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火と土と風の戦い(1)

 う……あ……。


 ポカリと開いた両目に、真っ青な空が見えた。

 ここは、どこだっけ?


 ……は!? そうだ、ジン!? モネグロス!?


 起き上がろうとした体が、異様に重たいのに気が付いた。

 ジンの体があたし達を守るように、あたしとモネグロスの体の上に覆い被さっている。

 あんな大変な状況で、あたし達を庇ってくれたのね!


「ジン! ジン!」

「うぅ……」


 ジンの体が身じろぎした。

 無事に意識が戻ったようで、両手をついて体を起こしながら頭を振っている。


「ジン!」

「し、ずく?」


 ぼぅっと霞がかかったようなジンの目が、だんだんハッキリしてくる。


「雫! 無事だったか!?」

「う、うん! ジンこそ大丈夫!?」

「オレは平気だ。モネグロス! おいモネグロス!」

「うぅ…アグア…」

「モネグロス! 無事か!?」

「あ……ジン、雫。えぇ、大事は無いようです」


 モネグロスがゆっくり体を起こす。その大丈夫そうな様子を見てジンが安堵の溜め息をついた。

 良かった。みんな無事だったんだ。どうなる事かと思ったわ。

 あたしも一息ついて周りを見渡した。


 抜けるような青い空。その空を突き刺すようにそびえる、遥かな連峰。

 山の頂は白い雪化粧で美しく覆われている。

 磨いた鏡のように澄み切った湖水。水面に青空と山の姿が綺麗に写りこんでいる様子は、まるで写真のようだ。

 地面はたっぷりと緑色で覆われ、赤と紫の可憐な花が一面に揺れている。

 湖を囲むように並び立つ、背の高いたくさんの木々。

 空気は澄み渡り、可憐な小鳥のさえずりが聞こえてくる。


 なんて美しい風景だろう。

 あたしは息をするのも忘れるほどに、その景観に魅入られた。


「どうやら無事に着いたな」

「森の人間の国? ここが?」

「ああ、間違いない」

「素敵ね。とても綺麗だわ」

「神達が、人間に最も住み良い環境を与えたのさ。惜しげも無い愛情でな」


 その冷たい口調に、あたしは我にかえる。

 そ、そうだった。あまりの景観の素晴らしさに、ついスイスあたりに観光旅行でもしてるような気になっちゃったけど。

 ここは敵地。狂王の治める人間の国なんだったわ。


「ここにアグアが捕らえられているのですね」

 モネグロスが感に堪えないような声を出す。

「神の船よ、ありがとう。着きましたよ」


 その言葉であたしは思い出した。そうだ、船! 船は!?


 見れば船は、かなりボロボロだった。

 番人に破壊された部分と、突っ込んで壊れた部分がもう、ぐちゃぐちゃ。

 お世辞にもまっとうな船の形を成しているとは言えない。可哀想に、こんなひどい状態になってしまって。


「ね、ねぇ。まさかこのまま廃船なんて事には」

「ならないさ」

「私の力が戻り、砂漠に帰れば全て元通りですよ」

モネグロスの手が、大事そうに船を撫でる。

「神の船よ、共にアグアに会いましょう。そして、皆と共に砂漠へ帰りましょう」


 うん、そうよね。

 あたし達を身を挺して運んでくれた神の船。絶対に、このままの姿になんてしておかないわ。

 きっときっと元通りに直すから。


 あたしも船を優しく撫でた。疲弊しきって眠っている感覚が、手の平を通して伝わってくる。

 ゆっくり休んでね。本当に本当にありがとう。


「さてと、これからどうするか」

「決まっています! 一刻も早くアグアの元へ!」

「慌てるなよ。まずは無事に城内に入り込めるような案を練るのが先決だ」

「いえぜひ慌てましょう! すぐにも城へ行きましょう!」

「頼むから落ち着けモネグロス」


 ジンがモネグロスの両肩をポンポンと叩く。


「慎重に行動しよう。それが一番だ」

「実体化を解けば、我々の姿は人間には見えません! きっと誰にも見咎められる事なく城内に入れます!」

「雫はどうするんだ?」

「あ…」


 モネグロスが、口をパカリと開けてあたしを見た。あたしも同じように口を開けてふたりを見る。

 そうだ、あたし、実体化解けないわ。


 あたしはふたりの視線を受けてオロオロしてしまう。

 ど、どうしよう。これって足手まといって事?

 だってあたしさえいなければ、ふたりはすぐにでも城内に潜入できるのよね?


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