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 なに!? なにー!? 体が吹っ飛ばされるーー!

 と思った瞬間、ジンがとっさにあたしの手首を掴んでくれた。

 強く握られた手首と腕の付け根が、外れそうに痛む。

 船は横倒しの体制のまま勢い良く砂に激突しそうになった。


「きゃあああーーー!!」


 ジンの銀の髪がザアァ!と逆立った。

 足元から強烈な風が渦巻き、服が風をはらんでバタバタと音をたてる。

 体が吸い上げられそうな強烈な風が顔に当たって、息ができない。


 その風に助けられ、ぶわりと船体が浮き上がる。

 横倒し状態からなんとか正常な体制に戻った。

 そしてズウン! と砂地に船底が叩き付けられた反動で、あたしは今度こそ床にスッ転んでしまった。


 痛…。な、何が……?


 顔を顰めながら上体を起こし、慌てて状況を確認すると、すぐそばでジンがふわりと宙に浮いていた。

 ジンの視線を辿ると、船の前方に砂丘がこんもりと盛り上がっている。

 あれにぶつかったのか。でも今まで平坦な砂地ばかりだったのに、何でいきなり?


「いきなり何事ですか!?」

 モネグロスがおでこに手を当てながら、船室から飛び出してきた。


「モネグロス、大丈夫だった!?」

「床に放り出されて目が覚めました! 何事です!?」

「あれだ」


 ジンが砂丘を指差した。それを見たモネグロスが、あっと声を上げる。


「あれは!」

「なに? あれはなんなの?」

「以前に私が作った、番人です!」

「番人? なにそれ?」

「聖域に人間が不用意に入り込まぬように、番人を配したのです」


 おでこを撫で摩りながら、モネグロスが思い出したように言う。


「しかし作った時より一度も会っていないので、存在をすっかり忘れていました」

「あんたねぇ……」


 文句を言おうしたら、砂丘がどんどん盛り上がっていくのが見えた。

 みるみると小高い山のように、あっという間に船の大きさを遥かに上回るほどの大きさになる。


 あ……あぁ……。


 あたしは恐怖と共に呆然と砂山を見上げる。

 ざああっと山の天辺から砂が大量に流れ落ち、中から番人の姿が現れてきた。

 ついに全容を現した番人の姿は、まさに巨大な…

 巨大、な……。


 はにわ?

 これ、もろに「はにわ」だわ。


 のぺっとした凹凸の無い全身と、見事に省略化された単純な手足。

 そして顔の部分は、両目と口がぽっかり開いた丸い穴みっつ。

 可愛いといえば言えなくもない。けど、モネグロスのセンスってすごく微妙なラインかも。


 そのはにわ君が、あたし達に向けて無表情にゆっくりと右手を上げた。

 あら意外と愛想良しね。挨拶してくれるのかしら、と思ったら。

 ものすごい勢いで、その手を船めがけて振り下ろしてきた。


 ちょ、危な……!!


 ジンの突風が巻き起こり、船が宙に浮いて後方に移動する。

 番人のぶっとい腕が空振りして、間一髪で叩きのめされるのを免れた。


「あ、危な! なにこのはにわ君、完全に戦闘モードじゃないの!?」

「番人は、無条件に人間を排除するように作りましたから」

「人間? 人間って…」


 モネグロスとジンの視線が、一気にあたしに集まった。

 ……あたしかっ!!?


 冗談じゃないわよ! はにわに排除されるいわれは無いわ!

 確かにあたしは人間だけど、一応水の精霊の仲間でもあるのよ!


「そこらへんをちゃんと認識させてよ!」

「それは無理です。あの番人には、そこまでの知能はありませんから」

「なんでそんな中途半端に作ったのよ!?」

「複雑な思考が可能な物は、製作に非常に時間がかかるので」

「で!?」

「あの、途中で、面倒くさく、なりまして」

「おーまーえーはぁぁ!!」


 あたしはバツの悪そうな顔をしているモネグロスを、青筋立てて怒鳴りつけた。


「始めた仕事は、最後まで責任をもってやり遂げなさい!!」


 なんでこんな、新入社員へのお説教みたいな小言を言わなきゃなんないのよ! 神様相手に!


「で、でも大丈夫ですよ! 安心してください!」

「何をどう安心するのよ!?」

「創造主たる私が命令すれば、番人は消え去りますから!」

「じゃあ早く命令して! あたしを排除する気満々の、あのはにわ君を退去させてよ!」


 モネグロスは船の縁に近づき、両腕を大きく広げて、番人に向かって厳粛な声で語りかける。


『砂漠の番人よ。我の名はモネグロス。そなたの創造主たる砂漠の神の命を聞…』


 ―― ブウン!

 最後まで聞かずに、番人はまた手を振り上げて攻撃してきた。

 ちょ!? どういう事よ!? 話が違うじゃないの!?


 ジンの守りの風が船を浮かしギリギリ攻撃を避ける。

 叩きつけた番人の腕が激しい砂埃を舞い上げて、周囲の視界を黄一色に染める。

 大量の砂を浴びて、あたしもモネグロスも激しく咳き込んだ。


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