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 だからこそよ。

 神様に会いさえすれば事情は好転するかもって思ってたけど。

 その神様本人がこの様子なんだもの。


「ねぇモネグロス。力を取り戻せたら、あたしを元の世界へ戻せる?」

「私だけの力では無理かもしれませんが、他の神も協力してくれるなら」


 よし! 決まった!!

 やっぱり一番の近道は、神に力を取り戻させる事だわ。

 その為には森の国へ行って、狂王のネジの曲がった頭を何とかしないと。


「…どうやってだよ?」

「あんた言ったじゃないの。火種が必要だって」

「あぁ。確かに」

「あたし達がなるのよ。その火種に」


 精霊たちはみんな不満を持ってるんでしょう?

 人間達だってそうよ。圧政の下で満足してる国民なんていないわ。マゾじゃあるまいし。

 今にも不平不満が爆発寸前なはず。


 あたし達がアグアさんを奪還すれば、精霊達も奮起するわ。人間達もきっと立ち上がる。

 そうすれば、この世界の神や精霊の力が取り戻せる。


 そうなったらこっちのもんよ。

 国王ったって、しょせんただの人間だもの。神様の指シッペひとつでコロンと引っくり返るわ。

 指シッペくらい自衛権として認められるでしょ?


「そううまく事が運ぶか?」

「運ぶわよ。あんた大塩平八郎の乱を知らないの?」

「知らねえよ」

「大塩平八郎は火種になったのよ。彼の死後、火種は大きく燃え上がったのよ」


 あたしは死ぬつもりは無いけどね。

 でも、きっかけは必要だわ。どうしても。


「いやしかし、モネグロスを狂王の元へ連れて行くなんて危険な事は…」


 ―― ドォンッ!


 風の精霊の言葉は、再びホールを揺るがす大きな振動音に掻き消された。

 天井からパラパラと崩れた建材の破片が落ちてくる。


「こんな所に置き去りにする方がよほど危険よ。そう思わない?」

「う……」

「風の精霊よ、私は行きます」

「モネグロス!?」

「私はアグアに会いたい。愛しの君に会いたいのです」


 モネグロスはあたしのハンカチをぎりりと握り締め、強い決意の篭もった両目で凛と宙を見据える。


「アグアは私の全てです。この手で取り戻したい」

「モネグロス、しかしだな」

「アグアよ、私は目が覚めました! 今そこへ行きます!」

「よく言ったわ! それでこそ男よ!」


 相変わらず顔色悪いし、目の下のクマは真っ黒だけど、今のあんたは立派な男だわ。

 そうよ。あんたは、男のグズカス狂王なんかに負けちゃだめなのよ。

 他人の愛をぶち壊すようなヤツに負けちゃだめ。

 そんな裏切り者で恥知らずな害虫を、このまま放っておいてはだめよ。

 正義は行われなきゃならないのよ、絶対!


「あたしも風の精霊もついてるわ。心配しないで」

「おい、勝手に決めるな」

「なによ、あんたモネグロスを見捨てるの? あんたも裏切り者なわけ?」

「違う! そうじゃなくて、なんでお前が仕切るんだって聞いてるんだよ!」

「あんた達男共が頼りないからでしょ」


 家庭内も社会も、裏方で女が仕切らなきゃうまく回らない。

 これってどこの世界も共通なのね。女はいつでも苦労させられるわ。やれやれ。


「どうやって城に入り込むんだ? どうやってアグアの居場所を探す?」

「そこら辺の現実的な問題は、全部あんたに一任するわ」

「……おい」

「だってあたし、こっちの世界の事情なんてまるで知らないもの」


 そのあたしが作戦なんて立てられるわけないでしょ?

 そんな理屈、ちょっと考えれば分かりそうなもんじゃないの。やっぱりダメねぇ、男って。


 風の精霊はあたしにクルリと背中を向けて

「これだから人間ってのは…。いや、これは単に、こいつ固有の特性か?」

 とか何とか、ぶつぶつ言ってる。


「ちょっと風の精霊…って、いちいち呼ぶのも面倒くさいわね」

「面倒くさいとは何だ!」

「あたしが名前を付けてあげる。『ジン』って名はどう?」

「はあ? 名前だと?」


 子どもの頃に読んだファンタジー小説の登場人物に、ジンって名前の風の精霊がいたの。

 すごく強くて、とても仲間思いのカッコイイ精霊だったのよ。今でもよく覚えてるわ。


「ね、あんたにピッタリの名前でしょ? どう?」

「……」

「気に入らないかしら?」

「別に。好きに呼べばいい」

「じゃあ、あんたは今から『ジン』よ。よろしくね、ジン」


 ジンは何だか機嫌悪そうに、プイッと顔を横に背けた。

 うーん、やっぱり気に入らなかったかしら。それとも名前で呼ばれるのが、慣れなくて嫌なのかも。

 でもこれからずっと、いちいち「風の精霊」って呼び続けるのも、なんかねぇ。


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