(13)
―― ドオンッ!!
その時突然に爆発音が響いた。
一瞬、花火かと思ったけれど違うらしい。人々が軽い悲鳴を上げてざわつき始める。
続けざまに何度も爆発音が響き渡り、悲鳴は本格的になって皆が慌てだした。
状況を把握しようと周りを見回すあたしの目に、鮮烈な赤と不穏な黒の二色が飛び込んできた。
広場の向こうの軒並みが次々と爆発している!
赤い炎が生き物のようにめらめら燃え盛り、黒い煙が天に向かって勢い良く立ち昇るのが見えた。
風が煙と炎を運び、どんどん飛び火して膨れ上がるように火災が広がっていく!
大変だわ!!
「ああ! オレの家が!」
「私の家も!」
「やっと建て直したばかりの家が!」
何人かが爆発の場所に向かって一目散に駆け出した。
「だ、だめよ! 行っちゃだめ!!」
あたしは大声で叫んだ。
爆発の巻き添えになってしまう! 近づいてはだめよ!!
「家にはオレの親父が!」
「私の赤ちゃんがあ!」
「あそこには家族がいるんです!!」
家族が、あの爆発現場に残されている!?
狂気の様な形相でみんな走っていく。止めても誰も聞く耳持たなかった。
ざわつきと混乱が広がり、広場は雑然として落ち着きを失う。
爆発が広がるにつれて、現場に向かって走り出す人がどんどん増えていく。
「だめよ! 気持ちは分かるけど行っちゃだめよーー!」
あたしの声は爆発音と悲鳴に掻き消されてしまった。
いったいどうしてこんな!? ガス爆発でも起こったの!?
あたしは隣のヴァニスを見上げて叫んだ。
「なんとかして! みんなを助けて! このままじゃ二次災害になるわ!」
ヴァニスは宙を見上げ、何かを睨みつけていた。
その視線の先を辿って、あたしは激しい衝撃を受けた。
「ジン!!?」
赤い炎と黒い煙の中に、銀の髪を靡かせたジンが立っていた。
その銀の瞳も険しく、まるで刃を投げつけるかのようだ。
「狂王!!」
その憎々しげな語気の鋭さが、真っ直ぐヴァニスを貫く。
「新世界、だと!? お前の好き勝手にはさせない!!」
ジンの足元付近からゴォッと炎が踊るように舞い上がった。
まさかこの爆発の正体はあなたたちが!?
「雫!!」
ジンの叫びと共に、ひと際激しく大きな爆発が起こった。
「雫、待ってろ! いま助ける!」
ジンの体がふわりと宙に浮き、こちらを目掛けて勢い良く滑空してきた。
ジンの方向から、炎や煙、数知れない瓦礫の塊が弾丸のように飛来してくる。
それらが広場の上空から人々に無差別に襲い掛かった。
「ぎゃああぁ!?」
「うわああ!!」
ついさっきまで笑顔であたしに話しかけていた人達が、悲鳴や怒声をあげ、降る瓦礫の中を入り乱れ血相変えて逃げ惑う。
炎に包まれ、瞬く間に全身火達磨になる者。
煙にまかれる者。
襲い掛かる瓦礫を避けきれず、血にまみれて倒れる者。
あたしは目を見開いて絶句しながらその光景を見渡した。
「うわあぁぁん!!」
子どもの泣き声が聞こえた。
あたしに花束をくれた女の子が地べたにペタンと座り込み、腰を抜かしたように泣き喚いている。
「おとーさん! おかーさん! どこーー!?」
ノドも千切れんばかりに泣き叫ぶその子の周りは、形相を変えた大人たちが我を忘れて逃げ惑っていた。
あのままじゃ踏み潰されるわ!
あたしは人々を掻き分け夢中で駆け寄ろうとした。
―― ドオンッ!
空から巨大な壁の塊が落下してきて、あたしのすぐ前方の地面に激突する。
耳を覆うような派手な音と共に、粉砕した瓦礫と粉塵を浴びてあたしは引っくり返った。
パラパラと体の上にバラバラと細かい破片が落ちてくる。
痛みに呻きながら身を起こすと、怪我をした人達が瓦礫の合い間に転がりグッタリと倒れている。
あの子……あの子は無事!?
女の子は地面に這いつくばり、両手で頭を抱えていた。
あたしは立ち上がろうとして足に鋭い痛みを覚え、顔を歪めて倒れた。
見ると、ふくらはぎから血がダラダラと垂れている。さっきの瓦礫で切ったんだ。
ひきつけの発作のような泣き声を上げ、ガタガタと震えている女の子の姿に向かって、懸命に手を伸ばす。
「こっちよ! ここよーー!!」
でも届かない。呼んでも、叫んでも、周囲の騒ぎに紛れて届かない!
「ジン!」
あなたはあたしを助けに来てくれた。
あなたにとって人間は、全てにおいて例外なく憎むべき存在でしょう。
神を裏切り、眷族を消滅させ、精霊達を捕縛し苦しめる、世界を破滅に導く元凶。
その敵から、あたしを救い出そうと懸命に戦ってくれている。
良く分かってる。でも、でも。
でも!!
お願いだからやめてぇ!!