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「命にかかわる状況になった際、勇猛に戦うべし」

「わかっています」

「お前は本来、人を傷つけるのは嫌だろうが遠慮は一切無用だ」

「はい」

「自分と雫の命を、まず最優先にするべし!」

「雫を守れ! 生きて帰って来い! 頼んだぞ!」

「だいじょうぶです。全力でたたかって守ります!」


 きっと大丈夫大丈夫大丈夫~…。


 もう、両手をこすり合わせて念仏みたいに繰り返すしかない。

 最悪の状況ってケースは、この際頭から除外しよう。

 ネガティブ思考にタチの悪い低級霊とかが、喜んで寄り付いてくるかもしれないし。

 イワシの頭も信心からよ。このさい神頼みでもなんでも……


「雫、頼みます! どうか頼みます! どうか!」


 泣きそうなモネグロスがあたしの両手を握り締める。

 神頼みする前に、せっぱ詰った神様から頼み込まれてしまった……。


 あ、あたし、受験の時も入社試験の時も、左足から歩き出して合格したのよね!

 よぉし今回もそれで行こう! ゲンをかつぐってヤツ!

 かついで得になるもんなら、ゲンだろうがタンスだろうが、何だってかついでやるわ!

 だから絶対に大丈夫に決まってるわよ!!


 半ばヤケクソ気味にそう心の中で叫んでいると、ジンが隣にやってきて熱心に話しかける。


「雫、分かっているな? くれぐれも無理はするな。危険を感じたら…」

「考える前に逃げる、でしょ?」

「そうだ。無事に帰ってくると、もう一度ここで約束してくれ」

「約束する。きっと無事に帰ってくるから」


 銀の瞳が不安に揺れている。

 そうよ。心配なのも怖いのも、あたしだけじゃない。みんな一緒。

 だから頑張れる。逃げ出さないで、やれる事をやる。そして無事に戻ってくるわ、ジンの元へと。

 あたしは大きく息を吸い、無理に笑顔を作った。


「来た!」


 イフリートが鋭い声で囁いた。

 見れば道の向こうから、手押し車に積み上げられた大量の酒樽や食料の山が近づいて来る。

 あたし達は慌てて身を屈め、茂みに潜んだ。


 き、来ちゃった! ついに来ちゃった!

 ああ! いよいよ作戦開始!


 緊張が高まりすぎて頭真っ白なあたしの汗ばむ手を、ジンが力を込めて握り締めてくれた。

 何台も続く手押し車に、それを引く人夫。

 山のような荷物の横について歩く、様々な色鮮やかな衣装の女達。

 最後尾の荷台がガタガタと音を立てて、目の前をゆっくりと通っていく。


 ギュウ!っと痛いぐらいあたしの手を握り、ジンが耳元で囁いた。

「雫、今だ行け!」

 反射的にあたしは茂みから立ち上がる。

 左! 左足から!


「頑張るべし! 雫よ!」

 ―― ドンッ!

 あわわわっ!?


 強く背中を押され、あたしは前のめりになりながらヨロヨロ道に飛び出した。

 おぉぉ!? み、右足から出ちゃったじゃないの! 

 なんってことしてくれんのよイフリートォ! せっかくのゲンかつぎがあぁ!


(しずくさん! いそいで!)


 ノームの声に、あたしは慌てて荷台に駆け寄った。

 酒樽に手を添えて、いかにも「あたし手伝ってます」的な雰囲気を作り出す。

 行列の先頭が裏口に到着し、守衛が先頭の男と二言三言、言葉を交わす。

 そして笑顔で開いた扉の中に、みんながぞろぞろと入っていく。

 あたしも顔を伏せつつ、素知らぬふりで扉をくぐった。

 守衛はこっちをよく見もせずに、何の疑問もなくあたしを通す。


 -- ギイィィ


 あたしの背中で扉が閉まっていく音がする。

 振り向いて茂みの方を見ると、キラリと銀色が光った。


 -- バタン!!


 扉が完全に閉められ、外から遮断された通路はほとんど光が届かなくなる。

 辺りは途端に薄暗くなってしまった。

 でも一向は慣れた様子で、一本道の通路を通っていく。

 あたしは不安と緊張で、足元がガクガク震えるのを止められない。

 心細さのあまり、多分ものすごい形相になってると思う。見られたら確実に不審人物だわ。

 薄暗くて助かった。


 少し歩いていくと通路が二股に分かれた。そこで女達と荷台も別々になる。

 あたしはそそくさと女達の列の最後尾につき、そして顔を伏せながら、城の奥へと進んでいった。


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