表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/182

(6)

 うーん、それってつまり。

 お相撲さんが三歳児相手に本気で張り手を返したら、世間は大騒ぎになる。

 って事と同じような意味かしら。


 そうよね。世の中、何をしても良いわけじゃないわ。

 やって良い事と悪い事の区別はつけなきゃ、取り返しがつかなくなる。


「良識ある大人は、それをわきまえなきゃならないのね」

「そうだ」


「だからこそ、お互い相手を裏切るような行為をしてはいけないのよね」

「その通りだ」


「ましてや、長い間愛情を捧げてくれた相手を」

「あぁ。神はずっと人間を愛し続けてきた」


「なのにその相手を捨てて、ほんの短い付き合いの方を選ぶなんてっ」

「国王などより、神の方がよほど重要な存在なのにっ」


「自分達の欲望を最優先して、これまでの全てをぶち壊しにするなんて!」

「それがどれほどの大罪かも理解できない愚か者だ!」


「許せない! 人間として最低よ!」

「お前の言う通り、狂王や人間共は最低だ!」


「下劣で卑怯者! 裏切り者の人非人!!」

「まったくだ!!」


「そして汚らしい淫売と浮気者!!」

「……淫売と浮気?」


 ……あ。

 い、いけない。つい頭に血がのぼって、自分の状況と完全に重ね合わせてしまったわ。

 でも話を聞いてると、どうにも胸の傷が激しく疼いて仕方ない。

 とても他人事とは思えないわ。


「そ、それでアグアさんはどう関わってくるの?」


 冷静になるために、もう一度話題を転換する。

 モネグロスの愛する精霊。彼女は今、こんな危機的状況でいったい何処にいるの?


「狂王の手は、精霊にまで及んだんだ」

 風の精霊が険しい表情で吐き捨てる。


「火の力や水の力、全ての精霊の力を自分達の思うがままに操ろうとしたんだ」

「アグア…」


 モネグロスの両目がうるりと潤みだす。はい、ちょっと待って待って~。

 とりあえずあたしはポケットからハンカチを取り出し、モネグロスの手に押し付けておいた。

 話の要点が済むまでは、泣くのは我慢してちょうだいよ。頼むから。


「悪いことに、オレ達精霊を束ねる長が、今度の事ですっかり萎縮してしまった」

「長が、狂王を恐れているって事?」

「あぁ。なにしろ神が衰退させられたのを目の前で見ているからな。この世界の全ての精霊は、森の人間の国に集められているんだ」

「精霊は、人間の国で何をしてるの?」

「奴隷のように人間に従っている。長の命令で、国から出る事は許されない」


 人間の国から出られないって。

 あんた、居るじゃないの。今ここに。


 あたしの視線を受けて、風の精霊がフンッと鼻で笑った。


「オレは風の精霊だ。自由が信条さ。誰にも決して縛られるものか」


 銀色の髪がフワリと揺れた。見えない敵に挑むように銀の目が鋭く輝く。

 へえぇ、ちょっとカッコイイわね。少し見直したかも。


「アグアも縛られるのを良しとしなかったんだ。モネグロスの元へ戻ろうと、何度も繰り返し脱走を企てた」

「へえ!」


 すごい! そんな恐ろしい狂王に負けてなかったんだ!

 アグアさんって強いのね。同じ女として誇らしいわ!


「ただ、そのせいで狂王に目を付けられてしまった。アグアは今、狂王の住む城内に幽閉されている」

「幽閉!? 閉じ込められてるってこと!?」

「あぁ、厳重にな。逆らう精霊への見せしめだよ」


 モネグロスはあたしのハンカチで顔を覆い、全身を震わせてか細い声で泣いている。

 なんて可哀想。アグアさんは、ただ愛する男の元へ戻りたいだけなのに。

 砂漠と水というお互い必要不可欠な存在を、我欲や、見せしめって理由だけで引き裂くだなんて。


 ほんと恥知らずね、狂王って! まるっきり自己中な、ただの暴君じゃないの!


 本当に人間って、地位と権力を手にするとロクな事にならないわね!

 うちの社長も父親の跡を継いで社長になった途端に、したい放題!

 何をカン違いしてんのか、社員食堂のメニューや慰安旅行の部屋割りにまで首突っ込んできやがって!

 地域の二代目ボンボン仲間と、商工会議所で談笑でもしてりゃいいのよ! おとなしく!

 トップの人間が始末におえないと、周りの皆が不幸になるんだわ!

 バカ王が!! 冷静になるどころか、ますます腹が立ってきた!


 だいたいねぇ、愛し合う仲を引き裂くような人間に、ロクなヤツはいないのよ!

 常識やモラルから逸脱した欠損人間なのよ! 社会にとって害悪しかもたらさない害虫なのよ!

 そんな人間、どーんと天罰でも仏罰でも下してやればいいんだわ!

 害虫駆除に遠慮は無用! 盛大にブチかましてやりゃいいのに!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ