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(3)

「雫がこの世界に来た事には、何か特別な意味があるのでしょう」

「意味? どんな?」

「あなたがこの地に降りた途端、今まで膠着していた事態が急に動き始めた。だから、雫が来てくれた事は偶然ではない。きっと必然…」


 モネグロスは話している途中で急にグラリと倒れかけた。

 ジンが慌ててその体を支える。


「モネグロス!」

「だ、大丈夫なの!?」

「…ええ、大事はありませんよ」


 無理に笑って元気そうに答えてるけど、神殿にいた時よりも更に具合が悪そう。

 グッタリして全身から力が抜けてしまっている。影が…薄い?


「ね、ねぇジン。なんだか存在感まで薄くなってない?」

「やはり神殿から離れるべきじゃなかったのか」


 ジンが心配そうにモネグロスの顔色を確認しながら呟いた。


「え? そのせいで具合が悪化したの? なんで?」

「神殿は神のための場所だ。多少は守護の作用が働いていたんだろう」

「そんな」


 じゃあ、神殿から出なかったのはそのせい? 出たくても出られなかったの?

 ジンがモネグロスを引き止めようとしたのは、これを心配して?


 …あたしのせいだ。

 詳しい事情も知らずに、ただのヘタレ男だって決め付けて、男のクズだのカスだの散々罵倒して。

 無理やり引っ張り出したからこんな事になってしまった。


「モネグロス御免なさい! あたしのせいで!」

「心配ありません。きっとただの船酔いでしょう」


 そんなわけないじゃないの!

 そんなに辛そうなのに、あたしに気を使ってくれているんだ。


「本当に、大丈夫です。今ここで倒れるわけにはいきません。アグアに会うまで、私は絶対に消滅などしませんよ」


 弱った体で、それでもモネグロスの目だけは凛としている。強い強い意志と希望のたまものだろう。

 愛するアグアに会いたい。その一念。自分の消滅すら厭わない、真実偽りの無い愛だ。


「私は雫に感謝しているのです。踏み出す勇気と決意を与えてくれた。心から感謝しています」

「そんな、あたしは別に」

「ああ、早くアグアに会いたい。アグア」


 アグア、アグア。私の愛しい君よ……。


 口の中で呟いて、モネグロスはスゥッと寝込んでしまった。

 苦し気な土気色の顔が、それでもわずかに微笑んでいる。

 アグアさんの夢を見ているんだろうか。本当に、こんなにも愛しているのね。


 子どものように純粋で一途な寝顔を見て、あたしは胸が詰まって泣きそうになる。

 真っ直ぐで綺麗な心のモネグロス。アグアさんに深く愛される理由が分かった気がした。


「船室に運んでくる。少し休ませよう」

「うん。お願い」


 ジンがモネグロスを抱きかかえ、ゆっくりと船室に運んで行った。

 その背中を見送ってあたしは空を見る。

 気前良くコロナを吐き出す灼熱の双子太陽。相変わらずの尋常じゃない熱気を恨めしく見上げた

 きっとこの暑さもモネグロスの体には障るだろう。本当にこれは、彼の愛と命を賭けた船出なんだ。


 あたしの水の力で、少しでもモネグロスを癒してあげられないかしら。

 神殿から引っ張り出してしまった責任をとりたい。

 そして一日も早くアグアさんと再会させてあげたい! その日まで、できる限りのサポートをしてあげなきゃ!


 そう決意したあたしの、異世界砂漠航路の旅がその日からスタートした。


 とはいえ、何か特別な冒険忌憚があるわけでも無い。

 なにせ砂以外はなにも存在してない地域だから、毎日が特別警報クラスに灼熱な以外は、なんのトラブルも起きようハズがなく。

 順調に平穏で、ものっっすごく退屈な船旅だった。


「神の船」なんてご大層な名前の割には、呆気ないほど内装も設備もシンプルだし。

 大航海時代の船って、こんな感じかしら。なあーんにもする事が無い。

 だから最初のうち、あたしはほとんどモネグロスに付きっ切り。

 付き添い看護みたいにアレコレ世話を焼こうとしては、ずいぶん苦笑いされてしまった。


「暑くない? ノド渇かない? あ、体拭こうか?」

「そんなに気を使わなくても大丈夫ですよ。私は砂漠の神なのですから灼熱など平気です」

「無理しないでよ、モネグロス」

「雫こそ無理をしていませんか? ちゃんと食べていますか?」

「ええ、大丈夫よ。いただいているわ」


 モネグロスやジンは神様と精霊だから食事の必要は無いらしい。

 だから食べるという事に関する概念がない。

「人間は長時間食べないと、死んでしまうらしいから」って、30分おきに大量に食事を勧められて困ってしまった。

 そんなに頻繁に食べなくても大丈夫よってちゃんと説明したんだけど、それでもすごく心配されて。

 ことあるごとに「死ぬから食べろ」って言われ続けている。


 これもまた、異種族同士の理解の壁ね。

 でも思いやってくれている気持ちが伝わってきて、とてもありがたかった。


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