表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/182

(4)

 どんな力を持っていたとしても、神は特別でも偉大でもない。

 そう言いたいの? だから人間が神に対して卑屈になる必要はないって?

 そりゃモネグロスを見てる分には、ほんとに偉大かどうかは疑問の余地の残るところだけど。


「あたしは別に、卑屈になってるつもりは無いわ。それに神達だって、偉ぶってふんぞり返ってるわけでもないわよ」

「ほう?」


 モネグロスの偉大さについては疑問だけど、でも彼の性格の良さだけは、自信をもって保証できる。

 絶対に奢り高ぶったり、人間を見下したりなんかしない。モネグロスはそんな性悪じゃない。


「あなたのように拷問や公開処刑なんてしない」

「そうだな。それは確かにその通りだ」

「国王だからって圧政を強いたり、神達を滅ぼそうとする権利なんてないわ」

「権利、か……」

「自分達は平等だと主張するなら、なおのことそうでしょう? 共にこの世界に生きていくべき、愛すべき存在よ」


 あたしはハッキリと主張した。

 今まできっと誰ひとり、国王陛下の行いを批判するような発言をする人間なんて、いなかったはず。

 ヴァニスにとって、さぞかし不愉快で耳障りの悪い発言だろう。

 それでもヴァニスは顔色ひとつ変えない。強い視線もそのままで、まっすぐ正々堂々とあたしを見つめている。


 そしてあたしは疑問を深める。

 なぜ? と。


 なぜヴァニスはこんなに揺るぎ無いんだろう。

 なぜ国民はあんなにヴァニスを支持するのだろう。

 この男が世界の敵なのは間違いないのに。そうよ。それは間違いないのに。


 何かが欠けている。


 あたしの知らない何かがあるんだ。きっとこの世界の事情の中に。

 ヴァニスが自分自身を恥じない何かが。国民があれほど心酔する何かが。

 それが紛失したパズルのピースのように、あたしを不安にさせている。


 ひとつぐらいピースが欠けたところで、大局に相違ないと思う。

 ヴァニスが過ちを犯し、世界を危機に陥れているという大局の事実には。

 でも、たったひとつだけポツンと空いた空洞が、否応にも目を引き不安をあおる。

 そこからバラバラと音を立てて、全てのピースが崩れていきそうな不安が捨てきれないんだ。


「雫、そこへ立て」


 突然ヴァニスが話題を変えた。

 あたしは自分の暗い思考からハッと引き戻される。


「え? な、なに?」

「そこへ立て」

「そこってどこよ?」

「その石柱の間だ」


 あたしは白い三本の石柱を見た。

 このトライアングルの中に立てって? あたしに?

 ……なんか…… 嫌。

 それ、ものすごく、嫌。


 な~んか、微妙な恐怖感がふつふつと湧いてくる。

 しかもヴァニスって何を考えているのか全然分からないし。

 素直に言う通りにして、あたしにメリットがあるとは思えない。

 メリットどころかいい餌食にされそうだわ。絶対、裏がある。絶対。


「早くせよ」

「な、なんでよ? ちゃんと理由を話してよ」

「話す必要などない。これは命令だ」


 ……カチンッ!

 またそれ? また『命令』?


「……あのねぇ」

「なんだ? 早くせよ」

「あんたみたいに上に立つ人間が、よく陥りがちな勘違いなんだけどね。OLが命令され慣れてる人間だとは思わない方が賢明よ?」

「おーえる??」


 奴隷じゃないの。部品でもないの。

 「命令」ってキーひとつで思い通りに動くシステムでもないの。

 筋の通った「指示」なら仰ぐし聞くけれど。

 『こいつは言う事聞いて当然だ』なんて思い込まない方が身のためよ?

 組織の中でOLの扱いを間違える事ほど、危険な行為はないんだからね?


「おあいにくさま! あんたの思い通りになんか意地でもならないわよ!」

 キッパリそう宣言して、あたしはふんっとソッポを向いた。

 ヴァニスは瞬きしながら、完っ璧にヘソを曲げてしまったあたしを見ている。


「つべこべと言わず、早くせよ」

「嫌です。拒否します」

「拒否する権限はお前には無い。これは命令だからだ」

「あんた、人の話ぜんぜん聞いてないでしょ!?」

「なぜそんなにも頑なに拒否するのだ? それこそ理由を言え」

「理由? 自分の胸に手を当ててよく考えたら?」

「ふむ、わかったぞ」


 ヴァニスは小ばかにしたような薄目になった。

「お前、恐れているのだな? この臆病者めが」

「臆……!? なによそれ!」


 あたしはグィッと顔を戻してヴァニスを睨みつけた。


「勘違いしないでよ!」

「やれやれ、そちらの世界の人間は軟弱なのだな。気骨というものが全く無い」

「何言ってるのよ! あたしはねぇ!」


 データ壊した上司に代わって、ニ週間ブッ続けでサービス残業して、資料をまとめ上げた女よ!

 気骨と気概の代名詞って絶賛されたんだから!


「ふっ。なにが気概の代名詞、だ」

「なによ! 嘘じゃないわよ本当よ!」

「双頭の馬にも慄くようでは、その気概とやらの程度も知れよう」

「甘く見ないで! ろくろ首なんか怖くないわ!」

「ほう? 平気だと?」

「そうよ! まったく平気よ! どーんと来いってなもんよ!」

「よし分かった。……おい」


 ヴァニスが護衛の兵士に向かって手を上げると、兵士達は心得たように頷き、馬にまたがる。そして……。


全員揃って、あたしに向かって突進してきたーー!


 ぎゃああ! イヤぁぁ!! 

 妖怪馬が集団で、首をうねらせながらこっちに接近中!

 その目が血走ってる! 目ぇぇーー!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ