(6)
モネグロスはもちろん、ジンにも船にも、こんなにまで慕われてる。
アグアさんってどんな精霊なのかしら。
「ねぇ、アグアさんてどんな人?」
「アグアは人間じゃない。水の精霊だ」
「いーじゃないのよ、細かい事は気にしないの」
「アグアはとても美しい精霊なんだ」
ジンが熱心に説明してくれる。
水の精霊は特に美しい者が多い。その中でも、アグアは飛び抜けて美しい精霊だった。
そして気高く誇り高く、心優しく清らかで、穢れを知らない。
あの美しさは、とても言葉では表現し切れない。
「オレはアグアほど美しい精霊を知らない」
「そうなんだぁ」
あたしは見知らぬアグアさんの美貌を思い描く。
モネグロスもあれだけ美貌の神だし、並んだらさぞかし美男美女カップルなんだろうな。
神々しそうね。会った瞬間、思わず両手を合わせて拝んじゃいそう。
「とてもお似合いなのね」
「全てにおいて完璧な組み合わせだ。神の領域だけに許される言葉なんだ。『完璧』という言葉は」
完璧なカップル。完璧な存在。完璧な一対。
片方を失えば、それはさぞかしお互いにとって悲劇だろう。
「それにしても、完璧な神、ねぇ。モネグロスがぁ?」
「こら、失礼だぞ」
「だってどうにも頼りないというか、何というかねぇ」
「モネグロスはあれでいいんだ。アグアがその分しっかりしてるから」
ふーん。姉さん女房タイプなのか。まぁ、モネグロスはその分心優しくて純粋だからね。
「足りない部分を補い合ってこその、完璧ってやつなのかもね」
「お前は本当に、神に対して敬意が無いな」
ジンが溜め息をつく。
うーん。そうかな? そうかもね。
一応、神様だって認識はしてるつもりなんだけど。
向こうの世界で、ほとんど信仰とは無縁の生活を送ってたからなぁ。
いまいちピンとこないのは事実だわ。
「あんただって人の事言えないわよ。かなり無礼だわ」
「オレはいいんだよ」
「モネグロスにだけ、特別に無礼な態度をとってるの?」
「……」
「違うの? ひょっとして、どの神様にも同じような態度? それって単に礼儀知らずなだけじゃないの」
あー、いるのよねぇ。妙にプライド高くて人に頭を下げられないヤツって。
なるほど。ジンってそういう部類なわけか。
「オレは自由な風の精霊だから、それでいいんだよ!」
「自由と一般常識の無さを、自分勝手に混同しないの。そんな理屈、社会じゃ通用しないわよ」
「…お前、アグアと同じ事を言うんだな」
「へぇ? アグアさんにも注意されたんだ?」
むすぅっと黙り込むジンを見て、つい笑ってしまった。
子どものようなモネグロスを支えるアグアさん。そして奔放すぎるジンを諌める姿。
人間じゃないけど、そんな人間味のある日常が頭に浮かんできた。
きっと、とても大切で幸せな日々だったんだ。
取り戻させてあげたい。奪われてしまった宝物の日々を。
――― ドオンッ!!
突然、立っていられないほどの激しい衝撃に襲われた。
船体が斜めになって宙に飛ばされる。