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(3)

「モネグロスはそのまま放置せよとの、王の言葉」

「え!? な、なんてせすって!?」

「自分は神になど何の用も無い。邪魔だから捨て置けとの言葉。ゆえに、モネグロスは連れて行かず」


 モネグロスの腕からスッと力が抜けた。

 彼の顔は強張り、蒼白になっていた。

 言葉ではとても言い表せない、深く傷付いたその表情を見てあたしの胸は鋭く痛む。


 仮にも神として信仰を集め、崇め奉られていたモネグロス。その自分に対して

『何の用も無い』『邪魔だから捨て置け』

 しかもその言葉は、自分がこよなく愛した人間の口から吐かれた言葉。


 あたしの脳裏に、再び苦悩の記憶がフラッシュバックする。

 彼があたしに向かって吐き捨てた数々の別離の言葉。

 もうあたしは彼にとっていらない存在。それどころか邪魔でしかない存在。

 生涯を共にと信じて愛した相手の口から吐かれたとは思えない言葉。


「最低……」


 今度はあたしがモネグロスを抱きしめた。その頭をこの胸に、強く強く抱きかかえる。

「最低よ!! 狂王は最低だわ!!」


 そんなあたしの叫びに耳も貸さず、火の精霊は淡々としている。


「我々精霊は、神よりも人間と共に生きてこそ意義が有り。これは長の意見」

「ふん」

 ジンは冷たく笑った。


「アグアを幽閉するような人間と、仲良く共存しろと?」

「おそらく長には長なりの思惑が有り。我らは長に従うべし」

「土の精霊、お前はどう思う?」


 急に話を振られて驚いたのか、土の精霊が息を呑んで体を固くした。


「お前達は、水の精霊達と親密だったよな。どう考えているんだ?」


 土の精霊は落ち着きの無い様子で両手の指をモジモジさせる。

 そして俯きながら、可愛らしい声で話し始めた。


「アグアは、その、かわいそうです。とてもかわいそうです」

「そうか。そう思うか」

「はい。なんとかしてあげたいです。だから風の精霊のきもちが、よくわかります」

「……うん」


 ジンの声は少し柔らかくなった。

 それに安心したように、土の精霊の表情も落ち着く。


「あ、あの、火の精霊。風の精霊やモネグロスを、たすけてあげられませんか?」


 小さな土の精霊が、大きな火の精霊を見上げる。

 でも火の精霊は無言のままだ。幼い彼女はその無表情に向かって、懸命に話し続ける。


「わたしは、アグアをたすけたいです。だから…」

「長を裏切れと?」

「い、いえ。そうじゃないです」


 土の精霊がプルプルと首を振ると、豊かな緑の髪が大きく揺れて、木々の葉が擦れるような音がした。


「ただ、すこしだけ、見なかったことにできませんか? すこぅしだけ、風の精霊達に、気がつかなかったことに…」

「黙れ」


 凄みのある恐ろしい声が火の精霊の口から飛び出して、土の精霊の体がビクッと跳ねた。


「それ以上言うと、この場でお前を跡形も無く燃やし尽くす」


 それまでの無表情とは打って変わって、怒りの表情になった火の精霊に土の精霊が怯えている。


「我ら火の精霊が、全ての土の精霊を焼き尽くすがそれでも良いか?」

「そ、そんな!!」

「それでも長を裏切ると言うか?」


土の精霊は恐怖に満ちた顔を両手で覆い、シクシクと泣き出してしまった。


「おい少し冷静になれよ火の精霊。土の精霊相手に凄んでも何もならないだろうが」


 飄々としたジンの声に、火の精霊が険しい表情を向ける。でもジンは素知らぬ振りだ。


「火や水や土。人間達の生活は、オレ達精霊がいなければ成り立たないんだぞ?」

「それが?」

「だから一致団結して人間に反旗を翻すんだ。そうすれば人間達も目が覚める。これは雫の意見だがな」


 火の精霊がまた無表情になっていく。そしてチラリと赤い瞳があたしを見た。

 な、なんか不気味、この人。

 この無表情さ加減が、なんとも底の見えない怖さを演出してる。


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