(9)
「船さん! 船さんお願い起きて!」
手の平が腫れそうになるくらい必死で床を叩く。
その間にも番人の砕けた部分は、あっという間に再生していく。
焦ったあたしは声を限りに叫んだ。
「あの向こうに、人間の国にアグアさんがいるのよ!!」
―― ボウッ!!
その叫びに反応するかのように船体が光った。
そしてユラユラと大きく揺れたかと思うと、高速船も真っ青なスピードで球体に向かって突進し始めた。
す、すごい! アグアさん効果抜群!
後ろを振り返ると、ほぼ再生を終えた番人が立ち上がりかけていた。
どうしよう! 間に合わない!?
すると立ち上がった番人の体が、中に巨大バルーンでも仕込んでいるみたいに、お腹のあたりから急激に膨らみ始めた。
そして耳をつんざくような破裂音が響き渡り、あたしは思わず両手で耳を押さえる。
番人の全身が、跡形も無く爆風で吹き飛ばされてしまった。
『今だ! 走れ! 飛べ!!』
ジンの声が響いた。
同時に後ろから台風のような追い風が巻き起こる。それに乗って、まさに飛ぶように走る神の船。
背後の砂地がまた小山のようにみるみる盛り上がる。
それが番人の体を形成しながら、船を上回るようなスピードで追いかけてきた。
うわあぁしつこい! まだ諦めてないの!?
「急いでー! 船さん負けないでー!」
神の船の名にかけて、はにわなんかに負けちゃだめー!
狂気のように疾走する船。すさまじい風の勢いに、体が船の外に飛ばされてしまいそうになる。
あたしは左腕で、今にも吹っ飛ばされそうなモネグロスの体をガシッ!っと押さえ込んだ。
そして右腕で、割れて突き出た板に死に物狂いでしがみ付く。
どんどん距離を縮めてくる番人。
追いつかれる! もっと速く! 速く速く速くーー!
その時、形の定まらない巨大スクリーンのように、透明な球体が歪んで広がり始めた。
識別不能な歪んだ色彩が大きく広がりこちらに伸びてくる。
船はそれに向かって一直線に驀進する。
もう少し! あともうちょっと!
突然頭上が薄暗い影に覆われた。
振り向くと、番人の巨大な手の平が頭上を完全に覆っている。
ああ! ついに追いつかれた!
唸るような風の音が走り、番人の手が粉々に砕け散った。
飛び散る砂の塊に押されるように、実体化したジンの体が吹き飛ばされてこっちに飛んでくる。
「ジンーーーーー!!」
ジンの銀の両目があたしを捉えた。
その両手があたしに向かって差し出される。
ジン! ここよ!
ジンの腕が、あたしの体を守るように強く抱きかかえたと同時に、神の船は人間の国の入り口に思い切り突っ込んでいった。