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「始祖の……?」

「始祖の神。この世界は神々によって作られたのは知っているか?」

「ええ」

「その全ての神々を生み出した神の母。この世界の真の始祖だ」


 世界の真の始祖。そんな神様がいたのね。初めて聞いたわ。


「ここは始祖の神が最初に降り立った場所だと言われている」

「今、その神様はどこにいるの?」

「もういない」

「いない?」

「消えたのだ。神達を生み出した後に忽然と」


 忽然と消えてしまった? 産みっぱなしで?

 こう言っちゃなんだけど、それってかなり神様っぽくない行動ね。

 産むだけ産んでほったらかしなんて、よく聞くバカ親みたい。



「ホントにそれって神様なの?」

「神というものは、お前が思うほどに特別な存在ではない。我ら人間と少しだけ異なる能力を持った、同じ世界に生息する存在。ただそれだけだ」


『自分は神よりも偉大な存在である』


 そう豪語して憚らない男。そして神を排除しようとしてる人間。

 いかにも相応しい発言ね。傲慢そのもので。

 身の程を知らない、勘違いな愚か者に相応しい発想だわ。

 神を見下すその態度が、どれほど滑稽に見えているのか自分で気付いていない。


「お前、余を見下しているのか?」


 あたしはハッと息を飲んだ。

 ヴァニスはいつの間にか石柱ではなく、あたしを見ている。

「今、そんな目をしているぞ。お前は」


 あたしはうろたえた。

 み、見下す? あたしがヴァニスを見下している?

 神を見下すヴァニスを、今度はあたしが滑稽な奴だと見下してるって?


 だ、だってそれは当然でしょう?

 人間のくせに神様に刃向かうなんて、普通に考えて滑稽だもの。

 そうよ、当然よ。だから別に、あたしが後ろめたい気持ちになる必要なんて無いわよ。

 愚かな勘違いをしているのはヴァニスの方だもの。


「余を愚かな考えの持ち主だと思っているのであろう?」


 グッと詰まる。さっきから痛いぐらいズバリと思考を読まれて、体裁が悪い。

 なんだろう。妙な罪悪感にも似た、この感情は。

 あたしに非は無いはずなのに、なぜかヴァニスの顔を堂々と見られない。


 そうだ。この目だ。

 まっすぐあたしを見つめる、この冷静な目のせいだ。

 決然とした意思のこもった黒い瞳からは、少しも感じられないんだ。悪意や狂気といったものが。

 なぜなの? 悪名高い暴君のくせに。

 あんな非道な事をしておいて、なぜこんなに堂々としていられるの? なぜそんなに胸を張っていられるの?


 その時、かすかな鳥のさえずりが聞こえた。

 頭上を白い小鳥が伸び伸びと飛んでいく。


「お前は、自分があの鳥よりも偉大だと思うか?」

「え? 偉大って?」

「鳥から見たら、我ら人間は特別に見えるだろう。自分達には生み出せない物を生み出し、成し得ない事を成す。まさに我らから見た『神』のごとし、だな」


 神の、ごとし? あたし達人間が?


「今一度、問う。雫よ、お前は鳥よりも偉大で特別な存在か?」

「そ、それは……」


 ヴァニスの真っ直ぐな、逸らす事を許さない強い強い視線を受けて、あたしは思わず真面目に考え込んだ。

 鳥よりも偉大かって?

 それは、その、そういう次元の問題じゃないでしょう?

 鳥は鳥だし、人間は人間よ。

 ただそれだけ。純粋にそれだけ。

 どっちが偉大でも上等でもないし、どっちが劣等でも下等でもないわよ。


「それぞれが同じ土壌に生きる、等しい存在に決まってるじゃないの」

「そうだ。等しい存在だ。我ら人間はそれを良く知っている。特別でも無く、偉大でもないのだ。それを決して忘れてはならない」


それは……神と人間の関係を暗示しているの?


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