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 気丈に振舞っても、苦しそうに全身が小刻みに震えている。

 あぁ、どうしよう!! ただでさえ弱ったモネグロスの体が!

 あたしはジンを包み込む炎の円柱を見た。

 ジンの言葉が頭の中に甦る。


『頼む! お前しかいないんだ! モネグロスをまかせられるのは』


 そうだ。あたしはジンに頼まれたんだ。モネグロスを頼めるのはあたしだけだと。

 だから、なんとしても守らなきゃ! 守ってもらってる場合じゃない!


「モネグロス立てる!? ていうか立って!!」


 あたしは立ち上がり、モネグロスの腕を掴んで力任せに引っ張り上げた。


「ここから逃げるわよ! ほら早く立って! 早く!」

「うぅ、体が動かない……」

「このままアグアさんに会えなくなってもいいの!?」

「アグア!? あぁ、私の愛しいアグア!」


 モネグロスの顔に生気が戻った。よろめきながらも、なんとか自分の力で立ち上がる。

 えらい! さすがはアグアさん効果抜群! これって使えそうね、いろいろと!


 モネグロスに肩を貸しながら、あたし達は移動し始めた。

 火の精霊の咆哮が聞こえてくる。

 急いで! あのヤバイ単細胞の意識が逸れている間に、早くここから逃げなきゃ!


 突然、あたしとモネグロスの胸に緑色の紐が巻き付いた。

 えっ!? と思う間もなく、蔓はみるみる螺旋状に全身に巻き付く。

 足首近くまで巻きつかれ、あたしもモネグロスも縺れてその場に転んでしまう。


 痛い! ちょっと放してよ! なによこの蔓は! 


「ごめんなさい。ごめんなさい」


 か弱い少女のような声が聞こえた。

 土の精霊がいつの間にかすぐ後ろで、小柄な体をさらに縮めて恐縮している。


「ごめんなさい。こんな事してしまってごめんなさい」


 叱られた子どものようにシュンと縮こまった、素直そうな目。柔らかそうな頬。そして小さな手足。

 近くで見ると本当にまだ子どもだわ、この精霊って。


「これってあなたの仕業!?」

「はい、実はそうなんです」

「あっさり認めてないで、これを解きなさい!」

「ご、ごめんなさい。それはできないです。ごめんなさい」


 あたしに怒鳴られて、土の精霊はビクンと怯えて謝罪する。


「謝るくらいなら、初めからこんな事しないの!」

「ごめんなさい。でも、しかたないんです」


 土の精霊の両目に涙が盛り上がった。


「うらぎったら、土の精霊達はみんな火の精霊達に燃やしつくされます。もしそうなったら、ぜんぶわたしの責任です」


 盛り上がった涙が頬をぽろぽろ流れ落ちる。土の精霊はひっくひっくと悲しげに泣き出してしまった。


 そ、そうか。この子は仲間全員を人質に捕られてるのよね。確かにそれは気の毒なんだけど。


「でもあれってただの脅しじゃないの?」


 いくらなんでも、土の精霊全員皆殺しはないでしょう? 仲間なんだし。

 ちょっと脅して言う事を聞かせようとしただけじゃないかしら?


「ね、だからお願い。これを解いてちょうだい」

「いいえ、火の精霊は、やると言ったらほんとうにやります」


 土の精霊が首を横に振った。サワサワと豊かな長い髪が揺れる。


「火の精霊には、嘘とか中途半端とか、冗談とかはつうじないです。その中でも、特に彼にはつうじないです」

「……」

「いつでも本気しかないです。彼はそういう精霊です」


 真面目な顔で言い切る土の精霊にあたしは困惑してしまう。

 そうか。よりによって、一番短絡思考で融通利かない奴を寄こしたわけか。精霊の長が。

 でもね、この子の立場も事情も分かるけど、こっちの事情も崖っぷちなのよ!


 モネグロスは倒れた拍子に、またグッタリと力を失ってしまった。

 一切の応答の無くなったジンも心配だし、どっちも切羽詰ってるのよ! 一刻の猶予も無い!

 いっそこの子を、尖ったヒールの先で思いっきり蹴り飛ばして逃げ出そうか。


 あたしは自分の踵と土の精霊との距離を目測で計算し始める。

 すると土の精霊が、チラチラと横目で火の精霊の様子を伺い始めた。

 そして小声でひそひそと話しかけてくる。


「だから、わたしを攻撃してください」

「え?」

「その人間の武器で、わたしを思いきり蹴ってください」


 心の中を読まれたのかと驚くあたしに、ひそひそ声は続く。


「わたしは気を失ったふりをして、蔓をゆるめます。そしたら逃げてください」


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