりは君は最高だよ」
そこまでべた褒めされると悪い気はしない。