(6)
どこまでも美しく澄んだ水色の瞳。
命の尽きるこの瞬間に、あなたは強く信じている。
出会ったばかりの、このあたしを。
そして道行く先の希望を信じているのね。あなたは…
その希望を見る事もなく、ここで死に絶えるというのに…。
あたしの両目に涙が盛り上がり、雫となってポタリと落ちた。
涙の雫が精霊の透けた頬に落ちて、小さな王冠のような波を形づくる。
その時、水の精霊の全身がまばゆいほどに光り輝いた。
う…わ……!!
目を開けていられないほどの眩しい輝きがあたしの体を包み込む。
足の爪先から頭の天辺まで、ざああ! と音を立てて潮が満ちた。
体中の水分という水分が躍動するように反応している。
あぁ、水が…水が…。
頭の中に膨大な量の水のイメージが流れ、逆らう事のできない圧倒的な力があたしを翻弄した。
あたしは呆然と、流れ行く水のイメージを心の中で見続けた。
海も、河も、湖も
滝も、水溜りも、降る雨も
落ち、弾け、流れ、留まり
そして昇り……また巡る。巡り続ける。
透明? 青? 翠?
水 水 みず
命の、雫…。
雫。それはあたしがこの世に生まれる前から…
あたしの為に、定められていた名前……。
体と心が、水の感覚にたゆたう。ゆらゆら、揺らめき満たされる。
そう、これは生命を満たすもの。
命を守り、育み、救う偉大なもの。
『そうです。救って』
ゆっくりと、あたしは閉じていた目を開いた。
そこに、水の精霊が微笑んでいた。
波打つ水面のように、その姿を揺らめかせながら。
彼女は光を浴びて輝いている。満ち足りたように。
そしてあたしの耳が、水の音で満たされる。打ち寄せるような、流れるような、幸福で豊かで壮大な音色に。
『その力で救ってください。仲間を』
精霊は穏やかにゆっくりと瞳を閉じた。
『そして…世界を…』
地に落ちて、砕ける水音。
精霊の体は弾けるように霧散した。
あの気高く美しい、透き通る青が、涼やかでどこまでも清らかな香りを遺して。
あぁ、逝ってしまった。
後はただ、黄色い砂漠の大地が残った。
風に吹かれ、乾燥した空気にさらされる世界だけ。
あたしは涙を流しながら砂の丘を眺める。
広大な景色の中でぽつんと。…独りぼっちで。
作り物のような世界。でも現実の世界。
受け入れがたい事実。また振り出しに戻ってしまった。
あたしは、砂漠に突っ伏し声を上げて泣いた。