(4)
落ち込んでいると、侍女達が着替えのドレスを手に持った。
「さあ、お着替えを致しましょう。お手伝い致します」
淡いグリーンのドレスは、襟と袖と裾に同じ模様の銀糸刺繍がされてある。
それ以外はとりたてて何の装飾も無い、ごくシンプルなドレスだ。
「ヴァニス王様が、華美なものは好まれないお方ですので」
値踏みされてると思ったのか、侍女が言い訳した。
いいわよ、別にド派手ギラギラなドレスなんて着たくも無いし。
でもそういえば、ヴァニスの衣装も無駄な飾りはほとんど無かった。
妹や貴族たちは、競うように豪華絢爛な衣装や宝石を身につけているのに。
ヴァニス自身は贅沢に興味が無いのかしら。まぁ、狂王で贅沢三昧じゃ本当に救いようも無くなるけど。
「まずはこれを」
そう言いながら侍女が布を差し出した。
あぁ、下着ね? はいはい分かりま……。
……。
あの? あの、これって、この形状って……。
ふんどし?
「あ、あの?」
「こちらを腰に当てて、こうやって紐で縛って」
「い、いやあの」
「この布を、こう、股にくぐらせまして」
「あの、ちょっと」
「こうして後ろにもってきて、さらにこう挟む……」
「すみません! あたしのパンツどこですか!?」
あたしは慌てて、着用方法を指導している侍女の手を押さえた。
ふ、ふんどしはカンベンして! ふんどしは!
これがこちらの下着文化なのかもしれないけど!
ドレスの下はふんどしイッチョウって、すっごいコラボレーションよ!?
さすがにちょっと抵抗がある!
「ぱんつ、でございますか?」
「ええ、あの、パンツというかショーツと言えば通じるのか」
「あの小さな布切れでしたら、洗い物に回しましたが?」
洗っちゃったのおぉ!? そんなあぁ!
「大丈夫でございます。こちらの肌着は清潔でございますよ?」
「そーゆー問題じゃないの!」
「ここを、こう、キュッ!と」
「ひえぇ!?」
うああ、異世界でまさかのふんどし初体験!
い、違和感有りまくりよ! この状態で食事するってどんなプレイ!?
いっそノーパンで構わないから!
「ふんどしはカンベンしてーー!」
さっきまで真面目にシリアスしてたのに、一気に情け無いことになってしまった。
喚いて抵抗するあたしを侍女たちが腕力で押さえつける。
あっという間にふんどし完備、ドレスも装着。サッサとあたしは食事の部屋へ引きずられて行った。
うぅぅ、か、下半身がぁぁぁーー。
違和感に耐えられず、ついお尻に当ててしまう手を後ろを歩く侍女に叩かれる。
分かってます! 食事中にお尻なんか触りませんよ! もう!
ムズムズと落ち着かないお尻を抱え、あたしは室内へ案内された。
すでにヴァニスとマティルダちゃんが来ていたけれど、二人共まだ席に着かずに、壁にかけられた大きな絵を並んで眺めていた。
寄り添い合うその様子を、あたしは少し離れた場所から眺める。
それは家族の肖像画だった。
金色の王冠を被ってマントを羽織った父親らしき男性が立つ傍らに、母親らしい女性が椅子に座っている。
その手前に並ぶ三人の男の子達。そして母親の膝に抱かれる幼い女の子。
男兄弟の中で一番年下の子の顔がヴァニスそっくりだった。生真面目そうに直立不動で立っている。
これは国王一家の肖像画なのね?
亡くなってしまった家族の肖像をじっと眺めている二人に、あたしは声を掛けあぐねる。
邪魔しちゃ悪い気がして、あたしもしばらく無言で立ち続けていた。
しばらくすると気配を感じたのか、ヴァニスがこっちを振り向いた。
マティルダちゃんも振り向き、あたしに笑顔を見せる。
「珍し……いえ、雫さま! どうぞ雫さまもご覧になって!」
手招きされ、あたしは二人のもとへオズオズ近寄った。
「マティルダのお父様、お母様、そしてお兄様たちよ」
そう説明されて、改めて近くで肖像画を見上げる。
黒髪の国王が堂々と立ち、色白の王妃が優しげに微笑み、そして両親に守られるように立つ息子達と幼い娘の肖像。
「あのね、お父様もお母様もお兄様たちも、天に召されてしまったの」