表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/182

(2)

「あ、あたしここで留守番してるわ! いってらっしゃい頑張って!」


 その場にペタンと正座して、あたしは右手を振った。

 モネグロスが慌ててあたしの前に座り込み、手をギュッと握る。


「し、雫! いいえ私は決してそんなつもりでは!」

「ううん、いいの! これが最善の方法だわ!」


 あたしを置いて行くのが一番の得策よ。

 大事なプロジェクトを前に、不安要素を抱えたままじゃ失敗する確率が跳ね上がる。

 だからどうかそんなに気を使わないで。


「不安要素だなどと! 雫は我らの大切な仲間ですよ!」

「ありがとうモネグロス」


 モネグロスが真摯な表情であたしの手を強く握った。あたしもその手を強く握り返す。

 そりゃあ、元の世界に戻れるかどうかが懸かってる問題だもの。

 あたし自身も行けるものなら一緒に行きたい。言い出した責任も、モネグロスをけし掛けた責任もあるし。

 でも足手まといの事実に変わりは無い。


「モネグロスの気持ちだけで充分よ」

「共に行きましょう雫! 雫も安全に潜入可能な方法を探しますから!」

 モネグロスがジンを振り返った。

「きっとジンが良い手立てを考え出してくれますよ!」

「またオレかよ」


 やれやれとジンが軽く頭を振った。


「だが雫、実際お前には着いて来て欲しい」

「え? あたしに? どうして?」

「それは……」


「王がお前と会う事を望んでいるゆえだ」


 ……誰!?


 突然、第三者の声が聞こえた。

 声のした方向に、いつの間にか赤と緑のふたつの影が並んでいる。

 それは人間とは異質な、でもとても自然な存在感を持つふたつの影達だった。

 この感覚は、精霊? きっと精霊だ。


 片方は燃え上がるような真紅の髪と、同色の瞳。

 雄々しく、猛々しい顔つきの長身な赤い精霊。


 もう片方は濃い緑色に少し茶が混じった、豊かな長い髪。

 とても小柄で幼い顔立ちの、まるで子どものような緑の精霊。


 その精霊達は少し離れた場所でこちらを見ていた。

 赤い精霊は動じない様子で、威風堂々と。

 緑の精霊はジンと赤い精霊を見比べながら、落ち着かない様子で。


「火の精霊と土の精霊か」

「風の精霊よ、王と長の命によりお前を迎えに来た。おとなしく我等と共に来るべし」


 ジンは何も答えずに黙ったままだ。

 両者の間に流れる緊迫感で、これが友好ムードじゃない事がハッキリ分かる。

 精霊達の中でジンに協力してくれる者はもう誰もいないはず。

 じゃあやっぱりこのふたりも敵側?


「どういう事だ?」

 ジンが静かに問いかける。

「狂王がこいつに…雫に会いたがっているとは、どういう事だ?」


 え? 狂王があたしに会いたがってる?

 あ、そういえばさっき、何かそんなこと言ってたわね!

 や、やだ! なんで狂王みたいな変質者があたしに会いたがるのよ!?


「王はその人間に興味が有り。理由は不明」

「なぜ狂王が雫の事を知っているんだ?」


 そ、そうよ! まだ会った事も無いんだから知ってるはずないのに!

 その得体の知れない不気味さが、さらに変質者パワー全開だわ!


「大地はどの世界とも繋がっているゆえ」

「あぁ、そうか。土の精霊か」

「土を通して、お前達の動向は全て承知」


 ジンが土の精霊を見た。

 少女のような土の精霊が、オドオドと顔を逸らして視線を避ける。


「風の精霊よ、我らと共に城へ行くべし。その人間の女を連れて」


 火の精霊が赤い瞳であたしを見る。そのなんの感情も見えない表情にあたしはゾッとしながら叫んだ。

「絶対嫌よ! 城へ行くなんて!」


 あ、いや、城に行く事自体は別にいいのよ。これから行こうとしてたところだったし。

 ただ、狂王の所に行くのが嫌なのよ! しかもあんた達と一緒なんて絶対に嫌!

 わざわざ変態の顔を見に行くほど、あたしは暇でも物好きでもないわ!


「雫は絶対に渡しませんよ! 私はもう二度と、大切なものを手放しはしない!」

 

 そう叫んだモネグロスが、あたしを庇うように抱きしめる。


「どうしてもと言うなら、私も連れて行きなさい! 私は王に話があるのです! さあ、城まで案内しなさい!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ