(3)
ジンが血相変えて、モネグロスの倒れている場所へ駆け寄った。
あたしも土の精霊を手の平に包むようにしながら駆け寄る。
モネグロスは青白い顔と紫色の唇で、ぐったりと意識を失ってしまっていた。
この顔色はヤバイ!
「モネグロス! しっかりしろ!」
「お願い! 目を開けてよ!」
「モネグロス、きこえてますか!?」
あたし達の叫び声にもまったく反応してくれない。
「全身ずぶ濡れだ! このままじゃますます衰弱しちまう!」
「は、早く温め……クシュン!」
「ただのしずくさん! 大丈夫ですか!?」
「さ、寒ぅいぃ……」
うぅ、あたしの全身もグッショグショだったんだわ。
髪の毛からはボタボタ水が垂れ落ちてるし、濡れた服にどんどん体温が奪われてく。
さ、寒い。寒い、寒い、寒い。
ガタガタ震えるあたしを見てジンが叫ぶ。
「火の精霊! モネグロスと雫を温めてくれ!」
「温める?」
少し離れた場所からあたし達を見ていた火の精霊が、首を傾げた。
土の精霊があたしの手の平の冷たさを感じ取ったのか、焦った声で懇願する。
「おねがいです火の精霊! 早く!」
「うむ。承知」
そう言って頷いた火の精霊は、おもむろに両手を前に突き出した。
両手の上にバスケットボール大の火の玉がボッ!と現れる。そして…
その火の玉を、あたしに向かって思いっきりブン投げてきた!
ぎゃーーーーー!!?
あたしはとっさに地べたに突っ伏して攻撃を避けた。
火の玉は、こめかみギリギリを掠めて猛スピードでぶっ飛んでいく。
ジンと土の精霊が、唖然としながら火の玉の行方を目で追った。
あああぁぁあぶな…! き、き、危機一髪で直撃寸前!
「なにすんのよーー!?」
「だから、温める」
「『温める』と『ぶつける』のどこに関連性があるのよ!?」
絶対これって仕返しでしょ!? あたしに対する報復でしょ!? 絶っ対そうでしょ!?
息巻くあたしに、土の精霊が慌てて弁解した。
「ただのしずくさん。火の精霊はけっしてワザとではないんです」
「いや明白に、公明正大に、ワザとよこれは!」
「ごかいです。火の精霊は、加減とか、適度とかが、よくわからないだけなんです」
「火の精霊、お前はいつも本っ当に手加減ないよなぁ」
ジンの呆れた声と土の精霊の慌てた声を、無表情で聞いている火の精霊。
「温める?」
自分の両手をじっと眺めながら、何度も何度も首を傾げて考え込んでいる。
そして再び、おもむろに頷いたかと思うと……
今度はハンドボール大の火の玉を、思いっきり投げつけてきやがったー!!
だからー! 球のデカさの問題じゃないんだって!
やっぱりあんた、完全にすっとぼけてるでしょ!
内心、千載一遇のチャンスだと思って張り切ってるでしょ!
うぎゃー!? 今度はニ連発で来たぁ!!
悲鳴を上げて逃げ回るあたし。
腹立つほど的確に狙いを定めてくる火の精霊。
必死で火の精霊を止めようとするジンと土の精霊。
大騒ぎでドタバタする中、モネグロスは完全に放置されて。
やっと焚き火で温まり、彼の意識が戻ったのは、かなり時間が経ってからだった。




