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 アグア、我が良き友よ……


 私を世界で最も美しいと讃えてくれたアグア。

 私を誇りに思うと語ってくれたアグア。


 その賛美に応えるために、変わらぬ絆に報いるために、私は遥かこの地まで迎えに来た。


 さあ、ここへおいで。あの日のように私の背にお乗り。

 そしてその唇で、歌うように語っておくれ。その瞳で優しく見つめておくれ。


 黄金の砂、豊かな緑、眷属たちの笑い声、吹き渡る自由な風。

 偉大なる神モネグロス。輝くほどに美しいアグア。

 何ひとつ欠けることの無い、あの黄金の海原へ。


 やっと、やっと帰れる。やっとあの日に帰れる。

 孤独の中で夢に見続けた、このうえなく幸せだったあの日に。

 もう二度と離れはしない。迎えに来たのだよ。


 さあ


 帰ろう。


 帰ろう。


 帰ろう。


 かけがえのない、私の大切な……



 青白い炎に焼かれる土の精霊の体は、もはや黒ずんで崩れかけていた。

 それでも、指先だけはひくりひくりと神の船へ向かって動いていた。

 細い細い、切れかけた糸のような声が、土の精霊から聞こえる。


「か、み……の、ふね……」

『……』

「か、み……の……」

『……』

「わた、し……たち、兄弟……」

『……あ』


神の船から届いた、最期の意識。


『あ、なたは……?』



―― ……誰? 



 地響きと共に神の船は焼け落ちた。

 そして無残に崩れ落ち、ただの木材と化してしまった。

 巨大な焚き火のように天高く真っ赤な炎が立ち上る。


 あたし達を守ってくれた神の船が、何の望みも叶えることなく煙と煤となって天にのぼっていく。

 悲しい声で語りかけてくる土の精霊が、自分にとってのなんであるかを知る事すらもなく。


「か、み……」


 かすかに動き続けていた土の精霊の指が、ついに止まった。

 神の船を求める指先と、声が。

 かくり、と黒ずんだ指が地に落ちて……ぼろりと砕け散った。


 あたしは、その全てを、ただ、眺めていた。


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