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困惑の覚醒

 もう少し時間があればあれが出来たのに。あれをしていれば、きっとうまくいったのに。ああ、数分前に戻れたらいいのになって誰もが一度は思うことかもしれない。後10分早く家を出れれば間に合ったのに、後10分あればあの問題の復習が出来たのに。後10分早ければ・・・・・10分早ければ・・・・・。

 俺にはその言葉は無縁だ。

 それは本当に唐突だった。

 2月。

 大学受験の時だ。なんとも言えない緊迫感が試験会場に漂っていて、皆の見る目は誰かを蹴落としてまで志望校に合格しようとする受験の亡者のようだ。はっきり言って俺もその部類に入るのだろう。だが、俺には学力がないし周りにいる奴ほど執念というものもない。はっきり言って今の俺には勝ち目がない。とりあえず、周りの格好に紛れるために参考書を目にする。赤本をボーっと眺めていると会場に試験官と思わしきスーツ姿の人物が数人入って来た。

 それを見ると皆ががさがさと参考書をバックの中に仕舞う。俺もその流れに流されるように眺めていた参考書をバックに仕舞う。そして、試験用紙が配られて一番前に堂々と立つ試験監督が腕時計を目にして時間になると始めの合図をすると同時に全員が試験用紙の最初のページを一斉にめくる。

 俺も便乗して最初のページを開けてすぐに後悔を覚えた。

 最初の問題には見覚えがあった。それは俺が眺めていた赤本に乗っていた過去問と大差ない問題だった。これはラッキーだ、幸先いいんじゃないのと思ったのはこの時だけだ。なぜなら、俺はその問題が分からなかったからだ。解こうとしてもペンが進まない。見覚えのある問題だからこそ後悔が大きい。ボーっと周りに合わせて参考書を見ている場合じゃなかった。もっと、ちゃんとしていれば・・・・・。

 一気に俺の士気は下がり半分以上この試験を投げそうになる。

 そして、俺は強く思うのだ。

 10分前くらいに戻れたらきっとこの問題はすらすら解けて幸先のいいスタートなってこの後のまだ見ぬ問題も問題なく行けるんだろうな~。


 戻らないかな・・・・・時間。


 そう思って目をつぶった瞬間、俺を除いて世界が地球が止まり灰色に染まる。音もしなくなり耳鳴りだけがほんの数コンマ秒俺の耳を支配した。それに驚いて俺が次に目を開けた瞬間には世界は再び動き出していて色も元に戻っていた。

「・・・・・・はぁ?」

 一瞬何が起きたのか理解できなかった。周りのピリピリした空気はつい数分前に俺が感じていたものだ。そして、まだみんな参考書を手に取っているし、席を立ち歩いている者もいる。俺は慌てて腕時計の時間を確認すると試験開始7、8分前だった。

 おかしい。俺は確かテストをしていた。入試をしていた。それで最初の問題に見覚えがあって後悔している真っ最中だった。

 その見覚えのある問題のある赤本は俺の手にある。

 きっと、あまりにもこの慣れない空気と緊張感のせいで意識が飛んでいたんだ。仕方ない、仕方ない。とにかく、夢であったとはいえもしかしたら出てくるかもしれないからその過去問を見て問題の時からくらいは覚えておこう。

 俺がその問題の解き方をあらかた思い出した時にこれまた見覚えのあるスーツ姿の試験官たちが入ってきて問題用紙を配る。一番前に堂々としている試験監督が腕時計で時間を確認してから始めという合図を送ると同時に全員が一斉に問題用紙をめくる。その光景を見るのは二度目だ。全く同じビジョンだ。俺は周りに遅れて恐る恐るページをめくる。最初に出てきた問題は赤本の過去問と同じ形式の問題だった。

 何も詰まることなくその問題を解いてしまった。

 戻ったのか・・・・・本当に俺は・・・・・。

 試験中の合間合間にそう考えた。

 戻らないかな・・・・・時間。

 それと同時に俺は時間をさかのぼって過去に戻ったというのか?10分前の世界に戻ったのか?・・・・・ハハハ、ありえなくね。

 でも、それがもし本当ならば・・・・・。

 試験を解きながら俺の中に野望が生まれた。

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