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 ―― ドオンッ!!

 その時突然に爆発音が響いた。

 一瞬、花火かと思ったけれど違うらしい。人々が軽い悲鳴を上げてざわつき始める。


 続けざまに何度も爆発音が響き渡り、悲鳴は本格的になって皆が慌てだした。

 状況を把握しようと周りを見回すあたしの目に、鮮烈な赤と不穏な黒の二色が飛び込んできた。

 広場の向こうの軒並みが次々と爆発している!

 赤い炎が生き物のようにめらめら燃え盛り、黒い煙が天に向かって勢い良く立ち昇るのが見えた。

 風が煙と炎を運び、どんどん飛び火して膨れ上がるように火災が広がっていく!

 大変だわ!!


「ああ! オレの家が!」

「私の家も!」

「やっと建て直したばかりの家が!」

 何人かが爆発の場所に向かって一目散に駆け出した。

「だ、だめよ! 行っちゃだめ!!」

 あたしは大声で叫んだ。

 爆発の巻き添えになってしまう! 近づいてはだめよ!!


「家にはオレの親父が!」

「私の赤ちゃんがあ!」

「あそこには家族がいるんです!!」


 家族が、あの爆発現場に残されている!?


 狂気の様な形相でみんな走っていく。止めても誰も聞く耳持たなかった。

 ざわつきと混乱が広がり、広場は雑然として落ち着きを失う。

 爆発が広がるにつれて、現場に向かって走り出す人がどんどん増えていく。

「だめよ! 気持ちは分かるけど行っちゃだめよーー!」

 あたしの声は爆発音と悲鳴に掻き消されてしまった。


 いったいどうしてこんな!? ガス爆発でも起こったの!?

 あたしは隣のヴァニスを見上げて叫んだ。

「なんとかして! みんなを助けて! このままじゃ二次災害になるわ!」


 ヴァニスは宙を見上げ、何かを睨みつけていた。

 その視線の先を辿って、あたしは激しい衝撃を受けた。


「ジン!!?」


 赤い炎と黒い煙の中に、銀の髪を靡かせたジンが立っていた。

 その銀の瞳も険しく、まるで刃を投げつけるかのようだ。

「狂王!!」

 その憎々しげな語気の鋭さが、真っ直ぐヴァニスを貫く。

「新世界、だと!? お前の好き勝手にはさせない!!」


 ジンの足元付近からゴォッと炎が踊るように舞い上がった。

 まさかこの爆発の正体はあなたたちが!?


「雫!!」

 ジンの叫びと共に、ひと際激しく大きな爆発が起こった。

「雫、待ってろ! いま助ける!」


 ジンの体がふわりと宙に浮き、こちらを目掛けて勢い良く滑空してきた。

 ジンの方向から、炎や煙、数知れない瓦礫の塊が弾丸のように飛来してくる。

 それらが広場の上空から人々に無差別に襲い掛かった。


「ぎゃああぁ!?」

「うわああ!!」


 ついさっきまで笑顔であたしに話しかけていた人達が、悲鳴や怒声をあげ、降る瓦礫の中を入り乱れ血相変えて逃げ惑う。

 炎に包まれ、瞬く間に全身火達磨になる者。

 煙にまかれる者。

 襲い掛かる瓦礫を避けきれず、血にまみれて倒れる者。

 あたしは目を見開いて絶句しながらその光景を見渡した。


「うわあぁぁん!!」


 子どもの泣き声が聞こえた。

 あたしに花束をくれた女の子が地べたにペタンと座り込み、腰を抜かしたように泣き喚いている。

「おとーさん! おかーさん! どこーー!?」


 ノドも千切れんばかりに泣き叫ぶその子の周りは、形相を変えた大人たちが我を忘れて逃げ惑っていた。

 あのままじゃ踏み潰されるわ!

 あたしは人々を掻き分け夢中で駆け寄ろうとした。


 ―― ドオンッ!

 空から巨大な壁の塊が落下してきて、あたしのすぐ前方の地面に激突する。

 耳を覆うような派手な音と共に、粉砕した瓦礫と粉塵を浴びてあたしは引っくり返った。


 パラパラと体の上にバラバラと細かい破片が落ちてくる。

 痛みに呻きながら身を起こすと、怪我をした人達が瓦礫の合い間に転がりグッタリと倒れている。

 あの子……あの子は無事!?


 女の子は地面に這いつくばり、両手で頭を抱えていた。

 あたしは立ち上がろうとして足に鋭い痛みを覚え、顔を歪めて倒れた。

 見ると、ふくらはぎから血がダラダラと垂れている。さっきの瓦礫で切ったんだ。


 ひきつけの発作のような泣き声を上げ、ガタガタと震えている女の子の姿に向かって、懸命に手を伸ばす。

「こっちよ! ここよーー!!」

 でも届かない。呼んでも、叫んでも、周囲の騒ぎに紛れて届かない!


「ジン!」


 あなたはあたしを助けに来てくれた。

 あなたにとって人間は、全てにおいて例外なく憎むべき存在でしょう。

 神を裏切り、眷族を消滅させ、精霊達を捕縛し苦しめる、世界を破滅に導く元凶。


 その敵から、あたしを救い出そうと懸命に戦ってくれている。

 良く分かってる。でも、でも。


 でも!!

 お願いだからやめてぇ!!


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