(10)
アグア、我が良き友よ……
私を世界で最も美しいと讃えてくれたアグア。
私を誇りに思うと語ってくれたアグア。
その賛美に応えるために、変わらぬ絆に報いるために、私は遥かこの地まで迎えに来た。
さあ、ここへおいで。あの日のように私の背にお乗り。
そしてその唇で、歌うように語っておくれ。その瞳で優しく見つめておくれ。
黄金の砂、豊かな緑、眷属たちの笑い声、吹き渡る自由な風。
偉大なる神モネグロス。輝くほどに美しいアグア。
何ひとつ欠けることの無い、あの黄金の海原へ。
やっと、やっと帰れる。やっとあの日に帰れる。
孤独の中で夢に見続けた、このうえなく幸せだったあの日に。
もう二度と離れはしない。迎えに来たのだよ。
さあ
帰ろう。
帰ろう。
帰ろう。
かけがえのない、私の大切な……
青白い炎に焼かれる土の精霊の体は、もはや黒ずんで崩れかけていた。
それでも、指先だけはひくりひくりと神の船へ向かって動いていた。
細い細い、切れかけた糸のような声が、土の精霊から聞こえる。
「か、み……の、ふね……」
『……』
「か、み……の……」
『……』
「わた、し……たち、兄弟……」
『……あ』
神の船から届いた、最期の意識。
『あ、なたは……?』
―― ……誰?
地響きと共に神の船は焼け落ちた。
そして無残に崩れ落ち、ただの木材と化してしまった。
巨大な焚き火のように天高く真っ赤な炎が立ち上る。
あたし達を守ってくれた神の船が、何の望みも叶えることなく煙と煤となって天にのぼっていく。
悲しい声で語りかけてくる土の精霊が、自分にとってのなんであるかを知る事すらもなく。
「か、み……」
かすかに動き続けていた土の精霊の指が、ついに止まった。
神の船を求める指先と、声が。
かくり、と黒ずんだ指が地に落ちて……ぼろりと砕け散った。
あたしは、その全てを、ただ、眺めていた。