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「世界を飛び越えるほどの異常現象が、ただ偶然に起こるはずがないのだ。そこには必ず理由がある」

 困惑するあたしに対し、ヴァニスは断言した。

「起こるべくして起こった現実。それは偶然ではない。必然だ」


 モネグロスもまったく同じ事を言っていた。

 確信を持ったその言葉の符号に、あたしは妙な不安を感じる。


 きっかけは間違いなく、あの会社の屋上の出来事。

 でもあの出来事のせいで、あたしは偶然たまたま異世界トリップしたわけじゃないの?

 あたしには、この世界へ来るべき理由が、その必要があった?

 だから、あの出来事が起こったの?


「来るべくして来た者、雫よ。お前はこの世界に何をもたらそうとしている?」


 そんなこと聞かれても。

 だって、縁もゆかりも無かったこの世界に対して、あたしに何のするべき事があるっていうの?

 しかも、よりによってあたし?

 とりたてて何の変哲も無い、平凡を絵にかいたようなあたしに?

 いやまさか、無いでしょそれは。無い答えを求められても困るわよ。

 そもそもなんでそんなに、あたしがここへ来た理由を知りたがるの?


 あぁ……。そうか、なるほど。

 神の消滅という壮大な計画が順調な今、あたしは不確定要素なんだ。

 よりによってこんな時期に、計ったように異世界なんて場所から突然訪れた、いわくありげな女。


 あたしは危険因子かもしれない。

 でもひょっとしたら、本当にただの偶然、この世界に来たのかもしれない。

 なら、自分に有利に働く駒になる存在かもしれない。

 そのどれも、確信に至る決め手が何ひとつ無い。だからあたしを手元に置いて監視しておきたかったのね。


 取り越し苦労だと思うけどね。それは。

 ちょっと深読みし過ぎじゃないの? 疑心悪気になってるんじゃないかしら。

 独裁者は常に不安に満ちていて、何も信用する事ができない心理状態だって聞いたことがある。


 でも考えようによっては、これって有利よね?

 あたしの存在が不安だってことは、あたしはヴァニスの弱点に成り得るんじゃない?

 うまくすれば優位に立てるかも。

 何をどうしてどうすれば『うまくする』になるのかは、まだ全然わかんないけど。


 でもここでバカ正直に「やだ考えすぎよ。あんたって心配性ねぇ」なんて励ましてやることは、無い。


 あえて心配してもらおう。がっつりと。

 そうして揺さぶりをかけるんだ。敵の足元は不安定にさせておくに限る。

 手持ちのカードが強いか弱いか、思わせぶりな態度で相手を翻弄するんだ。


「分からないわ。王が何を言っているのか」

 あたしは頭を振りながら素直に答える。

「理由とか必然とか、そんな難しいこと言われても分からない。あたし、何も知らないし分からないわ」


 しれ~~っとした顔で、そう話した。

 まあ実際、何も分からないのは事実だからあたしの態度は真に迫っていると思う。

 ジン、どうやら運が向いてきたわ!

 どうか待っていて! あたしは絶対に諦めない! アグアさんの居場所を手土産に、きっと無事に帰るから!


・・・って思考を読まれないように、しらじらしく困った表情で視線を逸らした。

ヴァニスは考え込むように、あたしを頭のてっぺんから足の爪先まで見ている。

いくら凝視されても、答えられないものは答えられません~。


「ふむ」

おもむろにヴァニスが玉座から立ち上がった。

あたしは思わずビクッとする。な、なによ!? 何か不満でもあるって言うの!?

・・・あるだろうけど。


ビクつきながらヴァニスの姿を見る。

全身を覆う単調な黒い衣装。濃いエンジ色のマントとの対比が鮮やかだ。

胸元や肩口とかに、手の込んだ立体的な金糸の刺繍が施されている。

生地の美しい光沢からして品質の良さは疑うべくも無いけれど。


漂うのはあくまでも質素で実質的な雰囲気。

黒髪に黒の衣装のせいかもしれないけど、華やかさはまったく感じない。

貴族達の衣装のほうがよほど贅沢なくらいだ。


「来い」

「・・・え?」

「今から余について来い」

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