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 片一方からの視点だけでは分からない、隠れた真実ってのが世界にはあるんだわ。

 そう思いながら、あたしは火の精霊の精悍な顔立ちを見上げた。

 極力、感情を押さえようと無表情に努めているその姿が、何だか妙にいじらしく見えてちょっとおかしかった。

 ついさっきまで、この無表情は不気味としか感じなかったのに。

 隠れた真実、か。


「あたしが少しでも役に立てるなら嬉しいわ。どうぞよろしく。火の精霊」


 水に流すとか、行動を許可するとか、そんな権利はあたしには無い。

 ただ、一緒に戦いたいって言ってくれたのが嬉しかった。仲間になりたいって言ってくれた事が。

 だから一緒に行動したいと思う。きっとモネグロスだってそう言うに違いない。

 頼もしい仲間が増えて心強いわ。とても。


 そう伝えると、かすかに火の精霊の唇が微笑んだ。

 焚き火の炎がチラチラと揺らめく。

 それでまた慌てて表情を引き締める様子を見て、あたしは笑ってしまった。


 繰り返し感謝の言葉を告げて、火の精霊はテントに戻っていった。

 その後ろ姿を確認して、ふぅっと息を付く。そして膝を抱え、また焚き火を眺める。

 さっきまでよりも、さらに生き生きと見える火の色。

 あたしは自然と頬が緩み、ほっこりした気持ちになった。


 ―― ふわり・・・


 髪が風に揺れた。あ、この風は。


「ジン?」

「正解。よく分かったな」

 ふわりと目の前にジンが舞い降りた。

 銀の髪を巻き上げている風が、焚き火で火照ったあたしの頬を優しく撫でる。


「とりあえず周囲に危険なものは無さそうだぞ」

「そう、良かった。見回りお疲れ様」

「いや、たいして疲れちゃいないさ」


 ジンがあたしの隣に並んで座り込んだ。そして焚き火の様子をひと目見て

「火の精霊と話したのか?」

 と聞いてきた。


「すごい。なんで分かるの?」

「それぐらいこの火を見れば一目瞭然だ」

「ふーん。あたしには何となくしか変化が分からないけど。生粋の精霊と、半分精霊の差かしらね」

「あいつ、喜んでたろう?」

「おかげでヤケドしちゃったわ」


 ジンは声を上げて笑い、悪気はないんだ許してやれよと言った。


「生真面目な火の精霊達の中でも、あいつは特に一本気で裏表のない奴だ。よろしく頼む」

「もちろんよ。こちらこそだわ」

「なあ、雫」

「なに?」

「ありがとう」


 ジンが優しい声で感謝の言葉を微笑みながら囁いた。

 澄んだ銀の瞳が、あたしをじっと見つめている。


「火の精霊と土の精霊が仲間になったのは、お前のお陰だ。お前の力が、少しずつ事態を好転させていく。オレにできない事をお前が叶えていく」

「ジン……」

「お前は、不思議な人間だな」


 焚き火の炎に浮かび上がるジンの表情。

 人間とは異なる質感の肌が、火に照らされてとても幻想的だ。

 緩やかに揺れる銀の髪。あたしを真っ直ぐに見つめ続ける銀の瞳。


「お前は特別な人間だ。雫」


 ―― とくん


 パチパチと火の爆ぜる音に混じって聞こえた、ジンの囁き。

 その声があたしの胸を泡立たせた。

 あたしが特別な人間? 特別な。


「お前にとって、本当はこの世界はすぐにでも立ち去りたい場所だろう」


 ジンが焚き火に向かい、ふぅっと軽く息を吹きかける。

 すると炎がサアァッと音を立てて、瞬時に人型に形を変えた。

 わあ、火の人形だわ。


 目を見張るあたしの前で、火の人形が丁寧に一礼し、軽やかに踊り始める。

 揺れる長い炎の髪。ステップを踏む炎の脚。滑らかに動く炎の腕。

 流れるようにひらめく炎のドレス。

 うわあぁ、すごいわ! まるで生きているように見事なダンス!


 声も出ないほど歓喜するあたしの隣で、ジンが囁くように語り掛けた。


「でもオレは感謝している。お前がこの世界に来てくれた事に」


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